人間は “合理的に” 不合理である。組織経済学で明らかになった「失敗のメカニズム」

研究や仕事をするうえで欠かせないのが、チームを組んで仲間と協力することです。チームを組むというのは、業務を分担して効率化したり、メンバーそれぞれの得意・不得意をうまく組み合わせて補い合ったり、さまざまな角度から議論を進めたりするうえで非常に重要です。こうしたプロセスを経て完成した仕事であれば、個人でやるよりも何倍もの完成度になる……はず。と思いきや、現実は必ずしもそうではありません。

チームみんなで議論したにもかかわらず、正しい方向に進むことなくまとはずれな結論に至るというのは、意外とよくあることなのではないでしょうか。実は、そうした失敗を招いてしまうのには大きな原因が存在します。

今回の記事では、組織経済学という学問の観点に基づいた、チームが必ずしもよく機能しない理由と、それを乗り越える方法について検討していきます。

名だたる大企業だってうまくいかない

優秀な人材を多く擁する、だれでも知っているような大企業。そこでは、論理的な思考力を持った優れた人たちが、時間をかけて戦略を練りに練って、さまざまなプロジェクトを進めています。にもかかわらず、こうした進め方がいつでもうまく働いて好業績につながるわけではありません。プロジェクトの失敗の結果、会社の先行きに悪影響を与えてしまったり、深刻な問題を招いてしまったりすることもあるのです。その理由のひとつに挙げられるのが、いわゆる「大企業病」というもの。

大企業病とは、歴史のある大企業に見られる保守的な行動傾向のこと。古い考え方から抜け出せなかったり、自部門の利益だけを追い求めるようになったり、スムーズな意思疎通ができなかったりするのが大企業病の特徴で、さまざまな場面で問題として取り上げられます。

しかし、この問題がつきまとうのは大企業に限りません。失敗に終わった取り組みのあと、「精いっぱい考えたのに」「良かれと思ったのに」といった声が聞こえてくることが、あなたの身の回りにもありませんか。企業という大きな枠だけでなくチームにおいても、大企業病に見られるような失敗は起こり得ます

実は、そうした失敗は経済学において近年研究が進められてきました。そこで明らかになった失敗のメカニズムとその予防法について説明していきます。

人間は「限定合理的」である!

さきほど取り上げたような問題はかつて、硬直化して官僚的な、時に非合理的に思われる人物が上に立つこともあるような、日本特有の組織構造が原因とされてきました。しかし最近では、本当の意味で不合理な考えを持つ人によって成り立つ組織は、実はあまりないのではないか、と言われています

人間は基本的には合理的です。しかしほとんどの場合、それは限定的なもの。そこに人間、そして組織の失敗の本質があります。

たとえば、あなたがお昼どき、昼食はどこで何を食べようかと考えている場面を想像してください。あなたは、たまたま電車で耳にした、他の乗客が話題にしていた中華料理のことが頭に残っていました。そこで、おいしい中華料理屋はないかと口コミサイトを検索します。おいしい中華料理を食べさせてくれるお店を手っ取り早く見つけたいと思ったからです。

食べたいものを、口コミの評価によって合理的に決めているように見えるこの行動。実は、本当の意味では合理的な行動ではありません。

論理的に言えば、あなたには無限の選択肢があるはずです。時間を大切にしたいからコンビニのおにぎりで済ます。節約したいから自宅で弁当を作る。栄養を重視してサラダのおいしい店に行く……。何を重視するのかによって、選択肢の数は膨大なものとなります。それらを完全に論理的に選ぶということはまずもって不可能ですよね。そのため人間は、ある程度の段階までは合理的な思考を放棄し、重要な部分にのみ考えを集中するという方法を取ります。これが、限定合理性というものです。

限定合理性は、物事を決めやすくなるという点で便利なもの。しかし組織においてこの限定合理性は牙をむきます。そして時として、さまざまな問題を生むことになるのです。

取引コスト

組織における限定合理性の弊害を理解するには、取引コストという概念をおさえる必要があります。取引コストとは、経済学における概念で、何かを取引する際に生じる手数料などのコストのこと。これは、商品を仕入れるときに払う金銭的なコストのみを言うのではありません。今回注目したい取引コストは、組織における情報のやり取りの際のコストです。

