右手で売れるものをつくり、左手で売りたいものをつくる【株式会社KADOKAWA 文芸局 角川新書編集長代理 菊地悟「ヒットメーカーの思考」part3】

時代の流れをつかんで企画を生み出し、優れた商品をつくり出したとしても、それが多くの人に支持されて売れなければ、当然ながらヒット商品にはなりません。これからの時代には、企画力や制作力だけでなく、商品を「売る」力がビジネスパーソン一人ひとりに問われているのです。

そこで今回は、数々のベストセラーを生み出す編集者であり、PRのプロフェッショナルでもある株式会社KADOKAWAの菊地悟さんに、優れたコンテンツをヒットさせる「仕掛け」のノウハウを伺いました

■part2『多くの人が求めるのは、「気持ち」に寄り添ってくれる商品』はこちら

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介

商品をヒットさせるには、世の中とつながる「届け方のデザイン」が必要

菊地さんは、編集に携わる前は営業部門に所属していました。つまり、これまでふたつの分野のプロとして働いてきたことになります。そして、現在は個人的にPRプランナーの資格を有し、宣伝の観点からも専門家の視点を持っています。なぜ、編集者としてはめずらしいPRプランナーの資格を取得しようと考えたのでしょうか。

「PRはPublic Relationsの略で、公共との関係性を表します。要は、『いかに世の中とのつながりを持つか』ということですね。でも、これまでの出版業界では個別の商品に対するPRを深く考える必要がありませんでした。出版業界の機能として最適化された商流・物流・情報流が存在し、それで事足りていたからです。たとえば、編集者はよく『棚で目立つ』コピーやデザインを重視しますが、これは書店がたくさん存在し、かつそこに多くのお客さんがくる時代では最優先すべきあり方でした。しかし、いまでは商品や情報の届け方が多様化しているため、編集者が売り方や『届け方のデザイン』まで考えることが必要になっていると思うんです」

たしかに、いまの時代はジャンルを問わず、インターネットを中心に商品の売り方が多様化し、スーパーをはじめ店舗で物が売れないというニュースをよく耳にします。同時に、情報を発信するツールも目覚ましい進化を続けています。

「商品を届ける前から、お客さんに情報を届けなければならなくなりました。『あの人がすすめているから見てみようかな』というように、店舗に足を運んでもらう動線までもつくらなければいけない気さえします。しかも、僕がつくるノンフィクションというジャンルは、誰も『待っていない』商品なんです。たとえば、漫画なら1巻目を買った人は2巻目を待っていることが多いでしょうし、小説なども好きな作家の次回作を心待ちにしています。でも、ノンフィクションにおいてはそういう作品は圧倒的少数です。こうした状況のなかで商品だけを送り出しても、あたりまえですが買ってくれる方は多くはないでしょう。だから、お客さんが商品を『待っている』状況を編集者がつくらなければならない。ほかの業界でも同じかもしれませんが、企画者が発売前に情報を発信する努力をしない限り、商品が売れることは難しくなっていると思います」

雑談やSNSでつねに情報を仕込んでいると、多くの影響力ある人を巻き込める

菊地さんが考える商品の「届け方のデザイン」とは、一読者の感情や気持ちに寄り添うというコンテンツの中身の話だけでなく、実際に商品という「もの」を届けるための最適な経路を考えることでもあります。

「これは、社内でのコミュニケーションにも当てはまりますよね。当然ながら、編集者は営業部門や宣伝部門の担当者に『この商品をどのように届けるつもりなのか』を伝え、納得して売ってもらわなければなりません。そこにも、『届け方のデザイン』が必要なのです。だからこそ、僕は社内でもいろいろな人と雑談をしたりしながら、つねにコミュニケーションの量を増やそうとしています

もちろん「届け方のデザイン」においても、菊地さんは個人メディアとしてのSNSの存在を重要視しています。

「SNSはとても便利なツールで、自分が携わる仕事について投稿するだけで、じつに多くの方が見てくれます。そして、僕が日々どんな考え方を持っているかを語っていれば、『あの人がつくった本だからおもしろいかもしれない』と思ってくれる人も増えていきます。書店員やライターの方への情報発信にはじまり、口コミの醸成やインフルエンサーへの仕掛けまで、日ごろからSNSでコミュニケーションしているからこそ、発売前に主要な関係者に原稿を送っても読んでいただけるのではないでしょうか」

