国際的に見て、日本人は自己肯定感が弱いという特徴を持っています。内閣府の調査(2013年)によると、「自分自身に満足しているか」という問いに対して「YES」と答えた人の割合は、欧米の多くの国で8割以上に達している一方、日本では5割を大きく割っているそう。
とはいえ、自己否定しながらも、なんとか「そんな自分を変えたい」と考えている人も少なくないはずです。では、どうすれば自分を変えられるのでしょうか。
習慣からそれを叶える技術を、習慣化コンサルタントとして各方面で活躍する古川武士さんが教えてくれました。
■第1回『「習慣化」が仕事力を上げる』はこちら
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)
生活リズムの「立ち直しポイント」を決め「感情」にフォーカスする
ビジネスパーソンに限った話ではありませんが、自分の悪い癖や性格を自覚しながらも、なかなか直せないという人も多いかと思います。
たとえば、ついつい友人との待ち合わせに遅れてしまうという遅刻癖もそうですよね。プライベートならまだしも、ビジネスの場では大問題です。
その原因の多くは、単なる睡眠不足による寝坊でしょう。これは「生活リズム」の問題です。朝起きるところからはじまって、始業時間、退社時間、帰宅してお風呂に入る時間、それらは地続きのように全部つながって、人それぞれのひとつの動きになっています。全部つながっているので、悪循環にハマるとなかなか抜け出せません。
ではどうするか? 重要なのは、自分の生活リズムを振り返って、どこを「立ち直しのポイント」にするかと考えることです。
残業が続いていて、睡眠不足になって、集中力がなくて、結局また残業して、翌朝に遅刻までしてしまう……。そんな自分のリズムをきちんと理解すれば、立ち直しのポイントが見えてきます。
全部を一気に変えようと思っても、なかなかそうはできません。そうではなく、ひとつだけピンポイントで決めればいい。たとえば、退社時間をそのポイントにしてもいいでしょうね。絶対にその時間に退社すると決めて、日中はメリハリをつけて仕事をする。そうすると、退社時間を守るだけなのに今度は生活リズムが全部つながっていることが幸いして、次第に全体が改善していくというロジックです。
もうひとつ、注目すべきは「感情」です。我々の行動習慣がどういうところからできあがっているかというと、ものの捉え方や考え方の習慣。そして、さらにそれらは感情の習慣によってできあがっています。悪い習慣を続けてしまうのも、その行動をすることが気持ちいいという感情を与えてくれるからです。
わたしはすごく本を読む人間なのですが、よく「どうやって読書習慣を身につければいいのですか?」なんて聞かれることがあります。いろいろとテクニックはありますが、わたしにとっては、読書がただ快感であり、好きなのです。
「人間は感情の生き物」という言葉もありますが、まさにその通りではないでしょうか。楽しかったり意味を感じることは続きますし、しんどかったり意味を感じないことは続かない。単にそれだけのことと言えます。だからこそ、意図的に自分の感情に注目すれば、自分を変えることにもつながっていくのです。
つい人の揚げ足を取ってしまうという癖に悩んでいる人がいるとしましょう。悩んでいるということは、そういう自分に嫌気が差しているということでしょう。でも、自分では気づいていないだけで、揚げ足を取ることのどこかに快感を感じているのかもしれません。現時点では嫌気より快感のほうが強いために、つい揚げ足を取ってしまう。それが、快感より嫌気が強くなれば、自然と揚げ足を取らなくなるのです。
自分の悪い癖を直したいと考え、その行動をしてしまったときに自分の感情にフォーカスする。「またやってしまった……」と強い嫌悪感を覚えることができれば、無自覚の快感があったとしても、いずれその行動はしなくなります。人間は感情の生き物で、しんどかったり意味を感じなかったりすることは続かないのですから。
楽しくなることを増やして、いい習慣を根づかせる
ひとつ伝えておきたいのは、感情の習慣が「マイナス累積」になっているような人は要注意かもしれません。日々の生活のなかで多くのマイナス感情をためてしまう、簡単に言えばストレスを感じることが多い人だからです。
人間は、マイナス感情をためると、プラスの感情を与えてくれる行動を取ってバランスを取ろうとします。けれど、そういうストレスフルな生活のなかで簡単にプラス感情を与えてくれるのは、暴飲暴食や無駄にスマホをいじるといった、悪い習慣として根づきやすい行動です。そうではなくて、まずはなるべくマイナス感情をためない生活を心がけること、そして、たとえマイナス感情をためてしまっても、ジョギングや読書といった自分のためになるいい習慣でプラス感情を与えることが重要です。
ただ、ジョギングや読書をすべき、というふうに「こうするべき」と考えるのは避けることも大切かもしれません。これは特に、男性に多い思考です。感情を無視して「こうすべき」という理由や損得勘定だけで考えると、その行動ができなかった場合には、自己嫌悪感、つまりマイナス感情をためてしまいます。すると、その行動をしようとしないほうがマイナス感情はたまらないと感じて、もうその行動はしないという選択をしてしまう。結局、いい習慣になるはずの行動は定着しません。
自分の感情に目を向けて、もっと感情が豊かになったり、楽しくてワクワクする気持ちを増やしたりすることを考えてください。たとえば、早起きといういい習慣を続けたいとしましょう。早起き自体によろこびを感じることもあるでしょうけど、早起きして自分でパンを焼いてみるでもいい。パンを焼く行動にもよろこびを感じれば、自然に早起きも続きますし、プラスの感情をより高めるということにもなるのです。
悪い癖や性格を直すということではありませんが、いい習慣を根づかせていくことも、自分を変えることにつながっていくはずです。
■第1回『「習慣化」が仕事力を上げる』はこちら ■第3回『勉強・読書……インプット行動を習慣化するテクニック』はこちら
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【プロフィール】 古川武士(ふるかわ・たけし) 1977年3月20日生まれ、大阪府出身。習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。関西大学経済学部卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。ビジネスコーチングの経験から「習慣化」がビジネスパーソンにとって最も重要だと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。独自の習慣化理論・技術を基に、個人コンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援をおこなっている。『図解 マイナス思考からすぐに抜け出す9つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『成果を増やす 働く時間は減らす 高密度仕事術』(かんき出版)など、著書多数。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。