世の中には色々な「睡眠方法」を紹介した情報が溢れている。夜型より朝型がいい。寝る前にはホットミルクを飲むといい。まくらは高いものを用意した方がいい……。そんな風に聞いたことのある人も多いはず。
色々な情報がありすぎて、結局どれが正しいの!? と混乱しているあなた。科学的で、本当に効果的な睡眠テクニックを、効率よく実践したくはないだろうか。
今回は、科学的知見を参考にしながら、快適で心地よい眠りのための「睡眠の教科書」をお届けしよう。
朝型・夜型は遺伝子で決まる!?
ネイチャーコミュニケーションズという論文集で発表された研究によれば、人が朝型・夜型のどちらの生活を好むかは、遺伝子によって決まるという。
いわゆる「体内時計」を生物学では「概日リズム」と呼ぶ。この実験では、被験者に自分が朝型・夜型かを自己申告させたのち、彼らの遺伝子を調査した。すると、朝型の人特有の遺伝子変異が発見され、概日リズムに影響を与えていることが明らかになったそうだ。
徹夜で仕事をしても平気な人がいる一方で、6時間は寝ないと体調を崩す……なんていう人もいるだろう。それもそのはず。こうした体質は遺伝子によって決まっているのだから。もし自分が朝型・夜型だからといって、望ましい生活が送れないなどと気にする必要は全くない。自分の体質に合った方法で、上手に睡眠を取ればいいのだ。この前提を理解しておこう。
「早寝よりもまず早起き」起床時間を矯正しよう。
ここからは、心地よい眠りのコツと、睡眠を生かして生産性をあげる方法をご紹介する。
早寝早起きをしたい! そう考えるのは誰もが同じだ。しかし、その手順を間違ってしまうと、習慣化は難しい。まずは正しい手順を踏んで、早寝早起きの習慣を身に着けることが必要だ。
まずは、早起きしよう。夜には残業があるかもしれないし、飲み会が入ることもあるはずだ。だから、先に早寝を習慣化するのは難しい。睡眠障害などの治療を行うむさしクリニックの梶村尚史院長は、日経ビジネスオンラインのインタビューにこう答えている。
(梶村院長は)いつもと同じ時間に寝て早く起きようとすれば、最初は睡眠不足になっても仕方がない。そこを我慢して続けていくと、だんだん体内時計が整い、自然に早い時間に眠くなってくるという。「就寝時刻は多少ずれてもいいですが、起床時刻は絶対に守ってください。大切なのは平日と休日で起きる時間を変えないこと。睡眠不足が続いている場合はやむを得ませんが、それでもいつもより2時間以上遅くなってはいけません」
(引用元:日経ビジネスオンライン|ベッドで本はNG…不眠を解消する5つのルール)
この「土日も同じ時間に」というのがクセものだ。我々には「休日はゆっくり過ごすもの」という考えが染み付いていて、取り除くのは難しいからだ。そこで、筆者は「土日の朝に予定を入れること」を提案したい。
家族がいる人は、近くのショッピングモールの開店時間に合わせて買い物に出かける、なんて方法が考えられる。スポーツをやっている人なら、ナイターではなく朝練にしてしまうのも一つの手だ。特に趣味もないし……という人は、「朝活」と称して勉強会を開催している団体が多くあるので、探して積極的に参加してみよう。
このようにすれば、嫌でも土日の朝、早起きが必要になる。ぐうたら寝ている暇はなくなるので、睡眠リズムを整えることができる、という寸法だ。
ぜひみなさんも試してみてほしい。
寝る前のスマホ・読書は絶対NG
眠る前にメールチェック……と称してスマホやPCを開く人がいるかもしれないが、絶対にやめた方がいい。電子機器の人工的な光によって、我々の脳が興奮状態に戻ってしまうからだ。リズム新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックの院長で、睡眠のエキスパートである白濱龍太郎氏は、このように語っている。
深く眠るためには、緊張した交感神経をオフにして、副交感神経のスイッチを入れてやらなければならない。ところが、スマホで仕事の新着受信メールを目にしてしまうと、日中に緊張していた交感神経が再度刺激されてしまい、眠りに就きにくくなります。
(引用元:Business Journal|“良質な”睡眠術…仕事で忙しい人のためのコツ、やってはイケナイこととは?)
寝る前に仕事をすることで眠くなる……と勘違いしていないだろうか? 実はその逆なのだ。
私たちの脳や内臓は、自律神経と呼ばれる神経系によって支配されている。仕事をしたり、スポーツをしたり、勉強をしたりする時に働き、全身を活発な状態にするのが「交感神経」。一方、睡眠、休憩、リラックスなど、全身を休める時にスイッチが入るのが「副交感神経」だ。もちろん、寝る直前は「副交感神経」が働いている。
その状態でスマホやPCを起動したらどうなるだろうか。脳は「おや、今から仕事を開始するみたいだ。よし、交感神経スイッチオン!」と勘違いし、睡眠を遠ざけてしまう。
「じゃあ、何かリラックスできるものならいいのか」と考えたあなた。それも場合によっては逆効果だ。例えば、読書。読書は一見、リラックスした作業のように思えるかもしれない。しかし、やっていることは文字を読み、内容を反芻すること。脳に与える刺激は、仕事と何ら変わらないのだ。
もし寝る前にどうしても読書したいなら、ベッドから離れた、別の場所にしよう。そうしないと、ベッドは読書のための場だ、と脳が勘違いするそうだ。上に紹介した梶村氏も次のように言っている。
「読書するなら別の場所で。あくまでもベッドは眠るためだけの場所、と習慣づけて脳に覚えさせることで、ベッドに入ったら条件反射ですぐに眠れるようになっていきます」
(引用元:日経ビジネスオンライン|ベッドで本はNG…不眠を解消する5つのルール)
大切なのは、睡眠は睡眠、仕事は仕事、と区別をはっきりつけること。だらだらとして境界が曖昧になるのが、一番睡眠を阻害するもとになるのだ。
*** ここで紹介したのは、当たり前のことかもしれない。しかし、きちんと意識すれば必ず結果が現れるはず。皆さんの心地の良い眠りの助けになれれば幸いだ。
(参考) natureasia.com|Nature Communications【遺伝】朝型生活をさせる遺伝子 日経ビジネスオンライン|ベッドで本はNG…不眠を解消する5つのルール Business Journal|“良質な”睡眠術…仕事で忙しい人のためのコツ、やってはイケナイこととは?