「10秒アクション」が先延ばし癖解消に効く脳科学的根拠。脳をだませば “行動できる人” になれる!

やるべきことはいくらでもあるのに、ついつい先延ばししてしまう――。仕事でも勉強でもプライベートのことでも、多くの人に経験があることでしょう。とはいえ、長年の間に身に染み付いた行動パターンはなかなか変えられないものです。

そこで今回お話を聞いたのは、「目標実現の専門家」であるメンタルコーチ・大平信孝(おおひら・のぶたか)さん先延ばし癖から脱却するための独自メソッドを公開してくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「ぶっ飛んだ目標」を立てて「その気」になる!

行動を先延ばししないために、わたしが提唱しているメソッドはふたつ。「ぶっ飛んだ目標を立てる」こと、そして「10秒アクション」です。それでは、それぞれの解説をしていきましょう。

まずは「ぶっ飛んだ目標」を立てるということについて。「ぶっ飛んだ目標」というと、まわりから見てあっと驚くような奇想天外なものや、世界規模でなにかを起こすというような大それたものを想像するかもしれません。でも、そうではなく、自分の枠を少し飛び越えるような、「あくまでも自分の主観でぶっ飛んだ目標」であればいいのです

そしてその目標は、「この目標を実現できたら、楽しそうだぞ」と思うような、自分にとって魅力的なものだとベターですね。それによってなにが起きるかというと、「その気になる」のです。目標達成にはやる気も大事ですが、「その気」はやる気よりもさらに前のめりのものです。目標に向かう力がより強いといえます。

その気になれたらしめたもの。目標が励みになり、努力しているという感覚もなく、どんどん前に進んでいけるはずです。それはいわば、「気づいたら行動している」ような状態。「先延ばしなんてするわけがない」という、非常にいいスパイラルに入っていくのです。

一方、ぶっ飛んだ目標の対極にあるのが、ありきたりの目標。つまり、予定調和の目標です。目標というよりも、予定といっていいでしょう。当然、それらの多くは魅力的ではありませんから、なかなか「その気」にもなれません。

とはいえ、会社に勤めるビジネスパーソンであれば、上司からそういった目標を課せられることもあります。もちろん、そういった目標や予定も仕事には不可欠のものです。そういうときは、プライベートで個人的なぶっ飛んだ目標を掲げましょう。それが人生の励みになり、仕事もうまくまわりはじめるということにもなるからです。

家族旅行も立派な「ぶっ飛んだ目標」

わたしのセミナーで会った、ある人を例に挙げましょう。その人が掲げたぶっ飛んだ目標は「家族4人で一泊二日の温泉旅行をする」というものでした。人によっては、「全然ぶっ飛んでいないじゃないか」と思うかもしれません。

でも、その人の家族全員のスケジュールが合う週末は年に数えるくらいだし、年頃になった子どもたちとのコミュニケーションも減り、家族旅行を提案するのもそう簡単ではない。家族で温泉旅行に出かけるということは、その人にとって間違いなくぶっ飛んだ目標だったのです。

そして、その目標を掲げてからは毎日が一変した。家族の好みを考えて、行く場所や食べものなどをリサーチし、いわゆる「旅のしおり」をつくっているうち、毎日が楽しくなったというのです

当時、その人は仕事がうまくいっていませんでした。中間管理職で、上司と部下との板挟みになって悩んでいたのです。ところが、温泉旅行という目標が励みになり、仕事にも精力的に取り組めるようになり、ストレスが激減したそうです。

ぶっ飛んだ目標を立てるというと、仕事熱心、勉強熱心な人なら、どうしても仕事や勉強に関する目標だと考えてしまうものでしょう。でも、そうでなくていいのです。どんな人にも、むかしは好きだったのになぜかやめてしまったという趣味がひとつやふたつあるでしょう。その再開を目標にするだけでも、心身の状態が整い、仕事や勉強もうまくまわりはじめるということもあるものです

