自分のしたいことがわからなくて、なんとなくモヤモヤする。仕事が忙しいせいで自分と向き合う時間がとれず、漠然とした不安にいつもつきまとわれている。
そのようにして晴れない気持ちを抱え続けていたら、いつしか、自分の心が本当に見えなくなったり、大切なことを見失ったりしてしまうかもしれません。
そんな状況を少しでも改善し、より自分らしく生きるための方法をご紹介します。
現代人は生きがい不足?
あなたの正体不明のモヤモヤは、「生きがい」不足によるものかもしれません。
広辞苑では「生きがい」はこう定義されています。
- 生きるはりあい
- 生きていてよかったと思えるようなこと
生きがいがないと、生きていることの意味を見いだせなくなったり、満たされない感覚を抱えたりすることになるのです。
しかし現代は、人生に生きがいをもつのが困難な時代でもあります。年金シニアプラン総合研究機構が2018年に公開した調査では、会社員・公務員の5割以上が「生きがいがない」と感じていると示されました。
家も、食べ物も、服も十分にもっている私たちですが、なぜ「生きていてよかった」と感じにくいのでしょうか。
オーストリアの精神科医で心理学者のヴィクトール・フランクル氏は、現代人の不足感を「実存的空虚」と表し、アラートを鳴らし続けていました。実存的空虚とは、簡単に言うと、生活に困らないのにむなしい、生きている意味がわからないといった感覚のこと。
仕事に励んで毎日頑張って生きているのに、なんだかむなしい。たくさんもっているのに、何かが足りない。自分らしさっていったいなんなのだろう――そんな気持ちを抱えているのであれば、まさしく生きがいを見失い、実存的空虚にさいなまれていると言えるでしょう。
「本心」を知る方法とは
生きていてよかったと思えるようになるために、まずご自身について考えてみてください。あなたは日頃、「やりたいこと」よりも多くの「やらなければならないこと」に追われていませんか? つまり、「自分で選んだ行動よりも、人に言われたことを優先させなければいけない」という生活が当たり前になっていないか、ということです。
「やらなければいけないこと」を優先させればさせるほど、「やりたいこと」があったことすら忘れてしまう……そんなループにはまっている方もいるはず。心理カウンセラーの浅野寿和氏は、自分を見失っている人ほど、自分の価値観ではなく他人に合わせて生活していると指摘します。
ではどうしたら、人に言われたことより自分で選んだことを優先できるようになるのでしょうか。そこで試したいのが、「やりたくないこと」と「やりたいこと」を100個ずつ書き出すという方法です。
なぜ「やりたいこと」だけでなく「やりたくないこと」も書き出す必要があるのか。経営コンサルタントで作家の神田昌典氏は、著書で次のように述べています。
常識的な成功法則の本では「やりたいことを明確にしなさい」というアプローチをとる。ところが、やりたいことは、自分では自覚していなかったり、世間体に影響されてしまっていることが多い。
(引用元:神田昌典(2011),『非常識な成功法則』, フォレスト出版. ※太字は引用にあたり編集部が施した)
やりたくないことを明確化することによって、本当にやりたいことが見つかる。あなたの潜在的に思っている願望を引き出してくれる「やりたくないこと」「やりたいこと」を突き詰めていくと、一体、自分が、何のために生きているのか考え始める。それは「ミッション」(使命感)と言われるものだ。人生上の目的意識と言ってもいい
(引用元:同上)
自分らしく生きるのなら「やりたいこと」だけを探ればいい……と考えがちですが、「やりたくないこと」も本心のもうひとつの側面なのですね。
また、「100個」書く理由は、自分が気づいていない本心をえぐり出すため。戦略・事業開発コンサルタントでアート思考研究会代表幹事の秋山ゆかり氏によれば、100個書こうとすればおのずと、ものすごく考えなくてはならなくなるので、それが自分の気持ちを探るのに効果的なのだとか。
「やりたくないこと」と「やりたいこと」100個書き出してみた
「やりたくないこと」と「やりたいこと」を100個も書き出す効果は本当にあるのでしょうか? 実際に筆者が試してみました。
