“記憶の糸” を上手に手繰る! 犯罪捜査ドラマ風に楽しむ「想起トレーニング」

あらゆる知識や情報が頭に詰め込まれているはずなのに、どうも思い出せないことが多いと感じている方のために——楽しみながら練習できる、「犯罪捜査ドラマ風の想起トレーニング術」をご紹介します。

犯罪捜査ドラマの想起シーンとは

――「もう見たことは全部話した」という目撃者に、「犯人逮捕のカギとなるものを、無意識のうちに見ているかもしれない」という捜査官が部屋の明かりを消し、目撃者に目を閉じてもらう。そして言葉で導き、目撃者が居合わせた過去の犯罪現場に意識をタイムスリップさせ、見たままを伝えてもらう――

こういったシーンは、海外の犯罪捜査ドラマなどでよく目にするのではないでしょうか。経験による意識的な「エピソード記憶」に加え、何となく見て無意識のうち潜在的に記憶したものまでも、思い出させようとしているシーンです。

このテクニックは、想起トレーニングとしても活用できるんですよ。

潜在記憶も顕在化できる

記憶のメカニズムは、外からの情報を取り込む「記銘」、記銘を保存する「保持」、必要に応じ外に出す(思い出す)「想起」という3つの過程で成り立っています。

ちなみに、「あの人の名前は、えーと……」と思い出せないあなたに、誰かが「○○○さんだよ」と教え、「あ、そうそう、○○○さん!」と思い出すことは「再認」と呼ばれています。

記憶には、一時的な記憶や、固定された記憶「長期記憶」などがあります。後者には意識的な「顕在記憶」というものがあり、そのなかには個人が経験した具体的な出来事の「エピソード記憶」や、漢字や年号などを暗記する「意味記憶」があります。また、長期記憶には、無意識のうちに取り込んでいる「潜在記憶」なども含まれます。

心理学者の榎本博明氏によれば、何となく見ていたものを潜在的に記憶していた場合(潜在記憶)でも、何かのきっかけで顕在化されることがあるそう。つまり、前項のように記憶の糸を手繰っていく行為で、意識的に想起できる可能性があるということです。

目を閉じる・部屋を暗くする意味

また、犯罪捜査ドラマの想起シーンでは、おおむね捜査官や心理学者などが部屋を薄暗くして、目撃者に目を閉じてもらいます。これは、視覚から入る余計な情報をシャットアウトし、意識を記憶に向けるため。こうすることで、脳血流も増加します。

エピソード記憶の想起において重要とされる脳の領域には、前頭前野も含まれています。そして、その前頭前野の脳血流を上げるのは、暗い部屋で目を閉じ、安静をとることなのだそう。前頭前野の中心的な働きのひとつには「集中力」もあるので、想起にはうってつけというわけです。

想起を繰り返すことで起こる変化

「想起しようとすること」が、想像以上に多くの記憶を呼び起こすかもしれないということ、そして、「暗さ」や「視界のシャットアウト」が想起を助けてくれることが分かりました。では、想起によって、わたしたちにはどのような変化が起こるのでしょう。

以前の研究(Karpicke&Roediger 2008)では、学習を繰り返すより、想起を繰り返すほうが記憶を促進すると確認されています。特に覚えたことを人に話したり、書いたりするアウトプットは再記銘・再保持にもなるので、記憶強化に役立つといわれていますよね。

また、思い出すという行為には、記銘した刺激へのアクセスを促進するほか、ほかの刺激との競り合いを防いだり、情報を付加したり、想起処理そのものを改善したりなど、さまざまな可能性が考えられているそうです。

ちなみに、日本心理学会第75回大会(2011)で発表された実験では、一度目の想起で記銘にかかわる脳活動が見られ、二度目の想起では、検索後モニタリングにかかわると推察される脳活動が見られたそう。

思い出すたびに脳の活動が変化していくということは、置いておこうか迷い保留にしていた記憶が、あるいは奥の部屋の箱に入っていた記憶が、どんどん近くにある部屋へと移動し、やがて、いつもいる部屋のすぐ手が届く棚に置かれるようになっていくということ。なおかつその場所が、どんどん取り出しやすく整理されていくとも考えられます。

犯罪捜査サスペンス風「想起トレーニング術」

では、ここで、犯罪捜査ドラマ風の「想起トレーニング術」の具体的な方法を説明します。

1.奥の記憶部屋から引っ張り出すトレーニング

1.思い出せなかったワード(急を要さないもの)をインターネットで検索せずに保留しておく 2.のちに部屋を暗くして目を閉じ、思い出したいワードの周辺イメージを頭に浮かべる (そのワードを目にしたときの情景や、周囲の文字や写真、絵など) 3.周辺イメージを頭に浮かべたまま、「わたしは必ずこのワードを覚えているはず」と念じる 4.思い出すまで行う。なかなか思い出さなければ時間をおいて再チャレンジ

2.潜在記憶の顕在化トレーニング

1.最近訪れ、少しの時間過ごした場所を選ぶ(時おり行く場所でもOK) 2.部屋を暗くして目を閉じ、もう一度その場所を訪れているかのように記憶を手繰る 3.自分が意識的に目を向けていた場所以外の、隅々にまで目を向けてみる 4.記憶を手繰りながら、「わたしは必ずいろいろと見ているはず」と念じる

目を閉じるだけでも十分効果が生まれるので、必ずしも部屋を暗くする必要はありません。筆者の場合は、就寝前の寝床やトイレなどでよく行います。たまには目を開けたまま食器を洗いながら行うことも。1人ボーっとできる場所であれば、目を閉じなくても想起しやすいのかもしれませんね。

おかげで最近は、忘れた名前や言葉をインターネットで検索することが激減しました。寝る前に思い出せないワードを考えて就寝したら、翌日起き抜けにそのワードが頭にパッと浮かび、思わず叫んでしまったことも。また、自分が行った場所の記憶を手繰るトレーニングでは、「こんなところも見ていたのか」と驚くべき発見があります。

*** 敏腕捜査官が、自分の隣で想起を助けてくれている妄想をするなど、楽しみながら想起トレーニングを繰り返し、思い出す力を高めてくださいね。

(参考) 安藤則夫, 長谷川修治(2013),「『楽しさ』と『反復練習』は記憶強化に役立つか?: 外国語が身に付く学習方法について考える」, 植草学園大学研究紀要, 5巻, pp.47-56. 和田秀樹(2014),『大学受験の神様が教える 記憶法大全』, ディスカヴァー・トゥエンティワン. StudyHacker|1分でできる脳疲労の解消法。“閉眼安静” で集中力を取り戻せ! 日本精神衛生会|こころの健康シリーズ 認知機能の見える化プロジェクト|認知機能と記憶 脳科学辞典|想起・誤想起(記憶)

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