SNSを完全に仕事だけに使用し、関係者と濃密なコミュニケーションをとっている菊地さん。では、いわゆるリアルな人脈のほうは、どのようにつくりあげたり増やしたりしているのでしょうか。

「僕のまわりだけかもしれませんが、異業種交流会って以前に比べて減っていませんか? こういう交流会が少なくなったのは、結局のところふだんの付き合いがなく、『関係性』が続かないからだと思いいます。そこで、僕はときどき仲の良い友人と会うときに、それぞれひとりずつ仕事の関心が合いそうな知人を連れてきて、その後SNSでつながるようにしています。また、そのSNS上でぼくと相互フォローになっている人を誘ってみたり、業界の有名な方に声をかけたりしてもいますね」

これからのビジネスパーソンには「3つの専門性」が必要

ここまで、ヒットする企画を生み出すための考え方や具体的なノウハウ、また実際の現場でのコミュニケーション方法などを紹介してきました。最後に、ビジネスパーソンがこれからの時代を生き抜くために必要とされる、考え方やスキルについても伺いました。

「あくまでも僕個人の考えですが、ひとつの専門性に陥らないことではないでしょぅか。いまの時代、『自分の部署の仕事しかわからない』では認められにくくなっていると思うのです。僕は自分の現在の仕事を含めて『3つの専門性』を持つと、そのなかで応用を効かせられると考えています。僕の場合であれば、かつて営業を担当し、いまは編集者です。そこに宣伝を加えることができれば強いんじゃないかと考えて、独学でPRプランナーの資格を取得しました。もちろん、仕事との距離感は人それぞれ。専門性同士の距離が僕のように近くなくてもいいでしょうし、趣味も突き詰めれば仕事に使えるレベルのものになるなるかもしれません。どんなことでも深く突き詰めれば、その知見を別のジャンルに援用することができると思います」

じつは菊地さんは大のサッカー好き。そこで、自分が好きで深めていたサッカー書籍の知見とノンフィクション書籍のノウハウを組み合わせて、『ラストピース』(著:下薗昌記/KADOKAWA)という本を企画したことも。表紙のデザインでは「サッカー」という文字を使用しないなど、従来のサッカー本とは異なるアプローチを採用し、見事に第3回サッカー本大賞と読者賞とをW受賞しました。

「僕はよく後輩たちに、『右手で売れるものをつくり、左手で売りたいものをつくりましょう』と言っています。右手で売れるものをつくることはビジネスパーソンとして大切なことですが、同時に左手で自分が好きなものをつくっていく。そうしていると、右手側の企画に幅と奥行が出てくるという好循環も生まれます。売れるものだけを追っていると、だんだんと心がくたびれたりするんですよね。でも、好きなことだけをしていても、そもそも自分のポジションがなくなることもある。だからこそ、これからの時代のビジネスパーソンは、両手を使って仕事をすることに意識的があること、そして、そのバランスを考えることが必要なのではないかと考えています」

■part1『時代の風潮に「カウンター」となる企画で世に一石を投じる』はこちら ■part2『多くの人が求めるのは、「気持ち」に寄り添ってくれる商品』はこちら

【プロフィール】 菊地悟(きくち・さとし) 1980年生まれ、山形県出身。株式会社KADOKAWA 文芸局 角川新書編集長代理。PRSJ認定PRプランナー。横浜市立大学商学部卒業後、角川書店(当時)入社。書籍及び新書の販売企画・マーケティングを手掛け、09年の角川つばさ文庫創刊にともない事業計画立案や宣伝・販促プロモーション分野を担当。10年に書籍編集部に異動し、11年新書『信頼する力』(著:遠藤保仁/11万部)、12年単行本『上昇思考』(著:長友佑都/25万部)、13年新書『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(著:小林弘幸/20万部)、14年新書『ひとりぼっちを笑うな』(著:蛭子能収/11万部)などを手掛ける。2017年に刊行した『うつヌケ』(著:田中圭一)は34万部となり(電子書籍含む、2018年3月現在)、同書タイトルはユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。

【ライタープロフィール】 辻本圭介(つじもと・けいすけ) 1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。2009年以後、上場企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・専門編集に携わりながら、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。

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