情報のやり取りの際の取引コストは、組織の意思決定に非常に重大な影響を与えます。分かりやすく説明しましょう。2人で話し合いをしている際には、情報はくまなく共有されますね。3人となると、タイミングが合わずに1人が欠けるというような状況が出てきます。そして4人、5人と人数が増えていくと、次第に全員で話をすることが難しくなり、次第には個々人が持っている情報に差が出てきます。

このような、情報が十分に行き渡らない状況を作り出すのも取引コストなのです。情報伝達に余計な時間かかる。伝えた情報が間違って理解される。うっかり情報を伝え忘れる。都合の悪い情報を伝えるのに心理的抵抗を感じる。こうしたすべてのことが取引コストなのです。

情報の不十分な伝達。組織が大きくなれば大きくなるほど、情報の精度が不十分なまま伝達されてしまう範囲は大きくなります。ここで、もう一度限定合理性というものを思い出しましょう。組織の中で意思決定をする責任がある人物は、さまざまな情報に基づいて「合理的に」判断を行います。しかし、情報が誤っていることや偏っていることは、その限定合理性がゆえに気づきません。それが原因で、限られた情報の範囲では合理的なのに、全体的、長期的に見たら全く見当違いの判断を下してしまうという事態に陥るのです。

組織の不条理をどう防ぐ?

組織が結果的に不合理な意思決定を行ってしまうという問題に、いかに対処したらよいのでしょう。先述の通り、人間は限定合理的で、組織内には取引コストの壁があります。そうした壁を乗り越える方法に関して、イギリスの哲学者ポパー(1902-1994)がある考えを残しています。それはまず、人間は限定合理的であるということを自覚すること。そしてその次に、誤りを積極的に受け入れて批判的な議論を展開するということです。なにか新しいアクションを打ち立てようとしても、硬直した組織の中では本当に合理的な結論には至りません。

このプロセスができない組織では、取引コストは増大するばかりです。そうした組織では、誤った情報に基づく判断が増えます。誤った意思決定ばかりがなされる組織は、業績が悪化し、やがては淘汰されるでしょう。そうならないためには、フラットでかつ批判を受け入れる人間関係が必要となるのです。

では、具体的にはどうすればいいのでしょうか。大企業の例でいえば、組織の硬直化に対する方策として、社外取締役の導入などを行っています。社外取締役とは、会社という組織には直接関係のない人に経営への批判的な関与をさせることで、より経営を合理的に行うことを目指したものです。最近では、ソフトバンクの孫社長やユニクロの柳井社長が社外取締役に著名な人物を起用して話題を呼びました。

こうした方法は、会社とまではいかない小さい組織でも応用が可能です。例えば、集団心理に関する研究を行った心理学者のアーヴィング・ジャニス(1918-1990)が推奨したのが、「悪魔の代弁者」を設けるという方法です。悪魔の代弁者とは、多数意見に対してわざと異論を唱えるという役割を持つ人のこと。

例えば、ある学生グループがビジネスコンテストに出場するとしたら、そのグループの何人かを「悪魔の代弁者」に指名します。「地産地消のメニューを提供する配食サービスを立ち上げ、農家の衰退を防ぐ」というプランを考える場合、「悪魔の代弁者」は、地産地消のメニューをやっても意味がない理由やそもそもやれない理由を考え、徹底的にメンバーにぶつけていくのです。そうすることで、本当にそれが実現可能であるかどうか、見落としているポイントがないのかどうかをもれなく議論することが可能になります。これが限定合理性ゆえの失敗を防ぐことにつながるのです。

*** 人間が完全には合理的でない以上、不合理になることは防ぎにくいものです。その前提から出発し、組織が失敗に陥ることを防ぐ取り組みによって合理的な道筋を探っていきましょう。

(参考) 菊澤研宗(2017),『組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ』,中央公論新社. 菊澤研宗(2009),『組織は合理的に失敗する』,日本経済新聞出版社. 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎(1991),『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』,中央公論社. ビジネスを面白くするナレッジライブラリ GLOBIS知見録|魔女狩りの悪夢――あなたは同調圧力に抗えますか? StudyHacker|大企業病

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