仕事をするにも勉強をするにも、脳をうまく機能させることはとても重要です。「仕事で成果が上がらない……」「なぜか勉強がはかどらない……」という人には、脳に気を配った生活をおくることを提案します。
あなたの能力を鍛えるための “脳科学的アプローチ” を7つご紹介しましょう。
【1】記憶力を鍛えるならば「有酸素運動」
人間の記憶は「海馬」という部位に保存されます。新しい知識を身につけたり、学んだ内容を忘れないようにしたりするには、海馬を委縮させないことが重要です。
そこで「有酸素運動」をおすすめしましょう。米ピッツバーグ大学などの研究チームが、運動習慣のあまりない男女120人を対象に行なった実験によると、1日40分×週3日のウォーキングを1年間続けたところ、海馬の容積が増加したとのこと。一般的に海馬は加齢とともに委縮しますが、有酸素運動によりそれを抑えることができるのです。
ウォーキング以外にも、水泳やエアロビクス、サイクリングなどが有酸素運動に該当します。これらの運動を習慣にして海馬を刺激し、記憶力を鍛えてみてはいかがでしょうか。
【2】ワーキングメモリを鍛えるならば「手書き」
情報を一時的に保持して処理する能力「ワーキングメモリ」は、「前頭前野」という部位がつかさどっています。聞いたことをすぐに忘れる……最近ミスが多い……それは前頭前野が衰えてワーキングメモリの機能が低下しているからかもしれません。そこで、「手書き」の習慣を取り入れましょう。
東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏は、手書きで文字を書くと前頭前野が活性化されると述べています。これは、パソコンやスマートフォンで文字を打ち込む際には見られない事象なのだそう。手書きの場合、漢字をはじめとする文字を自分で思い出して書かないといけないため、それが前頭前野をフル活用させていると川島氏は考察しています。
仕事時のメモをノートにとったり毎日日記をつけたりして、手で文字を書く機会を増やしていきましょう。
【3】決断力を鍛えるならば「オンオフの切り替え」
筑波大学教授の設楽宗孝氏らの研究により、「どちらの選択肢がより価値が高いか」という判断は、脳の「眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)」という部位が担っていることが示唆されています。 つまり、眼窩前頭皮質が弱っていると、対象の価値を比較できず “よくない選択肢” を選んでしまう可能性があるということ。仕事で判断する機会が多い人は注意しなければなりません。
脳科学者の茂木健一郎氏によると、オンとオフを切り替える習慣をつけると、眼窩前頭皮質の回路が鍛えられるのだそう。「25分間集中して5分間休憩する」というリズムをつくったり、休日は思いっきり遊んだりするなど、メリハリをつけてみてはいかがでしょうか。
【4】集中力を鍛えるならば「SNS断ち」
作業に集中したいのになぜか気が散ってしまう……。その原因は「帯状回」にあるかもしれません。
帯状回は、異常を検知する役割をもっています。脳科学者の中野信子氏によれば、視覚や聴覚などを通して “普段とは違う情報” を得ると、帯状回がアラートを出して「何か変だぞ!?」という情動を脳内に引き起こすのだそう。動物として子孫を維持するには周囲の危険をいち早く察知しないといけませんから、この帯状回の機能は本能的に備わった必要なものと言えます。とはいえ、いつも注意散漫なのも考えもの。
そこで、メールやSNSの通知をオフにしたりスマートフォンを電源を切ったり、余計な外部情報をシャットダウンしましょう。中野氏は、思いきって「インターネットを切る」こともすすめています。帯状回を刺激する要因を取り除き、脳が散漫にならない環境を整えましょう。
【5】冷静さを鍛えるならば「皮膚への刺激」
前出の中野氏は、行動をコントロールする「前頭前皮質」 の働きが不十分だと、やってはいけないという判断がしづらくなり、いわばキレやすい状態になると指摘します。
前頭前皮質は、愛情ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」で育ちます。中野氏によれば、子ども時代に親などと安定的な関係を築けていたかどうかが大切なのだそうです。
しかし、大人になってからもオキシトシンを増やすのは可能。その方法のひとつが、皮膚への刺激です。中野氏いわく、ペットと触れ合ったりふわふわのぬいぐるみを触ったりすると、オキシトシンが増えるのだそう。なぜかいつもイライラしている人はやってみては?
【6】会話力を鍛えるならば「新しい体験」
医学博士の加藤俊徳氏は、受験勉強や仕事などで数字や文字と向き合い続けると「左脳グセ」がついてしまい、右脳が弱って共感力が弱まると指摘しています。その結果、他人と会話しているときに相手の状況を把握できなかったり、自分の話を優先してばかりになったりしてしまうのだそう。
それを改善する方法として、加藤氏は新しい体験をすることをすすめています。具体的には、未知の場所に旅行に行って初めての景色を見たり、入ったことのないお店に入って店員さんと会話してみたり、歩いたことのない道を歩いてみたり。新鮮な刺激が右脳の刺激になるそうです。会話を弾ませたいのならば、新鮮な刺激を得て右脳を刺激し、左脳と右脳のバランスを取り戻しましょう。
【7】発想力を鍛えるならば「あえて何もしない」
京都大学脳機能総合研究センターが最新のMRIを使って「ひらめいた瞬間」の脳を調べたところ、広い領域がいっせいに活動していたそうです。
この状態に近づける意外な方法が「ぼーっとする」こと。じつは、私たちがぼーっとしているときでも、脳は活動をやめているわけではありません。逆に、広い領域が自然と活性化する「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という状態になるそうです。これが、無意識のうちに記憶の断片をつなぎ合わせ、私たちにひらめきをもたらしてくれます。
いいアイデアが欲しいときは、必死に考え続けるのではなく、ぼーっとする時間を意図的につくってみてはいかがでしょうか。
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以上をまとめると、こうなります。
さまざまな能力を鍛えるための脳科学的アプローチを紹介しました。欲しい能力があったら、お伝えした方法をぜひ試してみてください。
(参考)
AFP|適度な運動で海馬の容積が増加、米研究
東洋経済オンライン|スマホが脳の発達に与える無視できない影響
筑波大学|選択肢の価値比較は眼窩前頭皮質で行われる ~より良い選択肢を選ぶための脳内機序を解明~
プレジデントオンライン|「もたもた」「グズグズ」脳は訓練で変えられるか
東洋経済オンライン|「机にスマホ置く人」ほど集中力が続かない理由
MASHING UP|「脳が怒りを生み出すメカニズム」脳科学者・中野信子さん
東洋経済オンライン|会話が弾まない原因は「脳の使い方」にある!
NHK|NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体
【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。