神田氏が述べていたように、まずは「やりたくないこと」のリストから書くことに。
筆者の場合、これだけでも書き終えるのに2時間近くかかってしまいました。30〜40個ほどでペンが止まり「これ以上は思いつかない……」という壁に当たったのです。
しかし、何度ペンが止まっても「どんなときに怒りを感じる?」「どこに・誰といると疲れる?」などと問いかけ続け、最後は絞り出すようにしてどうにか100個達成。リストの後半では、より自分の本心を表す重要な項目が出てきたので、100個書くことの意味を実感できました。
次に、「やりたいこと」を100個挙げました。
これも意外なほど時間がかかりましたが、「やりたくないこと」と「やりたいこと」は表裏一体であると気づいてからは、スムーズに進みました。たとえば、「嘘をつきたくない」は「本心だけを話したい」に。「窮屈な靴を履きたくない」は「足に合った靴を履きたい」に変換しています。
また、こちらのリストを書く際もやはり「これ以上出せない」というタイミングがきたのですが、「理想の家の立地、隣人、間取りは?」「理想の生活では、起きてから寝るまで、誰とどんな行動をしている?」など、いろいろな方向からの自問によってするすると書くことができました。
そして、一見些細なことも含め、カテゴリー分けをせずに思いつくままに書き並べていくと、家族と住まいに関する項目が多いことに気づき、これこそ自分が最も大切に思っていることなのだとわかりました。隠されていた自分の価値観が掘り起こされたような感覚です。これぞまさしく、「生きがい」として生涯大切にすべきことではないでしょうか。
「やりたくないこと」「やりたいこと」リスト作成後の生活の変化
「やりたくないこと」のリストをつくったあと、ある変化がありました。リストに書いた事態に実際に遭遇したとき、「あ、これはやりたくないことだった」と客観視することができたのです。
自分の苦手なものを認識するだけで一歩離れるという選択肢をもてますし、たとえ離れられない場合でも、「無理しなくていいよ」と自分に優しくなれると感じました。ストレスの要因になりうるものを認識することは、心をモヤモヤさせないという点で大切だと思います。
また、「やりたいこと」のリストをつくることで、気持ちが前向きに変わったように感じました。私たちは「いまこの瞬間がすべて」と思いがちですが、「やりたいことがこんなにある。だからいまを大事にしながらも未来に向かっていくんだ」という広い視野をもつきっかけになりました。
「やりたくないこと」「やりたいこと」という双方の観点から本心を知ることで、見えなくなっていた自分らしさを垣間見ることができたように思います。
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モヤモヤは「もっと自分をよく知りなさい」というお知らせのようなものかもしれません。そう考えると、モヤモヤとも大切に向き合うことができるはず。あなたも「生きがい」を見つけてくださいね。
(参考)
Yahoo!ニュース|社員の半数は生きがいすらないという衝撃的事実をどう受け止めるか~「生きがいのない時代」の生き方
長野誠治(2018), “サラリーマンの生活と生きがいに関する調査: 中高年の会社員と公務員の比較,” WEB Journal『年金研究』, No. 09, pp. 30-74.
心理カウンセラー浅野寿和オフィシャルサイト|自分を見失ったとき ~幸せを実感できなくなったときの処方箋~
ヴィクトール・E・フランクル著, 山田邦夫訳(2002),『意味への意思』,春秋社.
神田昌典(2011),『非常識な成功法則』,フォレスト出版.
アート思考研究所|心の感覚の磨き方(3)好きなこと・嫌いなことを100個書き出す
【ライタープロフィール】
平野ももこ
大学ではフランス文学を専攻し、物語のなかの人の心を中心に研究。出版社を経営していた祖母の影響もあり、純文学、心理学、ビジネス書など幅広く読む大の読書家である。現在は、メンタルケアやカウンセリングを勉強中。バレットジャーナルの実践を通じ、生活改善に成功し続けている。