仕事の能力は秀でているのに、なかなか成果につながらない。あるいは、周囲から評価されない……。そういう人は、もしかしたら「感情的すぎる」「感情の浮き沈みが激しい」といった面で損しているのかもしれません

日本IBMに勤めながら、各種の組織・人材系支援サービスをおこなう株式会社Eight Arrowsの代表取締役でもあり、数多くのビジネス書の執筆も手がける河野英太郎(こうの・えいたろう)さんは「自分の感情に気づくことがメンタルマネジメントの基本」だと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

成果をあげるために「心と体」を冷静に分析する

自分のキャリアをきちんと築いていくためには、自分の「感情に注目する」ことがすごく重要です。ものごとは、A地点からB地点へというふうに進んでいきます。ただ、スタート地点であるA地点がわからないとどこにも行けませんよね? こういうときは、感情が邪魔していることがとても多いのです。いま、自分がどういう感情なのかをわかっていないと、正しい現在地を把握できません

そして、感情は体調ともすごくリンクしているものです。たとえば、体調が悪くて、朝起きたときにエネルギーの充填率が30%だったとしましょう。でも、それを正確に把握できていなければ、無理をすることになる。なんとか100%の力で仕事を進めようとして、あっという間にダウンしてしまうでしょう。

でも、今日の自分のエネルギー充填率は30%だと自覚できていればどうでしょうか。30%なりの力で仕事に臨み、結果的に無理やり100%の力でやろうとしたときより高いパフォーマンスを発揮できるはずです。一流のアスリートも同じですよね。体の調子がおかしければ、それに気づいて戦略を変える。彼らはそのときの最大限のパフォーマンスを発揮しようとします。

心も体の一部です。仕事で成果をあげるには、自分の心と体を冷静に分析する視点を持つことが大切なのです。

「英語が聞けない」を克服! 外国人上司と仕事するまでに。TOEIC®でも900点獲得。
人気記事

「感情の四象限」で自分の感情を知り行動を考える

ただ、自分の感情に気づくということはそう簡単なことではありません。そのため、わたしが提唱しているのが、「感情の四象限」というものです。

これは、「ドキドキ」と「落ちつき」、「プラス」と「マイナス」という感情の軸によって、さまざまな感情を4つに分類するもの。これによって、自分の感情に気づきやすくなるのです。

そして、自分の感情に気づいた次のステップとしては、それを受けてどう行動すべきかと考えます。たとえば、大きなミスを犯した部下に強い怒りを感じたとします。たいていの場合、怒りの感情はそのままぶつけるべきではありません。ビジネスの場において優先されるべきは、目的の達成です。なにが原因で怒りを感じたのか、そしてその感情をどう伝えれば部下が理解してくれ、目的達成に近づけるかということを考えるのです。

もちろん、誰もがあまり怒りたくはないものですよね。できるだけ「プラス」の状態でありたいと思うでしょう。ただ、じつは怒りを含む「第二象限」もすごく重要な感情です。それこそ、古代の人間が天敵に襲われそうになったとき、その場で恐怖や怒りの感情のスイッチを入れて反撃や逃避をしなければ、人類は生き残ることができなかったでしょう。そういうふうに、危険や嫌なことを回避するためには必要な感情なのです。

これはビジネスにおいても同様です。「どうしてこの手続きはこんなに煩雑なんだ!」「絶対にこの状態を跳ね返してやる!」といった感情がモチベーションとなって、仕事における改革は起こるものですからね。

ただ、注意しなければならないのは、第二象限の状態が長く続きすぎて、「第三象限」の状態になってしまったとき。このときは、意図的に休みを取るなどして、「第四象限」に移行する必要があります。とはいえ、第四象限のままでは仕事のパフォーマンスは上がりません。心の回復を待ち、第一象限、第二象限の刺激があっても耐えられる心の状態にする必要があります。

長いキャリアのなかでは、あえて休むということも必要です。心身ともに本当に疲れているときに無理をしたために、全力疾走しないといけないときにそうできないとなれば、キャリアにとって致命的なことにもなりかねません。そのためにも、ぜひ、自分の感情や心身の状態にもっと目を向けてみてください。

与えられた目標を自分の目標に「読み替える」

キャリアを考える意味では、「目標」を持つことも重要です。目標にはキャリアを通じた大目標と、今年や今期など短期の目標があります。いちばん幸せなのは、それらが一貫している、ひとつの道筋でつながっているという状態です。でも、そういう幸せな状態にある人はそう多くはないでしょう。ただ、目標を達成する人は、それらを「つなげて」考えることができる

一方、目標を達成できない人の多くは、そもそも大目標を持っていない。あるいは、持っていても、それと目の前の目標や仕事をつなげて考えることができません。せっかく能力があるのに目標を達成できないという人は、目の前の仕事を将来に対する目標と照らし合わせて「やりたくないこと」だと思ってしまうケースが多いように思います。

一見必要ないことに思えても、大きな目標を達成するためにはじつは必要だということも多いものです。人から与えられた仕事や短期目標が自分には必要ないものに思えても、自分なりの目標に「読み替えて」取り組む。より良いキャリアを歩むには、そういう発想も必要だと思います。

【河野英太郎さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ポテンシャルを発揮しまくれる人は、“あの言葉” を口癖に仕事をドライブさせている。
最高に優秀なリーダーは、部下の前で必ず “暇そうにする” という法則。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』

河野英太郎・田中ウルヴェ京 著

ディスカヴァー・トゥエンティワン(2017)

【プロフィール】
河野英太郎(こうの・えいたろう)
1973年10月14日生まれ、岐阜県出身。日本IBM部長兼株式会社Eight Arrows代表取締役。1997年、東京大学文学部卒業。同水泳部主将。大手広告会社、外資系コンサルティングファームを経て2002年に日本IBMのコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門リーダー、サービス営業などを歴任。大企業グループ向けを中心に複数社の人事制度改革やコミュニケーション改革、人材育成、組織行動改革などを推進。著書に、2013年ビジネス書対象書店賞受賞、第4回オーディオブックアワード審査員特別賞を受賞し、6カ国語に翻訳された『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』、同『リーダーのコツ』『メンタルのコツ』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。