脳をだまして行動に移す「10秒アクション」

行動を先延ばししないためのもうひとつのメソッドが「10秒アクション」です。これは、やるべき行動を徹底的に細分化するというもの。わたしの経験をお伝えしましょう。数年前、運良く東京マラソンに参加できることになりました。せっかく参加するのなら、やっぱり完走したいですから、週3回、30分のジョグングをすることにしたのです。

でも、「昨日は飲み会だったから……」「今日は雨だし、ちょっと寒いから」と、自分に言い訳をして、ついついサボってしまう(苦笑)。なぜなら、「30分のジョギング」という、いきなり行動に移すにはハードルが高い課題を自分に与えているからです。そこで、課題を10秒の行動に細分化したのです。ジョギングなら、「ジョギングウェアに着替える」「ジョギングシューズを履く」というようなことです

シューズを履けば、とりあえず外に出ますよね。家の近所を散歩するうち、「今日は天気もいいし、公園まで行ってみるか」と思い、結果的にジョギングがはじまる。やるべきことを10秒アクションに細分化することで、心理的ハードルが一気に下がり、行動に移す可能性が格段に高まるというわけです。

このような行動に関しては、脳科学的にも明確な根拠があります。ひとつは、いわゆる「やる気スイッチ」と呼ばれる側坐核(そくざかく)の仕組み。やる気スイッチが入るのは、じつは「行動が起きた後」です。ジョギングの場合、「天気が良ければ」「スケジュールに余裕があれば」とか、それこそ「やる気になれば」なんて条件が満たされるのを待っていては、永遠にやる気スイッチはオンになりません。だから、まず動き出す。そうすれば、やる気スイッチが入り自然に次の行動につながるのです

もうひとつの根拠は、脳が持つ「可塑(かそ)性」という性質です。脳には、大きな変化は受け入れずに元に戻そうとするが、小さな変化は受け入れるという性質があります。粘土をイメージしてください。その粘土のかたちを大きく変えようとすると、脳は粘土を元のかたちに戻そうとする。でも、小さく凹ませたくらいなら、その変化を受け入れてくれるのです。

ジョギングの場合、家のソファでくつろいでいる状態から、いきなりジョギング中の姿をイメージすれば、それは大きな変化ですよね。ジョギングするという直接的なことは脳が簡単に受け入れてくれないけれど、ジョギングウェアを着るくらいなら「ま、いいか」と許してくれる。いわば、脳をだますというわけです

「ぶっ飛んだ目標」、そして「10秒アクション」。多くの人が先延ばし癖から抜け出し成果を出しているメソッドですから、ぜひトライしてみてください。

【大平信孝さん ほかのインタビュー記事はこちら】 「やる気が出ない」は1枚の紙で解消可能。“9つの過去” を書き出すだけで行動力がみなぎるワケ。 悩みが少ない人に共通する「鈍感力」。イヤなことを “さらっと受け流す” には大事なコツがある。

『先延ばしは1冊のノートでなくなる』

大平信孝 著

大和書房(2017)

【プロフィール】 大平信孝(おおひら・のぶたか) 1975年生まれ、長野県出身。株式会社アンカリング・イノベーション代表取締役。第一線で活躍するリーダーのためのメンタルコーチ。中央大学卒業。会社員時代、自身が部下育成に悩んだ経験から、脳科学とアドラー心理学を組み合わせた独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。これまで1万人以上のリーダーの部下育成に関する悩みを解決してきた他、アスリート、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績により、メディアからの注目も増加中。リーダー向けの企業研修やパーソナルコーチングは現在3カ月待ちとなっている。主な著書に『たった1枚の紙で「続かない」「やりたくない」「自信がない」がなくなる』(大和書房)、『今すぐ変わりたい人の行動イノベーション』(秀和システム)、『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』(かんき出版)『本気で変わりたい人の行動イノベーション』(だいわ文庫)などがある。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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