自分を導ける者だけが、優れたリーダーになる——Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一さんインタビュー【第3回】

著書『1分で話せ』が大ヒット中の伊藤羊一さんは、現在Yahoo!アカデミア学長として次世代リーダーの育成に携わり、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでアドバイザーとしても活躍しています。

そこで、どうすれば優れたリーダーになれるのかという、その必要条件を聞いてきました。いまリーダーである人はもちろんのこと、今後リーダーを目指す人は必読です。

■第1回『人を動かすプレゼンの極意』 ■第2回『ロジカルに納得させ、人生を賭けた「想い」で人を動かす』 ■第3回『自分を導ける者だけが、優れたリーダーになる』

構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介 写真/玉井美世子

優れたリーダーはいまの自分に「熱狂」している

わたしがYahoo!アカデミアでリーダーを育成するときは、技術的な面の指導はあまり行いません。それよりも、「これまでどんな人生を送ってきたのだろう?」「自分の信念はなんだろう?」というような内省と対話を繰り返すことで、人生を生きる意味や目的を見出す手伝いをしています。

一般的にリーダーと言えば、人を導く存在というイメージがあると思います。部下やチームを引っ張ったり、まわりの人を巻き込んだりする人たちですね。これを「Lead the people」としましょう。そして、そんな人がチームを動かしていると、多かれ少なかれ社会を動かすことにつながっていきます。これを「Lead the society」とします。

Lead the society Lead the people

では、どうすれば「Lead the people」ができるようになるのでしょうか? それは、「自分が熱狂する」ことです。つまり、リーダーには「Lead the self」という要素が絶対に必要だとわたしは考えています。たとえば、スタートアップ企業は「わたしがこうしたい!」という地点からすべてがはじまります。つまり、熱狂している自分が自分自身をリードすることで、まわりにも段々と火がついていくわけですね。図示するとこのようになります。

Lead the society Lead the people Lead the self

「自分はこれをやりたい」「自分はこんな人生を送りたい」という明確なビジョンを持ち、かつそれに熱狂していれば人は自ずとついてきます。だからこそ、わたしは次世代のリーダーたちに、「自分の信念はなんだろう?」と問い続けているのです。いま自分の「譲れない想い」に従って仕事をしている人こそが、まわりの人を熱狂できる未来へ力強く導いていくからです。

いま「譲れない想い」は、過去の経験から生まれる

では、いまの自分の「譲れない想い」はどこから生まれるのでしょう? これは人それぞれ、全員ちがいます。なぜなら、それは過去の経験から生まれるからです。つまり、こういうことです。

過去の経験→いま「譲れない想い」→熱狂できる未来

よく「いまを生きろ」とか、「ネガティブな過去にとらわれるな」と言われますよね? たしかにそのとおりなのですが、だからこそわたしは過去を見つめる必要があると考えています。人生の軌跡である過去をしっかり振り返ることで、いまを知り、未来に思いを馳せる。このサイクルを繰り返すことで、いま「譲れない想い」とともに自らを導くことができるのです。

ただ、残念ながら、「譲れない想い」を持って生きている人は少ないと感じます。毎日をぼんやり過ごし、人生の時間を無駄にしている人はとても多いのではないでしょうか。加えて、「それはそれ、これはこれ」とわけている人も多い。たとえば、「この仕事は僕の人生のテーマとはちがうから感情は込めていない」みたいな人がたくさんいます。でもそんな人が話すことに、どこの誰が納得させられるでしょうか? プレゼンでも、「これは仕事だから」といった雰囲気がどこかで見え隠れしているから、伝わらないし人を動かせないのです。

コミュニケーションは、いま生きている人生や生活のうえで考えていることを交換し合うことです。そのときに自分を貫く明確な信念や思いがなければ、相手の心には届きません。いまこの一瞬を「lead the self」して生きながら、未来へ向けて話すこと。それができない人は、「リーダーになってはいけない」とまでわたしは思います。

未来をつくるために「いまこの瞬間」から自分を変えよう

過去を振り返る具体的な方法はいくつかありますが、自分の人生の経験とモチベーションの軌跡を記録する「ライフラインチャート」というツールがあります。人生のどんなときに好調だったか、不調に陥ったかを記録するツールです。(※参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000199583.pdf(厚生労働省 平成29年度労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業))

これを眺めていると、じつにいろいろなことを考える契機になりますよ。過去の経験がいまの自分をつくり、いまの経験が未来の自分をつくることがはっきりと理解できるし、変化の軌跡を見ながら「人は変われる」という思いを強くすることもできます。逆に、自分の変わらない部分に気づくこともあるでしょう。そして、もし未来を変えたいのなら「いまのモチベーションの延長線でいいのか?」という示唆も得ることができます。

人生を大逆転させたくても、頭で思い描くだけでは実現しません。「いまこの瞬間からなにをするか」を問うことが必要で、いま生きる「全瞬間」を完全燃焼できるかの勝負なのです。そのためには、毎日続けることもすごく大切。朝早く起きる、みんなに挨拶する、なんでもいいんです。わたしも変われなくて悩んでいた時期がありましたが、本当に変わりたいなら、結局いまこの瞬間から変わるしか他に道はありませんでした。

自分を変えるポイントのひとつは、感性を豊かにしておくこと。お客さんの一言で変わったという人がいたなら、その人は偶然変わったわけではなく、お客さんの一言に感激できる感性を持っていたのです。以前のわたしは、好奇心があまり強くないタイプでした。そんな自分に危機感を感じて、感性を磨くつもりで孫正義さんの後継者を育てる学校であるソフトバンクアカデミアに参加したのです。すると、来ていた人たちはみんな好奇心の塊のような人ばかり。わたしは彼らをつぶさに観察しました。するとあるとき、みんなふたつの言葉しか言ってないことにふと気づいたのです。その言葉は……

「すげえ!」 「やべえ!」

みんなこれしか言ってないんです。本当ですよ(笑)。だから、わたしも真似して、このふたつの言葉が言えるように自分を変えていきました。すると、どんどん自分の奥底から感性が湧き出てきて、まわりからも刺激を受け取れるようになっていったのです。

つまり、自分を変える気持ちは意図的に育てる必要があるということ。最初はしっくりこなくても、なりきって続けてみればいい。これこそが「Lead the self」なのです。誰もがリーダーになる必要はありません。でも、自分が生きたいように自分自身を導くことができれば、きっとどんな人でも充実した人生を送れるだろうと信じています。

【Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一さん インタビュー記事一覧】 ■第1回『人を動かすプレゼンの極意』 ■第2回『ロジカルに納得させ、人生を賭けた「想い」で人を動かす』 ■第3回『自分を導ける者だけが、優れたリーダーになる』

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伊藤羊一

SBクリエイティブ(2018)

【プロフィール】 伊藤羊一(いとう・よういち) ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト。Yahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行に入行し、企業金融、事業再生支援などに従事。2003年からプラス株式会社に勤務し、事業部門であるジョインテックスカンパニーでロジスティクス再編、事業再編などを担当。2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。2015年4月よりヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。かつては、ソフトバンクアカデミアに所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEOコースで年間1位の成績を修めた。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目を教える他、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務めている。

【ライタープロフィール】 辻本圭介(つじもと・けいすけ) 1975年生まれ、京都市出身。大学卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌の編集に携わる。2009年以後、上場企業の広報・IR媒体の企画・専門編集に携わりながら、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。

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