以前から“記憶の形成”に深いかかわりがあるとされてきた「脳のシータ波(θ波)」と、脳内物質の「アセチルコリン」。最新の研究では、“記憶の検索(想起)”にも直接的な関連があると示されました。それらに関する新旧の研究と、記憶力アップに役立つ「アセチルコリン分泌&シータ波増強」活動を紹介します。
「シータ波」で新生ニューロンの分化が促進
リラックスすると、脳に「アルファ波(α波)」という脳波が出てくることはよく知られています。このアルファ波の周波数は9~12ヘルツですが、シータ波は4~7ヘルツという、さらにゆっくりとした波なのだそう。
2005年9月15日号の学術誌「Neuron」で発表された、東京大学によるマウスを使った研究では、脳の海馬にシータ波が伝わると、記憶形成を担う「海馬新生ニューロン」の分化が促進されるとわかりました。海馬新生ニューロンとは、大人の脳のなかでも日常的に海馬で生まれるニューロン(神経細胞)のことです。
記憶を形成する引き金は「アセチルコリン」
また、2013年12月27日に発表された、山口大学のラットを使った研究では、脳内物質のアセチルコリンが海馬に記憶を形成する引き金になることを発見したそう(オンライン限定の学際的ジャーナル「Nature Communications」に掲載)。
その際に、学習前後の海馬内のアセチルコリン分泌量を測定したところ、学習中から分泌量が増加し、その状態は学習後にも高く維持されていたそうです。
「シータ波」はエピソード記憶の検索とも関連
そして、2018年9月10日に、認知神経科学ジャーナル「Cognitive Neuroscience」オンライン版で公開された、カリフォルニア大学デイビス校・神経科学センターの新しい研究では、「シータ波」と「エピソード記憶検索(想起)」との直接的な関連性が示されました。
実はこの研究、音と光の組み合わせで脳波活動を刺激する、シータ波誘導装置(メガネとヘッドホンという形状)の効果を確かめるために行われました。研究者はボランティアの参加者にシータ波誘導装置を使用してもらい、単純な記憶検査を行ったそう。
その結果、参加者がシータ波活性の増強と記憶力の向上を示したため、シータ波誘導装置が記憶機能を強化するとわかり、シータ波の活動と、エピソード記憶検索との直接的な関連性も示されたというわけです。
「シータ波」と「アセチルコリン」の深い関係
なお、「シータ波」と「アセチルコリン」と「記憶」には、切っても切れない深い関係があります。精神科医で作家の樺沢紫苑氏によると、脳の海馬は自らもシータ波を出していますが、アセチルコリンが活性化すると、シータ波がさらに増強するのだそうです。そして、神経と神経の接合部分=シナプスのつながりも強化されるそう。
つまり、アセチルコリンが分泌すると、海馬からシータ波がどっと生まれ、記憶力が向上するということ。同氏によれば、奇抜なアイデアも出やすくなるとのことです。そういうことなら、アセチルコリンの分泌を促して、シータ波をたくさん生み出す活動を、積極的に行うしかありませんね。
「アセチルコリン分泌&シータ波増強」活動
ではここで、樺沢紫苑氏や、元ハーバード大学医学部研究員・川﨑康彦氏の著書ほか、東京大学や山口大学の研究成果などに示されている、アセチルコリンの分泌を促し、シータ波を増強する活動を一挙に紹介します!
- 瞑想(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- 昼寝(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- まどろむ(ぼんやりする)(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- 好奇心を刺激(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- 座ったまま手足を動かす(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- 物、食べもの、場所などの新しい発見(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- 興味を持ったものを調べる、探す(シータ波増強・樺沢紫苑氏)
- ウォーキングなど適度な運動(アセチルコリン分泌・川崎康彦氏)
- カフェインが入ったコーヒーを適量のむ(アセチルコリン分泌・川崎康彦氏)
- カラオケなどで歌を暗唱(アセチルコリン分泌・川崎康彦氏)
- とにかく何でも学ぶ!(シータ波増強・東京大学、アセチルコリン分泌・山口大学)
休日には瞑想や昼寝をして、お散歩の合間にベンチに座ってぼんやりしたり、朝あるいは休憩時にコーヒーをのんだり、仕事や勉強で座りっぱなしの際には、ちょっと手足を座ったまま動かしてほぐしたり、友達や家族とカラオケに行ってわざと歌詞を見ずに覚えた歌を暗唱したりして、探求心と好奇心を忘れず何でも学び、ときおり適度な運動をして過ごすだけ。つまり、アセチルコリンの分泌を促し、シータ波を増強する活動とは、健全に過ごすことなのです。
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ちなみに、最近の筆者のお気に入りは、深く考えず「ぼんやり」本を開いて、読もうと思わずに眺めること。アセチルコリンとシータ波の効果で、意外にスッと頭に入ってきますよ。
(参考)
UC Davis|Brain Wave Device Enhances Memory Function
Taylor & Francis Online|Entrainment enhances theta oscillations and improves episodic memory: Cognitive Neuroscience: Vol 9, No 3-4
東京大学|研究成果「学ぶほど頭がよくなる仕組みがわかった 」
Nature Communications|コリン作動性神経の活性化が、学習による海馬シナプスの可塑性を高める
Study Hacker|「外で」と「デスクで」を使い分けろ! 午後の仕事内容でランチの場所を変えるべき科学的理由
Study Hacker|脳科学で結果を導く! アウトプットスキル向上術
樺沢紫苑著(2016),『脳を最適化すれば能力は2倍になる 仕事の精度と速度を脳科学的にあげる方法』,文響社.
川﨑康彦著(2017),『ハーバード式 最高の記憶術 (きずな出版)』,PHP研究所.