いざ机に向かっても、なかなか勉強に集中できなかったり、うまくはかどらなかったりすることが多い。そんな方は、今回紹介する勉強 “前” の5つのルーティンを実践してみてください。ちょっとしたことをするだけで、集中力も勉強効率も格段に上がりますよ。
1.「一点を5秒間」見つめて、集中力アップ!
机に向かったはいいけれど、ついほかのことに気が向いて、なかなか集中モードに入れない……。勉強ではよくある悩みですよね。
一流アスリートが実践する集中法をもとに、ビジネスや学習分野での集中力の上げ方を指導する森健次朗氏によれば、勉強に集中できていない人には「目線が泳いでいる」という共通点があるそう。逆に言うと、目線を一点に集めれば、自らを集中状態にすることが可能になります。
そこで森氏が提案するのが、「ある一点を5秒間見つめる」という方法。手のホクロ、手や紙にボールペンや油性ペンで書いた点などを、5秒間見つめるのです。
また、勉強で初めに目にする5文字に1文字1秒ずつピントを合わせるのも効果的だそう。たとえばこの記事であれば、最初の「い」「ざ」「机」「に」「向」の5文字に1秒ずつピントを合わせる、ということです。
机に向かったら勉強を始める前に、ノートのすみや裏紙に小さな点を書いて5秒見つめるだけ。これなら簡単に実行できそうですね。
2.「3つの音」を探して、リラックス&集中!
「視覚」を使ったルーティンに続いて、同じく森氏が提案する「聴覚」を使ったテクニックもご紹介します。ステップは2つ。
まず、勉強を始める前に、適度に音がある場所に移動しましょう。特に、イライラしているときや、勉強以外に気になることがあって落ち着かないときにおすすめ。というのも、適度に音がある環境のほうが、無音の場所よりも精神的にリラックスできるからです。
アメリカの心理学者、ジャック・ヴァーノン氏らの研究によると、人は音や光を遮断した五感への刺激がほとんどない環境下に置かれると、手を叩いたり歌ったりして自ら刺激をつくり出さないとリラックスできないのだそうです。
適度に音がある場所に移動したら、次は、いざ勉強に着手する前に目を閉じて、聴こえてくる音を3つピックアップしましょう。たとえば「鳥のさえずる音」「車のクラクションの音」「風の音」など、視覚情報を遮断して聴こえてくる音を3つピックアップしたら、目を開きます。
森氏によれば、人は視覚をシャットアウトすると、情報を得るためにおのずと聴覚をより研ぎ澄まし、音に意識を集中させます。それが高い集中力につながるとのこと。なお、「3つ」としているのは、5つや6つだと多すぎて逆に集中力を欠き、1つや2つだと集中せずともすぐに探せてしまうからだとか。
目を閉じて、音を探す。勉強前に集中力を高める儀式にぴったりではないでしょうか。
3.「知っていること」を書き出して、新しい知識をスルッと吸収!
知らないジャンルの勉強を始めようとすると、わからないことの多さに心が折れそうになる――そんな悩みを解決するポイントも、じつは勉強前の準備にあるのです。
メンタリストのDaiGo氏によれば、新しい知識を学ぶときには「これから勉強する内容に関係しそうなことで、すでに自分の頭のなかにある知識」を先に書き出すと、新しい情報を理解しやすくなり、記憶への定着率も高まるそうです。これはハーバード大学が効果を確認した技法だとのこと。
たとえば、スピーチやプレゼンのために、よい発声の仕方についての本を読む場面を想定しましょう。俳優や歌手でもなければなかなか勘が働かないジャンルですよね。本を読み始める前にまず、以下のようにすでに知っていることを考えます。
- いい声は腹式呼吸が大切だとよく聞く
- 腹式呼吸のときは、お腹が膨らむ
こう考えてから本を読むと、「腹式呼吸でお腹が膨らむのは、横隔膜が下がって、腹腔が押されるのが理由なのか。そうすると、体全体に音が共鳴しやすくなって、声帯に負担をかけすぎることなくいい声が生まれるわけなんだな」といった具合に、理解がしやすくなるのです。
DaiGo氏によれば、もともと人間の脳には古い情報に新しい知識を結びつけながら覚える仕組みがあるそう。上の例であれば、「腹式呼吸ではお腹が膨らむ」という既存の知識に「腹式呼吸とは横隔膜の動きである」という新しい知識が結びついたことで、理解が進んで記憶しやすくなった、というわけです。
新たな学びを定着させるカギとなる古い知識を、ぜひ勉強前に呼び起こしておきましょう。
4.「たった2分」で2時間持続。勉強前の運動で学習能力アップ!
「運動には、脳を活性化させ、学習能力や記憶力を向上させる効果がある」という話はよく耳にしますよね。実際、アメリカのピッツバーグ大学の研究では、有酸素運動(ウォーキング)を継続して行なうことで、記憶をつかさどる脳の「海馬」の容積が大きくなると報告されています。
そうはいっても、ヘビーな運動をするのは面倒だし、そんな時間はつくれない……そうお考えのあなたに朗報です。
スウェーデンのヨンショーピング大学の研究によると、脳が情報を処理する前(つまり勉強前)に、最低2分有酸素運動をするだけで、学習能力が向上するそうなのです。運動の例は、ジョギング、サイクリング、ウォーキングなど。そして、学習記憶や集中力向上の効果は最大2時間にわたり続くのだとか。
時間がない人でも、勉強前に自転車を2分こいでコンビニに行く、くらいの運動なら簡単にできますよね。ランニングやウォーキングにしても、最低2分で勉強の効果が上がると考えれば、簡単に習慣化できるはずです。
5.「笑う」だけで、記憶力が上がる!
最後に、意外かつシンプルな方法をご紹介しましょう。なんと「笑うこと」なんです。
アメリカのロマリンダ大学の研究によれば、おもしろい動画を見たあとに記憶力のテストを行なった被験者は、よりよい成績を挙げたのだそう。
研究者のひとりであるLee Berk博士によると、笑いは、「コルチゾール」というストレス化学物質を減少させるとのこと。記憶力はストレスが少ない環境下で高くなるので、笑いによるコルチゾールの減少が記憶力向上を助けるのだそう。また、笑うことで「ガンマ波」と呼ばれる脳波活動にも変化が起き、記憶したり思い出したりしやすくなる効果があると述べています。
笑える動画を見てから勉強に臨むというのは、科学的に理にかなった方法であるわけですね。勉強前に運動する気になれないときでも、この方法なら、手軽に楽しく実行できそうです。
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ちょっとしたアクセントを加えるだけで、毎日の勉強は想像以上にはかどるもの。みなさんの日々の学びに、1つでも役立ててもらえれば幸いです。
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。
(参考)
森健次朗(2016),『机に向かってすぐに集中する技術』, フォレスト出版.
メンタリストDaiGo(2019),『最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法』, 学研プラス.
AFPBB News|適度な運動で海馬の容積が増加、米研究
CNN|勉強前の運動、わずか2分でも脳が活性化か スウェーデン研究
PsyBlog|The Facial Expression That Fights Memory Loss
加瀬玲子(2015),『ヴォイステクニックの真実 基礎編(上) 呼吸・発声 -声を仕事に使う人のために-』, Voicing.