「先行き不透明」なんて言葉を頻繁に見聞きするいま、将来に対してさまざまな不安を感じてしまうものです。もちろん、それは自分の人生について真剣に考えているからこそでしょう。けれども、「不安を感じすぎている状態はよくない」と言うのは、「目標実現のスペシャリスト」であるメンタルコーチの大平信孝(おおひら・のぶたか)さんです。
大平さんは、「不安に対処するには、行動量を増やすことが大切」とも語ります。そして、そうするための「仮決め仮行動」というメソッドには、不安を減らすことのほかにも多くのメリットがあるのだそう。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
行動の「量」を上げて不安を減少させる「仮決め仮行動」
不安には放置しておくと増えていくという性質がある一方、対処するための何かしらの行動を起こせば減っていくという特性があります(『最も成長できるのは適度に○○を感じるとき。学びを得やすい「ラーニングゾーン」への入り方』参照)。つまり、不安であるならまず動いてみることが重要であり、さらに言えば行動の「量」を増やすことが求められます。
では、行動量を増やすにはどうすればいいでしょうか? そのためのキーとなるのが「仮」という言葉です。私は、行動量を増やすためのメソッドを「仮決め仮行動」と名づけました。では、具体的に解説していきましょう。
不安を感じすぎている人は、どうしても自分に自信がもてません。そのため人の意見を聞きすぎてしまうなどして混乱し、自分がやるべき行動を決められないという状態に陥りがちです。でも、「仮」でいいのでとにかくやるべきことを決めるのです。そして、実際に行動する。それが、「仮決め仮行動」です。
不安を感じすぎている人の場合、「失敗したくない」という思いからどうしても最初から「正解」を求めてしまう。そうして、「これは間違っているかも……」「いまはちょっと保留しよう」というふうに考えて行動に移せないのです。でも、最初から正解にたどり着けなくても問題はありません。実際に行動してみて、もし「あれ、これはちょっと違ったかな」と思ったのなら、そのつど、軌道修正すればいいだけの話ではありませんか。
仮で決めて、仮で行動し、もし間違っていると感じたなら軌道修正する。このサイクルをどんどん回していくことで、行動量は格段に上がっていきます。
主体的に自分で決めることが、将来のためのトレーニングになる
また、この「仮決め仮行動」には、「自己肯定感を向上させる」というメリットもあります。やるべき行動は自分自身で決めたことですから、それがうまくいっているなら自信をもつことにつながるでしょう。
もし間違っていたとしても、自分で決めたことですからその失敗にも納得感をもてる。「そうか、こういう行動だとこうなるのか」と反省し、失敗を糧に前に進んでいけるでしょう。それもまた、自己肯定感を高めることにつながると思います。とにかく、他人が決めたことではなく、自分で決めたことをするというのが大切です。
もちろん個人差はありますが、20代など若いビジネスパーソンの場合なら、おそらくは上司や先輩から指示された仕事をこなすことが多いはず。けれど、若手であってもいわゆる「デキる」と言われる人、「有望株」と言われる人というのは、指示されたことも自分なりに考えて工夫し、「こういうふうに考えてこうやってみましたがどうですか?」と「自分で決める」ことが多いように思います。「やらされ感」がないのです。
立場のうえではまだまだ指示される側である若いビジネスパーソンも、なるべく「自分で決める」ことを増やしていくことが重要でしょう。もちろん、仕事である以上、それには限界があるかもしれません。でも、仕事の進め方といった、指示されたなかでも自分で決められることはありますよね。
それこそ、プライベートのことなら誰に指示されることもありません。オフをどう過ごすか、将来のためにプライベートの時間に何をするか、極端なことを言えば今日の昼に何を食べるかといった些細なことも含めて、日常のあらゆる場面において主体的に自分で決めることを増やしていく。それが、自己肯定感を高め、さらには将来的に決断をしなければならない上の立場になったときのためのトレーニングにもなります。
コロナ禍のなかで求められるセルフマネジメントにも有効
この「仮決め仮行動」と軌道修正は、セルフマネジメントにも大いに役立ちます。コロナ禍のなかでリモートワークが広まったいま、私はセルフマネジメントに悩んでいる人からの相談を頻繁に受けています。要は、自宅での仕事の進め方など、自分で決めなければならないことが急に増えたため、自分をうまくマネジメントできなくなってしまったのです。
でも、なかにはうまくセルフマネジメントできている人もいる。もともとハイパフォーマーだった人は、「自分でどんどん仕事を進められるし、プライベートも充実するし、リモートワークはいいことばかり!」と、コロナ禍であっても生き生きと働いています。もちろん、対照的に「出社しなくていいんだ!」と仕事をサボってどんどんスキルを下げてしまっている人もいるでしょう。
要するに、ビジネスパーソンの二極化が始まっているのです。もちろん、いいほうの「極」でありたいですよね。そのために、「仮決め仮行動」と軌道修正が威力を発揮します。
これまで指示を待っているだけだった人の場合、コロナ禍によって上司や先輩との接触が減っているなかで大きな成果を挙げることは難しくなっているはずです。でも、とにかく仮で決めて仮で行動し、もし間違っていたとしても軌道修正して絶えず行動するという人ならどうでしょうか? いまは若くて経験がなく成果につながらなかったとしても、そういった主体的な姿勢は、間違いなく組織内で評価されると思いますし、多くの経験を積むことやスキルの獲得にもつながります。
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【プロフィール】
大平信孝(おおひら・のぶたか)
1975年生まれ、長野県出身。株式会社アンカリング・イノベーション代表取締役。第一線で活躍するリーダーのためのメンタルコーチ。中央大学卒業。会社員時代、自身がキャリア構築や部下育成に悩んだ経験から、脳科学とアドラー心理学を組み合わせた独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。これまで1万人以上のリーダーの人材育成・セルフマネジメント・キャリア構築に関する悩みを解決してきた他、アスリート、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績により、メディアからの注目度も上昇中。メルマガを毎日執筆し、オンラインサロン「行動イノベーションLabo」も運営する。『「続けられる人」だけが人生を変えられる ダメな自分がなりたい自分になる“1分ノート”』(青春出版社)、『今すぐ変わりたい人の行動イノベーション』(秀和システム)、『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』(かんき出版)、『先延ばしは1冊のノートでなくなる』(大和書房)、『「続けられない自分」を変える本』(フォレスト出版)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。