勉強・読書……インプット行動を習慣化するテクニック——習慣化コンサルタント・古川武士さんインタビュー【第3回】

勉強したい、しなければならないと思いながらも、ついつい三日坊主で終わってしまう。ほとんどの人にそんな経験があるでしょう。読書や勉強など、インプットする行動を習慣化するには、他の習慣化とは異なる特別なテクニックがあるのでしょうか?

習慣化コンサルタントとして活躍し、「読書好き」を自認する古川武士さんが、その方法論を教えてくれました。

■第2回『習慣から自分を変える技術』はこちら

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

一度にひとつの習慣に絞ることが習慣化成功への道

なにを習慣化させるかというちがいによって細かいテクニックはありますが、読書や勉強に限らず、習慣化の基本ステップを理解してもらうのがその早道です。うまく習慣化させるための原則をお教えしましょう。一度にひとつの習慣にする」「行動ルールをシンプルにする」「結果を気にしないの3つです。

まずは、ひとつ目の「一度にひとつの習慣にする」について。「ジムに行って」「運動する」となると、それだけでふたつを新たにはじめることになりますよね? 「早起きして」「勉強する」も同様です。「早起きする目的は勉強なんだからいいじゃないか」と思うかもしれませんが、意外とこれが難しい(苦笑)。早起きできても勉強する気が起きないこともあるじゃないですか。そうすると、せっかく早起きはできているのに、多くの人が「できなかった」と思ってしまうものです。

少し話は脱線しますが、この「できなかった」という感情がやっかいなんですね。特に完璧主義の人は強くそう感じてしまう傾向にあるようです。そういうタイプの人は、「100点じゃなければ0点」だと考えるので、ちょっとでもできたことを「今日はこれだけはできた」とポジティブに捉えることができません。「できなかった」と感じて自己嫌悪感だけをためてしまうわけです。その自己嫌悪感を覚えたくないがために、起きようとしない、勉強しようとしない……結果として、あきらめることになってしまう。なにかの習慣を身につけたい場合、完璧主義はご法度だということになります。

さて、「早起きして」「勉強する」ことを習慣化したいのであれば、まずはどちらかひとつに絞りましょう。起きる時間は変えずに、15分でも20分でも早く家を出て、職場近くのカフェで勉強する時間をつくる。あるいは、わざわざ時間をつくらなくても、通勤時間に勉強してもいい。そうやって勉強するという行動が定着したら、次により多くの勉強時間を取るために早起きの習慣化を目指します。

逆に、まずは早起きすることだけを心がけ、気分が乗るときは勉強するけど、そうじゃないときは勉強しなくてもいいというルールを自分に与えてみるのもありです。自然に早起きができるようになったら、今度は勉強することの習慣化を目指す。そうすれば、多少の時間はかかりますが、より確実に「早起きして、勉強する」というふたつの習慣を身に付けることができることになります。

行動ルールをシンプルにして、結果は気にしない

ふたつ目の原則は、「行動ルールをシンプルにする」こと。「いつ、どこで、なにをするのか」ということを、できるだけ明確にかつシンプルに決めるというものです。「出社前に、どこそこのカフェで、英語のリスニングの勉強をする」と決めたら、他の時間や場所でリスニング以外の勉強はしない。ルールを明確にシンプルにすればするほど行動というのは起きやすいものですから、ひいては習慣として頭が認識してくれやすくなるという流れです。

最後の原則は、「結果を気にしない」こと。「TOEICで何点取る」というような目標はあってもかまいませんが、ちょっと勉強しただけでは目標を達成できないどころか、逆に得点が下がってしまうこともあります。その結果に振り回されると、「もっと勉強しなきゃ」と、20分に決めていた勉強時間を、30分、1時間と増やすことにもなるでしょう。そうすると無理が出て、結局、勉強自体をやめてしまうのです。

そもそも目指していたのは習慣化だったはずですよね。であれば、毎日、自然に勉強できている時点で、すでに本来の目標は達成できているのです。英語の勉強などは、継続していれば時間はかかっても必ず結果が出ます。目の前の結果を気にせず、習慣化という本来の目標を見失わないよう気をつけてください

