「勉強しているとすぐに集中力が切れてしまう」 「長時間集中力を保つ方法を知りたい」 勉強や仕事の能率を劇的に上げる集中力。自覚的に発揮するのは難しいという人も多くいるかもしれません。
しかし、ゲームに没頭してしまっていつの間にか数時間も遊んでしまっていた、そんな経験はありませんか。私もかつて、ほとんど丸一日中ひとつのゲームに夢中になっていたことがあります。この集中力が勉強しているときに引き出せるとしたら?
今回はゲームにも使われている集中力のコントロール方法をお伝えします。
ゲームに引き込まれるわけ
商品としてのゲームは、人に夢中になってもらうことで価値が出るといえるでしょう。ですから、ゲームには人の集中を促すさまざまな工夫がされています。そしてそれは歴史を重ねるごとにどんどん洗練されていっているのです。
ハンガリー出身の心理学者Mihaly Csikszentmihalyi(ミハイ・チクセントミハイ)は、集中に関する理論として「フロー理論」を提唱しました。これは、人が物事に100%集中するのに必要な要素のこと。そして驚くべきことに、ゲーム内の集中を促す工夫は、この理論であげられている要素とかなり合致しているのです。このことから、ゲームは非常に理にかなった手段で人を集中に導いていることがわかります。
特にゲーム内で目立って導入されているフロー理論の要素は以下の3つです。
1. 対象への自己統制感がある 2. 自分の能力に対して適切な難易度のものに取り組んでいる 3. 直接的なフィードバックがある
この記事ではこの3つについて分析し、集中力をコントロールする方法をお伝えします。
取り組んでいる対象をコントロール
1つ目の「対象への自己統制感がある」というのは、「取り組んでいる対象を自分でコントロールできている」感覚があるということです。
ゲームでいうと、キャラクターを自分で操作することがこれに当てはまります。しかし、キャラクターの操作方法はゲームによってまちまちで、いきなり満足に動かすことはできません。そこでゲーム内で最初に行われるのが、使用説明のような意味合いの「チュートリアル」です。最近のゲームには、たいてい丁寧なチュートリアルが始めにあって、基本的な操作ルールを実際の操作を伴いながら細やかに解説してくれます。この細やかなチュートリアルがあるからこそ、我々はそのゲームで自己統制感を得ることができ、ゲームの世界に自然と没入していくことができるのです。
勉強についても導入は非常に重要といえるでしょう。語学やプログラミングなどそれぞれの分野にはそれぞれ基本的なルールが存在します。そこをしっかり理解せずに取り組んでも、学習を上手くコントロールすることができず自己統制感を得ることができません。
語学であれば文字や単語の意味、プログラミングなら変数や主要なコマンドなど、その分野の基本的なことをまずしっかりと覚えることで「集中」を生み出すことができるのです。「基礎が大切である」というのは誰でも一度は聞いたことのある文句ですが、その重要性はゲームからもうかがい知ることができます。
「ストレス」と「達成感」のバランス
2つ目は適切な難易度設定です。
人がゲームに夢中になってしまう大きな要因は、ゲーム内の「ストレス」と「達成感」のバランスにあります。ゲームは基本的に、ゲーム内で掲げられる課題を次々と達成していくことで進んでいきます。プレイヤーは、そのスキルレベルに応じた課題をこなし、さらにその成長に見合った課題を次々に与えられることで自然とゲームがうまくなり「楽しい」と感じるのです。
フロー理論にのっとると、人はその能力をはるかに超えた課題を前にすると不安に感じ、逆に課題の難易度が変わらないと退屈に感じます。ゲームはプレイヤーの全能力を出し切るくらいの、ちょうどクリアできる課題を設定することで私たちに達成感と満足感を与え、よりゲームの世界に引き込んでいくのです。
この難易度設定は参考書選びの時に非常に役に立ちます。
自分の現時点の能力を把握し、その全てを出し切ればきちんと理解できるような難易度のものを選択するのです。初めて挑む分野なら、うんと簡単でイラストが多いものを選ぶべきです。もし、自分のわからない所や苦手な所を把握しているなら、目次を見てその項目に多めにページを割いているものを選ぶのがいいでしょう。かっこいいからという理由で無闇に専門的なものを選んでいても、思うように勉強が進まず結果的に集中の妨げになってしまいます。より良い集中のためには、自分の能力にあった教材を選びましょう。
直接的なフィードバック
最後は直接的なフィードバックです。
ゲームでは自分の取り組みの良し悪しが、勝ち負け・成功や失敗として結果に表れます。フロー理論によれば、このわかりやすいフィードバックがあることで人はより集中できるのです。
勉強でわかりやすいフィードバックと言えば点数でしょう。テストや練習問題の正誤で自分の取り組みの成果を確認することができます。しかし、テストのための勉強はするけれど、参考書の章の終わりなどにある練習問題をおろそかにしていませんか? この練習問題は、理解の確認はもちろん、勉強の成果を自分で実感し次の集中につなげるために必要なものです。
また、テストや練習問題に取り組む際は、いきなり広い範囲をやらないということです。なぜならば、テストや練習問題が直前の取り組みと関係が薄いと、点数が上がりづらくフィードバックを得られない恐れがあるからです。さらに、直前の勉強の成果とは関係なく点数が上がった場合、間違ったフィードバックを得てしまう可能性もあります。
ですので、テストや練習問題は狭い範囲ごとに細かく行うことが大事です。章の途中などで、区切りが難しいときは、その日やった問題をもう一度やり直すだけでも効果を実感できるはずです。
** 人の集中を操ることに長けたゲーム。その集中コントロール法を学び取り、自分の集中を自在に引き出せるようになりましょう。
(参考) Wikipedia|フロー(心理学) M.チクセントミハイ著,大森弘訳(2010),『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』,世界思想社.