日本では「睡眠時間はもったいない」と考えている方がとても多いですが、実は睡眠不足こそあらゆる損失につながることをご存知ですか?
まさに「寝不足はもったいない」という状態。睡眠不足がもたらす日本の経済損失額は、なんと3.5兆円にもなるという試算があります。その内訳は、作業効率の低下が3兆665億円、交通事故や産業事故が4,213億円、遅刻が810億円、早退が75億円、欠勤が731億円。睡眠不足がいかに非効率的な働き方につながっているかがよくわかる数字です。
寝不足は産業事故やエラーのリスクを引き上げる
寝不足で日中眠気が強いと、メールで打ち間違いをしてしまったり、重要な計算を間違えてしまったりといった単純ミスが増えてしまいますよね。「睡眠不足だと頭の回転が悪い」「寝不足だとぼーっとして頭が働かない」、こういった経験、皆さんも一度はあると思います。
適切な睡眠がとれていなければ、安全に働くため、あるいは仕事に求められる能力を発揮するための覚醒度は維持できません。「たかが睡眠不足」と侮ってはいけないのです。そして、ちょっとしたミスであれば取り返しがつきますが、睡眠不足は時として人命を巻き込むような悲惨な事故の起因になるリスクをも秘めています。
2012年の連休中に関越自動車道で起こった深夜高速ツアーバスの事故で7名の尊い命が失われた悲劇を記憶している方も多いのではないでしょうか。事故を起こした運転手の睡眠不足や健康管理の問題はもちろんですが、1日の運転時刻の上限や、連続運転時間と休憩・睡眠時間の確保など、運行管理のための過労運転防止に関する法令がほとんど守られていないということもこの事故の背景にはありました。
パフォーマンスを最大にする基盤に、安全性の確保はマストです。ビジネスパフォーマンスを上げたい場合は、睡眠の「量的」と「質的」の両方をきちんと確保することにもっとフォーカスを当てた日常を送りましょう。
ほろ酔い気分で仕事をしていませんか?
残業時、いくら時間外業務だからといってビール片手にオフィスで仕事をする人はいないと思います。しかし、起床してから昼寝もせずに17時間を超えると、なんと課題対応能力が血中アルコール濃度0.05%の酒気帯び運転と同等レベルまで低下することがわかっているのです。
そんな状態では生産性が落ちてハイクオリティの業務が行えないことは容易に想像できますし、なによりもその後、運転して帰宅するのは当然とても危険な行為。飲酒運転が危険行為として取り締まられるのなら、寝不足運転も同様に制限する必要性があるといえます。
以前、私のセミナーにご参加くださり睡眠を改善された方の中には、睡眠改善前と同じボリュームの業務をこなして、残業がゼロになったとおっしゃっていました。
昨日の眠りは今日の生産性に直結します。昼間にピークパフォーマンスを発揮して無駄な残業を減らし、あらゆるリスクを回避するためには、今夜の快眠が絶対条件なのです。
また、無駄な残業が減ることで夜にきちんと仕事から心理的な距離をとることができ、上手にストレス発散することができるようになります。するとそのリラックス感が、さらに良い眠りを誘ってくれる呼び水になってくれるので、まさに「良」の循環が生まれていくのです。
睡眠は「やる気」や「モチベーション」に直結する
睡眠とパフォーマンスレベルの関係性を示した興味深い研究があります。
スタンフォード大学のバスケットボール選手を対象として行われたある実験では、夜間の睡眠時間を、睡眠日誌と腕時計型の活動計(アクチグラフ)で評価し、それぞれ7.8時間、6.7時間だった時間を実験的に延長させ、睡眠日誌で10.4時間、活動計(アクチグラフ)で8.5時間まで睡眠時間を増加させました。
その結果、282フィートダッシュは実験前の16.2秒から15.5秒へ短縮。さらに、フリースローの成功率は10回中7.9回から8.8回増加、スリーポイントシュートの成功率も15回中10.2回から11.6回に増加。また、練習中のやる気は10点満中6.9点から8.8点に増加し、試合中のやる気も10点満点中7.8点から8.8点に増加という精神面での効果も得られました。睡眠時間を延長することで、やる気などの精神面も身体能力も両方向上することが明らかになったのです。1)
また、約6,000名の労働者を対象に追跡調査を行ったフィンランドの研究でも、睡眠に問題を抱えている労働者は抱えていない労働者と比べて就業不能によって早期に退職しやすいということまで指摘されています。2)
*** 日々の睡眠がいかにパフォーマンスを維持、向上させるうえで重要か、ご理解いただけましたでしょうか?
いつまでも現役で高いパフォーマンスを発揮し続けるためには、毎日の「良い睡眠」をビジネススキルのひとつとして捉え、「スリープマネジメント」をしっかりと行っていくことが必要不可欠です。
まずは睡眠の時間を少しでも多く確保できるようなタイムスケジュールを組むよう心がけること。業務中のネットサーフィンやダラダラタイムに心当たりがある場合はその時間を整理して、10分でも20分でも早く帰宅できるようにしましょう。
(参考) 1)Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. (2011). The effect of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep 34(7), pp. 943-950. Lallukka T, Haaramo P, Lahelma E, et al. Sleep 2)problems and disability retirement: a register-based follow-up study. Am. J. Epidemiol. 2011; 173: 871-881.