家以外の場所で朝に勉強すべし

それでは、読書や勉強などインプットする行動を習慣化する際のテクニックもお教えしておきましょう。

まずは場所が重要。僕の考えでは、家で勉強するのは避けたほうがいいですね。なぜなら、人間の気分というのは場所とすごく密接にリンクしているものだからです。

家というのは基本的にリラックスするためにある場所ですよね? 家にはいろいろな行動の選択肢と誘惑がありますから、勉強に集中するには多くのエネルギーが必要とされる場所です。

一方、職場は仕事をする場所なので、自然と緊張する。職場の最寄り駅に着いただけでもなんとなく緊張しませんか? 緊張感を持って勉強したいのなら、職場近くのカフェやレンタルスペースでやることをおすすめします。職場に向かう通勤電車のなかもいい選択だと思いますね。

続いて時間です。結論から言うと、勉強するのは朝がおすすめ。夜は、残業や飲み会が入ったりするなど予定が変動しやすいですよね。朝と比べて、勉強時間という「聖域」を守りにくいのです。

それから、脳のリソースを考えても朝に勉強したほうがいい。勉強はただ長時間やればいいというものではなく、集中してやらなければなりません。日中の仕事などでエネルギーを奪われた後の夜の脳と、睡眠を取ってエネルギーを充填された直後の朝の脳では、集中力に雲泥の差がありますよ。

それに、朝、勉強をしてはじまる1日って単純に気分がいい。それが、自己肯定感を高めることにもつながります。朝に勉強をするとなると、自分で起きる時間を決めますよね。出社時間になんとか間に合う時間に飛び起きる、つまり、会社に「起こされる」のではなく、自分で「起きる」ということになる。自分で決めたルールを自分で守るのですから、自分自身をコントロールする主導権を、会社など他者から取り戻すということになります。それが、自己肯定感を高めてくれるわけです。

アウトプットこそがインプットの最高のテクニック

最後に、とっておきのテクニックをお伝えしましょう。それは、「インプットよりアウトプットを重視する」ということです。僕の場合であれば、書籍の執筆やブログ、音声配信サービスなどのアウトプットをおこなっています。すると、必然的にインプットも飢えるようにするようになるのです。

アウトプットの場を設けることなくインプットだけをしていると、どこまでいってもその旅は終わりません。知れば知るほど、逆に知らないことがどんどん出てくるだけですからね。そこで、不完全ななかでも踏み出すというアウトプットすることこそが大切になる。そうすると、自分にとって本当に重要なこと、必要なことを見極められるようになって、インプットの質も変わるんですよ。

以前僕は、小説の執筆講座に通ったことがあります。ほとんどの受講者の多くは、まだ小説を書いたことがない人たちでした。でも変ではありませんか? 好きなら、まず書けばいいんですよ(笑)。それで壁にぶつかったり、わからないことが明確に見えたりすれば、同じ講座を受けても吸収できるものの質は各段にちがってきます。

勉強したいという人から「どうやって勉強時間を確保すべきか」という質問を受けることも多いのですが、そういう勉強熱心な人なら、過去にいろいろなタイムマネジメント術を目にしているはずです。それでは、実践しているかというと、多くの人はそうではないでしょう。ただインプットして満足してしまっているんですね。

この記事にしてもそうかもしれません。勉強の習慣化のテクニックを知っただけで満足してしまっては、なんの意味もないのです。ぜひ、実践して、自分の体験を通して、習慣化とはどんなものかを感じてください。とはいえ、わたしも読書好きですから、インプットする楽しさもよくわかるんですけどね(笑)。

■第1回『「習慣化」が仕事力を上げる』はこちら ■第2回『習慣から自分を変える技術』はこちら

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古川武士

日本実業出版社(2010)

【プロフィール】 古川武士(ふるかわ・たけし) 1977年3月20日生まれ、大阪府出身。習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。関西大学経済学部卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。ビジネスコーチングの経験から「習慣化」がビジネスパーソンにとって最も重要だと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。独自の習慣化理論・技術を基に、個人コンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援をおこなっている。『図解 マイナス思考からすぐに抜け出す9つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『成果を増やす 働く時間は減らす 高密度仕事術』(かんき出版)など、著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。

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