「もっとたくさん自社の商品を売りたい」「ヒットする企画を生み出したい」。これは多くのビジネスパーソンに共通する思いであり、また大きな課題でもあるのではないでしょうか。一方で、世の中には時代の「流れ」を正確に読むことで、ヒット商品を次々と世に送り出すヒットメーカーが存在します。彼らはどのように企画を発想し、いかに売れる商品をつくり上げているのでしょうか?

そこで、今回から3回にわたり、34万部を突破した『うつヌケ』をはじめ数々のベストセラーを生み出している、株式会社KADOKAWAの編集者・菊地悟さんが思う、ヒットする企画の考え方やノウハウを掲載します

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介

時代の「雰囲気」が反発するタイミングをつねに考え、探している

菊地さんは編集者として、これまで数多くのベストセラーを世に送り出してきました。ヒットする企画を生み出すために、いまの時代の「流れ」をどのように読み、つかんでいるのでしょうか。

世の中の大多数がひとつの方向へ向かう風潮や雰囲気、針が振れ過ぎたかのような空気感はないかとつねに探しています。たとえば、僕が中学生のときに広末涼子さんがデビューしたのですが、その少し前は安室奈美恵さんらによるダンスミュージックが流行していました。そんななかで、アイドル的なプロモーション手法で広末さんが現れたことが衝撃的で、それまでの時代の流れの『カウンター』になっているのではないか? と感じたのです。その後、多くの若手IT起業家が出てきたときも、旧来の価値観をひっくり返す存在として閉塞感のなかで生きる若者に強烈に支持されましたが、結局はその盛り上がりも落ち着いていきました。つまり、ある流行や雰囲気がひとつの方向へ高まっていくと、必ずどこかで反発するときがくるということ。それはいまの時代だったらなんだろう? とつねに考え、そのタイミングを探しています」

そのような時代の「流れ」を読むことで生み出した企画のひとつが、2014年に出版した蛭子能収さんの『ひとりぼっちを笑うな』(角川新書)でした。この作品もまた、11万部を突破するヒット作に。

「そのころは、世の中でコミュニケーション能力を現在以上にもてはやす風潮がありました。でも、『コミュ力』だけで決まらないのが世の中だと思うし、僕はそんな風潮に行き過ぎた雰囲気を感じていたので、そのカウンターとして企画したのです。結果、多くの読者の共感を得られてベストセラーになり、その後はむしろ孤独をすすめる本や雑誌の特集が多く見られるようになりました」

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人々の「感情」に寄り添えれば、世に一石を投じる企画になる

世の中の雰囲気に敏感であることは、一般のビジネスパーソンにとっても重要なことですが、一方で感覚的な能力とも言えそうです。では、菊地さんが企画を考えるときに、具体的にベンチマークしている指標などはあるのでしょうか。

「『ひとりぼっちを笑うな』では、その少し前にアメリカで『Quiet』(邦題:『内向型人間の時代』著:スーザン・ケイン、訳:古草秀子/講談社)という本がベストセラーになっていたんです。アメリカは、いわゆるスクールカースト上位の人たちが持つ外向性や『コミュ力』がもてはやされ、社会の大多数であるそこまでではない人や、言ってしまえば内向的な人たちが軽視される傾向が日本以上にあると聞きます。そうした風潮のなかで、逆説的に内向型人間の価値を評価する『Quiet』が売れていたんですね。つまり、僕も疑問に感じていたことが先にアメリカで商品として現れていたのです。すぐに『これは、いずれ日本も同じ動きが生まれる』と感じました」

アメリカで流行した現象が数年遅れて日本でも流行することは、ジャンルを問わずたしかにたくさん存在します。

「フリーミアム(※)は一定の市民権を得たと言えますし、サードウェーブコーヒーも流行しましたよね。ビジネス全般においては『アメリカを見る』という視点は有効ではないでしょうか。アマゾン・ドット・コムのランキングを追うだけでも、時代の流れを見る目は養えるかもしれません。ただ問題は、それを追うだけでは商品の差別化はできないということ。書店に行けばおわかりになると思いますが、ヒット作に似たような作品がたくさん並んでいるわけです。それはそれで商売として成立するのであれば良いと思いますが、やはりブームのフロントランナーである商品が一番大きな売り上げを得ることになりやすい。やはり、世の中の風潮が反発するタイミングを見計らって商品を提供することがポイントで、そうすれば結果的に世に一石を投じる企画になるのではないかと思います」

