ビジネスシーンにおいて、絶対に外したくない「ここぞ」という勝負のタイミングは必ず訪れますよね。勝負に勝つためには、資料を念入りに作ったり、プレゼンスキルを上げたりなど事前に準備して整えることも必要ですが、まずは相手に良い印象を与えること。これは欠かせないマストファクターです。
アメリカの心理学者のアルバート・メラビアンは「第一印象はその人の見た目で決まる」と提唱しています。「メラビアンの法則」によると、話し手が相手に与える影響は「視覚情報」が55%、「聴覚情報」が38%、「言語情報」が7%であったと報告されており、つまり、初対面の相手と会ったとき、その人の印象を決めるのは半分以上が「見た目」だということが明らかになっているのです。
「見た目」といっても、ファッションやメイク、ヘアスタイルといった要素だけではありません。肌の状態や顔色、目の下のクマ、目の充血、表情なども重要な見た目に関する情報です。どんなに鮮やかな色の高級服を身にまとって髪の毛もしっかりとセットしていても、顔色が悪く、目は真っ赤で表情が冴えなかったら、「疲れているように見えるけど、大丈夫かな?」「この人に任せて大丈夫かな?」という、ネガティブな不安材料を相手に与えかねません。
睡眠時間は第一印象に影響を与えている
2013年にスウェーデンにて行われた研究よると、睡眠不足の女性の場合、瞼が垂れ下がり、目は充血して腫れぼったく、目立つクマもできると報告しています。さらに、肌の血色も悪く、シワや小じわが目立つうえに、口元も垂れ下がることが指摘されているのです。1)
また、2010年の英国医学雑誌には、18~31歳までの健康な23人を対象として行った、睡眠不足と第一印象に関する研究でも興味深い結果が示されています。
被験者の写真を1人2枚ずつ撮影。1枚は「8時間以上の睡眠をとり、翌日の14~15時に撮影」、もう1枚は「5時間睡眠+翌日は徹夜をして、その翌日の14~15時に撮影」し、その後、その2枚の写真を65人の評価者にランダムな順番で6秒ずつ見せ、評価の項目の「健康度」「疲労度」「魅力」などをそれぞれ数値で評価してもらうという実験です。その結果、睡眠不足の写真のほうが、健康度と魅力度の得点が低く、疲労度の得点が高くなっていました。
つまり、たった1~2日間睡眠不足になっただけで、「不健康そうな人」「魅力的ではない人」「疲れている人」という印象を相手に与えてしまうということ。「健康的」や「魅力的」という好印象以外にも、睡眠が足りている人のほうが、睡眠不足な人と比べると、相手に「知的である」という印象を与えるという研究結果まであるのです。
一晩徹夜したくらいでは心身に取り返しがつかないような深刻なダメージはないものの、第一印象という面では予想以上のダメージを被るため、仕事はもちろん、面接や婚活などあらゆるシーンで寝不足は大敵であるといえるでしょう。
睡眠の「時間」と併せて見直すべき「質」
適切な睡眠時間にはかなり個人差はあるものの、アメリカ国立睡眠財団は、18歳~64歳には7~9時間の睡眠時間を推奨しています。そして、睡眠の時間と併せて注目すべきは、睡眠の「質」です。
どんなに適切な睡眠時間をとっていたとしても、朝なかなか起きられなかったり、目の下に青クマができていたり、起きた瞬間から疲れていたりする場合には、睡眠の質が低下している可能性が考えられるため、寝具環境やスマホなどの電子機器との付き合い方、食事や入浴の時間などを振り返って見直す必要があります。
睡眠前半の徐波睡眠(深い睡眠)時、特に第一周期に最大の分泌量を示す成長ホルモンには、身体を細胞レベルから修復し、健康と美容に寄与してくれる働きがあることが明らかになっており、別名「天然の美容液」とも呼ばれているのです。質が悪く深い眠りが出現しないような睡眠では、この成長ホルモンの恩恵を存分に受けられず、翌日まで疲れやダメージを引きずったまま朝を迎えることになってしまいます。深い睡眠をしっかりととり、成長ホルモンの力を余すことなく取り入れるためには、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンをしっかりと分泌する必要があるのです。
メラトニンの分泌を抑制させないためには、就寝1時間前になったらやや暗めの暖色系の照明のもとでおやすみ支度をすること。そして、就寝30分前になったらスマホやパソコン、テレビの電源は切り、画面を見ないようにすることが守るべきルールになります。翌朝のアラーム設定などは帰りの電車の中などで済まし、就寝直前にスマホの画面を見ることのないよう、工夫してください。
「良い第一印象」につながる「良い見た目」をつくるには、睡眠が重要であるという事実をぜひ念頭に起き、いつ「負けられない一瞬の勝負」「絶対につかみたいチャンスの瞬間」が訪れても大丈夫なように、普段から適切な睡眠時間を確保できるようなタイムスケジュールを組むように心がけましょう。
(参考) 1)Sundelin T, Lekander M, Kecklund G, Van Someren EJ, Olsson A, Axelsson J. Cues of fatigue: effects of sleep deprivation on facial appearance. Sleep. 2013 Sep 1;36(9):1355-60.