「試験前だから、そろそろ本腰を入れて勉強したい。でも、身が入らない」
「論文の執筆に本格的に集中したい。でも書くのが苦手で、どうにも面倒くさい」
このように、
- 勉強しようにもなかなかスイッチが入らない人
- 最初は頑張れても長続きしない人
- 苦手な分野にモチベーションが上がらない人
は、今回ご紹介する「勉強のエンジンを全開にする方法」を試してみましょう。6つのアプローチをご提案します。
勉強へのやる気につながる、6種類の動機
小学生向け学習塾を運営する菊池洋匡氏と秦一生氏は、やる気を出すには、具体的な学習動機が必要だと断言しています。「試験でいい点をとりたい」「就職活動に活かしたい」など、勉強をしようと思う動機はいろいろとありますよね。あなたのやる気が出ないのは、学習動機を適切にもつことができていないからだと言えるのです。
『学ぶ意欲の心理学』著者で東京大学名誉教授の市川伸一氏によれば、やる気のもととなる学習動機は次の6種類に分類できるそう。
- 報酬志向(ご褒美のために勉強する)
- 自尊志向(競争心やプライドを満たすために勉強する)
- 関係志向(みんなとやるために勉強する)
- 実用志向(生活へ活かすために勉強する)
- 訓練志向(賢くなるために勉強する)
- 充実志向(楽しむために勉強する)
市川氏いわく、6つのうち1つでも動機が明確になれば、勉強へのモチベーションが出てくるとのこと。以下では、各動機の上手な見つけ方を紹介します。自分に合ったものを見つけてくださいね。
【1】自分へのご褒美を用意する
市川氏は、有効な動機づけのひとつとして、報酬のような外的アクションを挙げています。小さい頃に「成績がよかったらゲームを買ってあげる」と言われて、勉強を頑張った経験のある人もいるのではないでしょうか。
ご褒美があるとやる気が出るのは、子どもも大人も変わりません。「テストで目標のスコアがとれたら欲しいものを買う」「一定時間勉強できたらスイーツを食べる」といった報酬を用意するといいでしょう。
一方、報酬志向には危険性も。東京未来大学学長の角山剛氏は、報酬のみを目当てにした行動は “強制” に近いと言います。ご褒美のためだけに勉強をしていると、自発的なモチベーションは低くなってしまうそう。
そのような事態を防ぐには、報酬を「自分へのプラス評価」ととらえることが大切だと角山氏は述べています。ご褒美は、頑張った証。ご褒美そのものに気をとられるのではなく「今日はこれだけできたから、ケーキを食べよう」というように、達成度や成長内容にも目を向けると、やる気を維持しやすいでしょう。
【2】ライバルと競争や比較をする
スポーツやゲームなどで競争に慣れている人には、勉強でもライバルをつくって競争するのがおすすめです。「相手に負けたくない」という気持ちが、勉強の原動力になりえます。
金沢工業大学教授の山田裕憲氏が、大学生の学習意欲を維持する方法を検討する研究を行ないました。その研究で、大学1年生に1週間ごとの行動記録を学内サーバーへ共有させ、授業内でデータを公開したところ、ほかの学生の学習状況を見て危機感を抱いた人が多かったとのこと。そして、「負けたくない」という競争心から、危機意識をもった学生たちの勉強時間が増えたのだそうです。
競争するものは、テストの点数のほか、勉強時間、テキストの進度や論文の進捗など、いろいろ考えられます。日々の勉強をうまく競争形式にして、やる気をかき立てましょう。社会人であれば、同じ勉強目標をもつ同僚と成果を比べるなどするとよいかもしれませんね。
【3】誰かと一緒に勉強する
ひとりで勉強しても気が乗らないのなら、真剣に勉強する人たちが集まる場所へ足を運んでみるのはいかがでしょうか。やる気あふれる人が近くにいるだけで、自分もやる気になれるからです。
「やる気は、まわりの人に伝染する」――この事実を明らかにしたのは、カナダのアルバータ大学で心理学を研究するT. キャメロン・ワイルド氏。実験で、ふたつの学生グループにピアノのレッスンを実施し、片方のグループには「講師へお金を払って来てもらっている」、もう一方には「とてもやる気のある講師がボランティアで来てくれた」と伝えたそうです。
するとレッスン内容は同じだったにもかかわらず、後者のグループの生徒たちのほうが熱心に学習したという結果に。先生にやる気があると知って、学生にもやる気が伝染したのですね。
勉強場所は自習室のほか、図書館なども向いているでしょう。スクールへ通うのもよいかもしれません。まわりの人のやる気が自分へ伝わって、モチベーションが上がるはずです。
【4】勉強と実生活を結びつける
