これからの時代に求められる「変な人」は「感動する心」を忘れない——人材採用アドバイザー・米田靖之さんインタビュー【第3回】

多くの人間が働く企業では、周囲と協調してスムーズに仕事を進められる常識人こそ求められそうなものです。ところが、日本たばこ産業(JT)の元執行役員で、長く採用に関わってきた米田靖之さんは「これからの時代に求められるのは『変な人』だ」と断言します。

では、「変な人」になるにはいったいどうすればいいのでしょうか? そのための秘訣や、米田さんが重視している思考や習慣を聞いてきました。

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構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

仕事に必要な3つの力

「変な人」というのは、とにかく「根が素直で無邪気」。どんなに年齢を重ねて、どんな上の役職に就いていても、いつまでも子どものように目がキラキラしている人です(※米田さんが思う「変な人」については、第1回『これからの時代に求められるのは「変な人」』を参照)。

そういう人は、往々にして「朝令暮改」のタイプでもあります。最初は「こっちがいい」と言っていたのに、別のものがいいと思ったら「やっぱりこっち」と平気で意見を変えられる。わたしがニューヨーク事務所にいたときの上司も、完全にそういう人でした。ひとつ、エピソードをご紹介しましょう。

当時はAppleのMacintoshが出始めの時代ですが、そのMacintoshは「これではまだおもちゃだ」と言われていました。でも、アメリカでMacを見たわたしは感動し、「これで世の中が変わる!」と思いました。そこでわたしはニューヨーク事務所のパソコンをすべてMacに変えようと企み、上司の説得にかかりました。じつは、その上司は別のメーカーのドキュメントプロセッサを使って「ニューヨーク事務所と日本の本社を結ぶんだ」と、そのメーカーのアメリカ本社と掛け合っていたところでした。そして、1年かけて説得は成功し、その上司は結果的にMac派に転身(笑)。すると、「俺は前からMacはいいと思ってたんだよな」なんて平然と言う。無邪気な人なので、悪気があってのことではありません。裏なんてなにもなく、純粋にそう思ってしまうのです。

しかも、「これはいい!」と思ったら、そういう人はすぐに動きます。そして、たくさんの失敗をする。でも、たくさんのチャレンジのうち、いくつかは成功するので、失敗が見えにくくなるんですよ。水面下ではいっぱい失敗しているのに、なんとなく「あの人はいつも成功している」というふうに見られるという得な人でもありますね。

ただ、その失敗には大いに意味もある。「失敗は成功の母」なんて言葉もありますが、まさにその通りではないでしょうか。とはいえ、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということではありません。チャレンジして、失敗して、はじめてひらめくものがあるのです。それはチャレンジしなければ絶対に思いつかないもの。失敗を踏み台にして、どんどん新しいものを考えていかなければ、アイデアは面白くなっていかないのです。

なにより重要なのが、チャレンジする、「やる」ということです。わたしは、仕事に必要な力は基本的に3つだと思っています。それは、「なにをやるかを考え出す力」「それを実現する方法を考え出す力」、そして「ゴールに到達するまでやり抜く力」です。ただいろいろなことを企むだけでは駄目。やってこそ意味がある。そして、それをいかに早くたくさん繰り返せるかというところが勝負になってくるのです。

意図的に「まともな人」にならないように行動する

残念なのは、どんなに無邪気でチャレンジ精神にあふれた「変な人」であっても、あるところで「まともな人」になってしまうケースもあること。そうなる兆候は、好奇心が薄れることと並行して表れます。

わたしは、まともにならないよう、好奇心が薄れないように意図的に行動しています。たとえば新しいものを目にしたら、とにかく手に取ってみる。レストランで見たことがない料理があったら、まず食べてみる。はずれたら嫌だから、すでに知っているメニューを頼んでしまうという人も多いでしょう。まあ、実際のところ、そういう珍しいメニューはだいたいはずれですよ。本当においしければ、定番メニューになっているはずですからね(笑)。

ただ、あえてはずれを引くためにそうしているところもあるのです。「こんなにまずいものをなぜメニューに載せているのか? そこにはなにか意味があるはずだ」なんて、いろいろなことを考えるきっかけになりますし、失敗がなんらかのひらめきを導いてくれることもあるからです。

そして、「写真を撮る」「メモをする」ことも、わたしが「変な人」であるためにやっていること。「いいな」と思ったものは撮影する。なにかを思いついたらすぐにメモを取る。いまならどちらもスマホで簡単にできることですよね。これが、好奇心を保ち、新たな発想をもたらしてくれるのです。

とはいえ、その写真を後で見返すということはほとんどありません。でも、日常的に写真を撮るという行為を繰り返すことで「見えないもの」が見えるようになる。日頃から「なにか面白いものがないか」と虎視眈々と周囲を見回している人間にしか見えないものがあるのです。そうすると、仮に写真を撮らないにしても、いろいろなものが目に入るようになり、ひらめきを生む材料を蓄積できるというわけです。

メモにしてもそう。後で見返すことはまずありません。ですが、メモしなければすぐに忘れてしまうことも、メモすることでその思いつきが潜在意識に固定化されます。それがのちのちどこかで生きてくる。ひらめきというのは、なにがきっかけで生まれるかわかるものではありません。蓄積した意識や情報が、ひらめきを生むのです。その材料が多いに越したことはないですよね。

新しい発想やひらめきを生むのは「感動する心」

そして、なによりも「外へ出て」「感動する」ことが重要でしょう。とはいえ、ただ外に出るだけでは意味がありません。企業の研究者がある学会に行くとします。多くの研究者は、自分の専門分野、あるいはそれに近いものを見て帰ってくるでしょう。それは「情報収集」のために行っているからです。

そうではなくて、「発想刺激」を受けるためと意識を変えるべきなのです。そうすれば、顔つきを見て面白いと思った人と名刺交換をして、後日、あらためて会ってみるなど、学会の使い方も変わってくるのではないでしょうか。情報収集して知識をたくさんインプットすれば発想が湧くというのであれば、コンピューターが最高の発想を生んでいるはずですよね。

発想、ひらめきに必要なものは情報や知識だけではありません。もっとも重要なものは「感動する心」なのだと思います。わたし自身が気になるものがあれば写真を撮るのも、発想刺激を受けるため。外出するのも、すべては感動を求めてのことです。

どんな人も、幼い頃にはいろいろなことにもっともっと感動していたでしょう。ただ、「まともな人」になった大人も感動する心を失ったわけではありません。その心に常識という蓋がされているだけです。その蓋をはずすため、好奇心を忘れないように心がけてほしいですね。

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米田靖之

KADOKAWA(2018)

【プロフィール】 米田靖之(よねだ・やすゆき) 1958年生まれ。1982年、東京大学工学部を卒業し日本専売公社(現JT)に入社。ニューヨーク事務所、人事課採用担当、人事部採用チームリーダー、人事部長、製品開発部長、たばこ中央研究所長などを経て、執行役員R&D責任者となる。2015年末に退任し、2018年1月に「LIFE STAGE LAB」を設立。現在は企業の人材採用アドバイザーを務める。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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