ただ、世の中の風潮に対する「カウンター」として企画や商品をつくることは、ある意味ではとてもリスクが大きいと言えるかもしれません。

「カウンターとしての企画は、単に競合が存在しないような狭いセグメントを狙うことではありません。そうではなく、世の中の強い風潮が前提にあり、その雰囲気に『反発』が生まれるタイミングで送り出すということです。だからこそ、うまくいけば、『それが言いたかったんだよ!』『こういうのがほしかったんだ!』と多くの人に共感していただける商品になるんです。すべてのジャンルですべての新しい波を肯定的に受容する人はいないはずです。流行や風潮についていけない人や反感を覚える人、取り残される人たちは必ず存在します。そんな人たちに共感していただける商品を届けることができれば、成功する企画になると考えています」

つねに「仮説」を自分に問いかけ、できるだけ多くの情報を「浴びる」

そうした時代の「流れ」を正確に読み、つかんでいくためには、やはり情報を得ることが大きな武器になると言います。菊地さんは、日々どのような姿勢でメディアに触れ、情報を集めているのでしょうか。

「世の中の動きはジャンルを超えて関連しているので、テーマを絞ったメディアだけを見ていても時代の『流れ』はつかまえにくいと思います。そこで、より多くの情報に触れるためにSNSを活用しています。たとえば、Twitterではフォローするアカウントを自分なりに選び、アップデートして、タイムラインの話題の程度で重要性を感じられるようにしています。実際に、編集を担当した『パナマ文書』(著:バスティアン・オーバーマイヤー、フレデリック・オーバーマイヤー、訳:姫田多佳子/KADOKAWA)は、朝3時ごろにパナマ文書が公開されたときにタイムラインで見つけ、国内主要メディアが報じる前に上司に企画を掛け合っていました。もちろん、すぐに文書の公開されたリストを社名で検索して、『うちの会社は大丈夫だ』と確認しましたけど(笑)」

できるだけ多くのジャンルの情報に触れるようにしている菊地さんは、積極的に書店に足を運んだり、家ではラジオを流しっぱなしにしたりと、メディアとの接触時間は長いと言います。

「毎日のように、『情報を浴びている』感覚はありますよね。そのなかでも時間を割いているのはSNSです。使い方は、信頼できる情報を発信している人を主義主張に関係なくフォローし、その人の情報のセレクトに注目しています。すると、『あの人はここに注目するんだ』『こんな見方も必要なんだな』と情報を多角的に理解できるので、情報の濃度がわかるんです。そして、なにより大切にしているのがつねに『仮説』を持つこと。つまり、『この状況が起きているのは、あのことに起因し、こんな過程を経ているのでは?』などと、仮説を立てて情報を追うわけです。そうすれば、ちがうジャンルや数年前の商品と似たパターンを見い出すことができたり、時代の流れも読みやすくなったりして、企画をつくる助けになると思います」


※フリーミアム(Freemium):サービスや商品を基本的に無料で提供し、より高度な機能などについては料金を課金するビジネスモデル

■part2『多くの人が求めるのは、「気持ち」に寄り添ってくれる商品』はこちら
■part3『右手で売れるものをつくり、左手で売りたいものをつくる』はこちら

【プロフィール】
菊地悟(きくち・さとし)
1980年生まれ、山形県出身。株式会社KADOKAWA 文芸局 角川新書編集長代理。PRSJ認定PRプランナー。横浜市立大学商学部卒業後、角川書店(当時)入社。書籍及び新書の販売企画・マーケティングを手掛け、09年の角川つばさ文庫創刊にともない事業計画立案や宣伝・販促プロモーション分野を担当。10年に書籍編集部に異動し、11年新書『信頼する力』(著:遠藤保仁/11万部)、12年単行本『上昇思考』(著:長友佑都/25万部)、13年新書『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(著:小林弘幸/20万部)、14年新書『ひとりぼっちを笑うな』(著:蛭子能収/11万部)などを手掛ける。2017年に刊行した『うつヌケ』(著:田中圭一)は34万部となり(電子書籍含む、2018年3月現在)、同書タイトルはユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。2009年以後、上場企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・専門編集に携わりながら、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。