「この勉強、本当にやる意味があるのだろうか……」と疑問に感じたことはありませんか? そんな人は、勉強と自分の生活を結びつけてみましょう。学習内容が実用的だとわかれば、やる気も一気に出てくるかもしれません。
桐蔭横浜大学学長の溝上慎一氏は、大学生が実用的な勉強には意欲的であることを示唆しています。溝上氏の研究によれば、さまざまな大学の学生が「将来やりたい仕事で役に立ちそうだから」「資格をとりたいから」といった理由で、学校以外でも勉強をしているとわかったそう。
また前出の市川氏も、学習内容が自分の将来に関わることを知れば、学ぶ意欲は高まるだろうと述べています。
みなさんも、学習内容が、興味のある分野や今後の仕事と結びつかないか考えてみてください。たとえば、上司に言われて簿記を勉強しないといけないけれど、やる気が出なくて困っているなら、「いまやっている経理の仕事をより正確に理解するため、簿記の勉強をする」のように自分事としてとらえれば、意欲をもちやすくなるはずです。
【5】過去の自分と比べる
「頭のいいあの人に比べて、自分は勉強ができないし……」と考えると、勉強意欲は減退してしまうもの。これに心当たりがある人は、過去の自分といまの自分を比較するようにしましょう。
精神科医の樺沢紫苑氏は、他人と自分を比べることは人間の本能であるものの、そればかりしていると自分の欠点にますます目が向いてしまうと言います。大事なのは、自分の成長具合に目を向けること。
過去の自分といまの自分を比較して、「前回のテストよりも10点上がった」「先週よりも5時間多く勉強ができた」といったように成長を実感できれば、モチベーションもアップしやすいそうです。
市川氏も、「できなかったことができるようになる」「わからなかったことがわかるようになる」という経験を積み重ねると「もっと勉強してもっと賢くなりたい」と思えるようになると言います。
成長実感をやる気につなげるために、小さなことでもかまいませんので、勉強で達成できたことを記録してみましょう。
【6】勉強を楽しみ、好きになる
「やらされている」という義務感から勉強に向かっても、やる気は出てきません。勉強が楽しければやる気は自然と出てくる――そう述べるのは、企業研修を手がける株式会社らしさラボ代表取締役の伊庭正康氏です。
また、教育事業の株式会社カルぺ・ディエム代表で、現役東大生として『東大思考』など多くの書籍を著してきた西岡壱誠氏は、納得できない勉強法で勉強していることが義務感の一因だと指摘。勉強を好きになるためには、「自分が納得できる勉強法を探すこと」が大切だと言います。
西岡氏の調査によれば、「勉強が好き」と言う東大生の約7割が「もともとは勉強なんて嫌いだった」のだそう。彼らの多くは、オリジナルの勉強法を模索して実践していくうちに、楽しさを見いだしたようです。
みなさんも、最初は実験感覚でかまわないので、自分なりの勉強法を探して取り組んでください。たとえば、この記事で紹介してきた方法を、ひとつひとつ試してみるところから始めてはどうでしょうか。
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6パターンある勉強の動機に沿って、やる気の出し方をご紹介しました。ひとつだけでなくいくつかの方法を組み合わせれば、やる気をより維持しやすくなりそうですね。あなたの性格や状況に合った方法を選んで、試してみてください。
(参考)
幻冬舎ゴールドオンライン|「勉強しない子」のやる気を爆上げする3つのアプローチ
市川伸一著 (2010), 『学ぶ意欲の心理学』, PHP新書.
株式会社 日立システムズ|【第17回】報酬はやる気を削ぐ?内発的モチベーション
山田 裕憲 (2012), “技術者導入教育における学習意欲の向上 : グループ学習と競争意識の効果,” 工業教育研究講演会講演論文集, pp.640-641.
SAGE journals|Effects of Perceived Extrinsic Versus Intrinsic Teacher Motivation on Student Reactions to Skill Acquisition
溝上真一 (1996), “大学生の学習意欲,” 京都大学高等教育研究, Vol.2, pp.184-197.
図書文化|月刊誌 指導と評価 2002年5月号
ダ・ヴィンチニュース|他人と自分を比べて落ち込んでしまう、嫉妬してしまうストレスからフリーになるには
東洋経済オンライン|ドラゴン桜で理解「東大生が勉強好きになる秘密」
【ライタープロフィール】
藤真 唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいてわかりやすく伝えることを得意とする。