バブル期に世界を席巻した日本の企業も、いまはかつてのような勢いを完全に失いました。加速度的に速まる時代の流れのなか、日本の企業は過渡期にあります。そういう時代にあって、人の上に立つ人間はどうあるべきなのでしょうか。

日本IBMに勤めながら、各種の組織・人材系支援サービスをおこなう株式会社Eight Arrowsの代表取締役でもある河野英太郎(こうの・えいたろう)さんが考える「リーダー論」を教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

部下が活躍できる場を整えることが上司の役割

いまは「VUCA」の時代だといわれています。これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもの。変動するし、よくわからないし、複雑だし、漠然としている……。要は、「答えがない時代」だということですね。

明確な答えがないということによって、いまは史上はじめて「若い世代にベテランがものを教わる時代」ともいわれています。ビジネスの現場では、「Slack」だ「Chatwork」だとどんどん新たなコミュニケーションツールが使われるようになっている。でも、ベテラン世代は置いていかれている人がほとんどで、ツールが先行するようになっているのです。

では、いまのベテランが若い世代にすべてにおいて劣っているのかといえば、そうではありません。過去のビジネスにおける経験、人生経験が生きる場面というものは、いまでもいくらでもあるものだからです。それこそ、「人を見る目」など、その最たるものでしょう。ならば、それを最大限に生かすのが上司の役目です。

こういう時代だからこそ、上司は完璧である必要はありません。若い世代に教えるのではなく、「プレーヤーにとっての監督」「芸能人にとってのマネージャー」といった人材になるべきでしょう。部下たちがきちんと活躍できる場を整える。それこそが、いま上司に求められていることではないでしょうか

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部下に仕事を「依頼」して当事者意識を育てる

部下を育てる際に力を発揮するのが、「人を見る目」です。育成の目標は、部下を立派な戦力にすることにあります。そのために、まずは部下の得意なものや苦手なもの、または、スキルの習熟度を把握し、それに見合った定期的なチェックを入れます

戦力として独り立ちさせることが目標ですから、任せていいと判断した部分は任せることが重要です。でも、バリバリのやり手に見えても書類仕事が苦手だといった、個性的な人材もいるものです。ですから、それぞれのスキルの習熟度に合わせて、チェックの頻度と深さを変える必要が出てくる。そして、この頻度と深さを徐々に減らしていくことが独り立ちさせるためのポイントとなります。

また、部下の育成という意味では、仕事を任せるときの姿勢も上司にとって重要。むかしであれば、上司が部下に仕事を任せるときには「命令」がほとんどだったはずです。でも、わたしは「依頼」すべきだと思っています

命令となると、それに対する反応は「服従」か「抵抗」しかありません。これでは、部下の当事者意識が育たないのです。一方、依頼だとどうでしょうか。「やってくれないかな?」と頼んで部下が「わかりました」と承諾した。この瞬間、部下には責任が発生します。自らの意志によって仕事に取り組むことになるのです

全員がそれぞれの仕事を完遂することが最重要

これは「コンプリーテッドスタッフワーク」という考え方にも通じるものです。「コンプリーテッドスタッフワーク」とは、もともとは軍隊用語。「組織に属する全員がそれぞれに与えられた仕事を完遂する」という考え方です。

上司の役割というのは、「なにかを考えること」ではありません。「部下が考えてきたことを判断すること」です。つまり、上司に対して「これ、どうしましょう?」と相談するのでは、その部下は仕事をまったくしていないといえます。

そうではなくて、たとえば3つの選択肢があるのなら、「わたしは1番目の選択肢だと思います。理由はこれこれなので、承認してください」というふうに判断を仰がなければなりません。極端にいえば、上司にメールで(Y/N)と送って、YESなら「Y」、NOなら「N」を選んでもらうだけにする

そうすれば、上司は余った時間を別の仕事に使えることになります。軍隊の場合、どちらに進軍するかといった判断を上官が間違えば、部隊全体が危険にさらされます。上官がより重要な仕事に専念できるよう、与えられた仕事を完遂するのが部下の義務なのです

もちろん、戦争をやるわけじゃないと言われたらそのとおりでしょう。でも、組織の原型は軍隊からきているものだということを忘れてはなりません。企業も組織である以上、軍隊と通じる部分もあるのですから。

上に立つ人間はつねに笑顔であれ!

部下たちに当事者意識を持たせ、強い組織をつくり上げるには、上司にはリーダーシップが求められます。では、みなさんはリーダーシップとはどんなものだと考えているでしょうか。いろいろな側面がありますが、まわりからの見え方についていえば、わたし自身は、「リーダーシップは、半分以上が演技力」だと思っています。

上司が突然、大きなため息をついた。部下たちは、「自分のメールを見てため息をついたのかな」なんて思ってしまう。そういうことで部下の感情をかき乱してしまっては、部下は業務に集中することができません。

人の上に立つポジションにいる人間ならば、忙しいのは当然ですし、立ち場的にも年齢的にも社内外で多くの問題を抱えていることでしょう。生身の人間ですから、体調が優れないときもあるはずです。それでも、できれば笑顔、せめて普通の表情でいるように心がけるべきでしょう

わたしが尊敬する人も、まさにそういう演技をする人でした。その方はある会社の役員なのですが、めちゃくちゃ多忙なのはこちらも承知です。用事があって「お忙しいところ、すいません」と声をかけると、その人は「いや、暇だよ」なんて笑顔で答える。暇なわけがないんですよ(笑)。でも、あえてそう演技をするのです。

すると、下の人間としては、「こんなに忙しい人が頑張っているんだから」「この人を支えないといけない」という気持ちを自然に持つようになる。当然、その人に余計な仕事をさせないために、自分の仕事を完遂しようとするわけです。みなさんにも、この人のような格好いい上司を目指してほしいですね。

【河野英太郎さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ポテンシャルを発揮しまくれる人は、“あの言葉” を口癖に仕事をドライブさせている。
怒りをぶつけまくる迷惑な人は「メンタルの自己分析」ができていない。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』

河野英太郎・田中ウルヴェ京 著

ディスカヴァー・トゥエンティワン(2017)

【プロフィール】
河野英太郎(こうの・えいたろう)
1973年10月14日生まれ、岐阜県出身。日本IBM部長兼株式会社Eight Arrows代表取締役。1997年、東京大学文学部卒業。同水泳部主将。大手広告会社、外資系コンサルティングファームを経て2002年に日本IBMのコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門リーダー、サービス営業などを歴任。大企業グループ向けを中心に複数社の人事制度改革やコミュニケーション改革、人材育成、組織行動改革などを推進。著書に、2013年ビジネス書対象書店賞受賞、第4回オーディオブックアワード審査員特別賞を受賞し、6カ国語に翻訳された『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』、同『リーダーのコツ』『メンタルのコツ』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。