考えながら読むことの大切さは、誰しも今までの生活の中で幾度となく聞いてきたことと思います。しかし、その「考える」という言葉はあまりにも漠然としています。そのため、結局のところどのようにすればいいのか、よくわからないまま今まで過ごしてきた、という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、考える読書の手段の一つとして、クリティカルリーディングというものを紹介します。英語では「critical(=批判的な) reading(=読書)」と書きます。逐語訳すると「批判的読書」となるため、何か攻撃的なニュアンスを感じ取ってしまうかもしれません。しかし、ここでのcriticalは、語源となっているギリシャ語のkrinein(=明らかにする)という単語の意味で使われています。
クリティカルリーディングとは、どのような読書のことをいうのでしょうか。
クリティカルリーディングは、文章中の情報をそのまま受け取らずに、それが正しいのかなどの観点から、どれを受け入れるのかを考えながら読むという読み方のこと。批判的という言葉の通りに、文章の粗探しをしたり揚げ足を取ったりしようとする読み方ではなく、むしろ著者の言葉に耳を傾け、その考え方に寄り添って読書をするという読み方がクリティカルリーディングなのです。
それでは、クリティカルリーディングの方法を見ていきましょう。
そもそもどんな本を読むのかを考えよう
批判的読書の最初の一歩は、目次などを見て、自分が読もうとしている本がどのようなものなのかを考えることです。というのも、新書、教科書、専門書、ビジネス書と色々な種類の本がありますが、どれも異なった読者層を対象にしており、文体もおのずと違ったものになってくるからです。本の内容、著者が伝えようとしていることをきちんと考え、どのように読むか戦略を最初に立てれば、本の内容を理解しやすくなります。
今目の前にある本が、誰に向けて書かれた、どういう内容の本なのか(例えば、入門編なのか、実践編なのか、専門的な知識を説くものなのか)ということを理解し、その本にはどういう役割があるのかを考えながら読むようにしましょう。
ツッコミを入れながら読む
これは批判的な読書における最も大事なポイントといえます。なぜツッコミを入れることが重要なのか。それは、本の内容を鵜呑みにしない姿勢を養うためです。
それらしい装丁の本を読むと、不思議なことにその本の内容がすべて正しいように見えてきます。著者が権威ある人物であるとき、それは尚更起こりやすくなるもの。また、本の内容は、刊行された時点では比較的新しい事実であっても、こと理系の分野において、日々新たな事実や見解が見出されていくことから、結果として誤りが記載されることになる、ということも多々あります。
文章自体が理解できないということもあるでしょう。これは洋書を翻訳した本によくあること。何か抜けたり欠けたりしているように思える箇所に出合ったら、繰り返し読むことや、今一度文脈によく照らすことが有効です。
議論は根拠を徹底的に分析的しよう!
著者により議論が行われたり、主張が含まれたりしている部分は、特に注意が必要な箇所です。
まずは、著者の主張の根拠を慎重に読解しましょう。上に書いたようにツッコミをいれながら議論を分析します。そして根拠が薄い箇所や、矛盾している箇所がないかを探します。
日本語のコミュニケーションによくあるのが、文章中の主語などの要素を省くというもの。これは便利ですが、非常に重要な情報を故意に省略して、読み手を書き手にとって都合の良いほうに誘導するというようなこともあり得ます。
これは議論の粗探しをするということではありません。根拠を常に探しながら読むことで、その議論がより深く理解できるようになるのです。
クリティカルリーディングの効果
毎日およそ200冊もの書物が発刊されていると言われ、ネット上においては真偽を問わず情報があふれかえっているのが、この現代社会です。そんな中でも、私たちは正しい判断をすべく、その膨大な情報から有益な情報を取捨選択していく必要があります。その力は、まさにこのクリティカルリーディングによって養われるのです。
また、論理的な文章を書く能力が身につくということも、大きな利点の一つです。先述の通り、クリティカルリーディングとは、文章の内容を逐一論理的に考えるというものです。その考え方が身について来れば、自分が書いた文章に対しても、その論理を検討していくという姿勢が身に付きます。そのため、次第に論理的で明快な文章を作成できるようになっていくのです。
*** クリティカルリーディングの能力は、一朝一夕で身に付くものではありません。しかし、一度身に着いてしまえば、日常の様々な場面においても情報の取捨選択ができるようになり、考える楽しさが実感できると思います。
(参考) YAMAUCHI(山内)|批判的読書の仕方について 平山 るみ・楠見 孝(2004),「批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響 : 証拠評価と結論生成課題を用いての検討 [in Japanese]」,The Japanese journal of educational psychology. 苅谷剛彦著(2002),『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ』,講談社. 沼崎一郎(2014),「批判的思考と批判的読書」,言語表現の世界 社会科学レポート作成法2014.