勉強や運動など、「新しいことに挑戦したのになかなか続かない……」。そんな思いをしている人も多いことでしょう。長い時間をかけてできあがった日々の習慣は、簡単に変えられるものではないからです。
そこで、「目標実現のスペシャリスト」であるメンタルコーチの大平信孝(おおひら・のぶたか)さんに、なるべく労せず新たな習慣を身につける方法を教えてもらいました。大平さんがおすすめするのは「習慣化シート」と「三日坊主シート」。それらは、はたしてどんなものなのでしょうか?
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
人間の行動スイッチには2種類しかない
習慣化のメソッドとして、やりたいことを10秒程度でできることに細分化し、それらを少しずつやっていく「10秒アクション」を私は推奨しています(『習慣化はまず「10秒でできること」から始めなさい。』参照)。その10秒アクションを生かして習慣化をより強化するのが、私が提唱する「習慣化シート」と「三日坊主シート」です。それぞれ、どういうものなのかを解説していきます。まずは習慣化シートから。先に現物を見てもらいましょう。
まずは、続けたいことを決めましょう。そして、それを続けることによって味わいたいことと、逆に味わいたくないことをそれぞれ習慣化シートの左下に書き出します。なぜなら、人間の行動スイッチには2種類しかないからです。快を味わいたいから、あるいは不快を味わいたくないから行動を起こすのが、人間という生き物なのです。
「毎日ジョギングを続けたい」という人なら、たとえば、味わいたいことは「ホノルルマラソンを完走して達成感を味わいたい!」「完走後に仲間と乾杯!」といったものかもしれない。一方、味わいたくないことは「途中で膝が痛くなって棄権」「せっかくハワイまで行ったのに観光する余裕もなく帰国」といったところでしょうか。
そうしたら、習慣化シートの右側に、味わいたいことの絵を描いてください。先の例なら、ホノルルマラソンで完走してゴールテープを切り、仲間と乾杯をしている絵を描くのです。また、いつまでにそのゴールを味わいたいかという日付も記入しておきましょう。
未来のイメージをビジュアル化して記憶にする
この、ビジュアル化したイメージを持っておくことはとても重要です。少し抽象的かもしれませんが、人の頭のなかでは「過去のイメージ」と「未来のイメージ」が常に綱引きをしています。新たなことに挑戦できないときは、未来のイメージよりも過去のイメージが勝ってしまっているのです。
つまり、自分が続けたいことをあっさり続けられている「未来の自分」のイメージよりも、うまく続けられなかった「過去の記憶」が勝ってしまっているということ。なぜなら、過去の失敗体験のほうが、自分で実際に経験しているだけに、記憶が鮮明でイメージしやすいから。結果的に「どうせ自分にはできない」というふうに思ってしまいます。そうなると、続けたいと思っていることがあっても、一歩前に踏み出せなくなる。
だからこそ、未来のイメージをビジュアル化することで、まだ起こっていない未来のイメージを鮮明にし、過去のイメージに対するカウンターにするのです。
イメージというのは「第2の緩い現実」です。習慣化シートに描いた未来のイメージを普段から見続けることで、それが現実に起こったことだと脳は勘違いを始める。そうすればしめたもの。薄れていく過去のイメージに対して、日々強化される未来のイメージが綱引きに勝てば、どんどん前に向かって進んでいくことができるでしょう。
最後に、簡単にできる10秒アクションを3つほど書き込んでみましょう。「毎日ジョギングをする」ことが目標なら、「ジョギングシューズを履いて外に出る」「ジョギングするときに聴いている音楽をかける」「近所の散歩を始める」といったことです。これらを、「毎日ジョギングをする」という大目標を達成するための当面の行動目標とします。
もちろん、10秒アクションは3つに限定しなくてもかまいません。ただ、あまりに数が多いと、「どれにしようか……」なんて思っているうちに10秒が過ぎてしまって行動に移せないなんてことにもなります。そうならないためには、やはり3つ程度にしておくといいでしょう。
三日坊主防止には、完璧主義はNG
そして、習慣化シートとセットで使うのが、三日坊主シートです。
これは、習慣化シート作成時に決めた10秒アクションができたかどうかを記入していくもの。タイトルとして10秒アクションを書き込んだら、日付と、できたかどうかを○×で記入し、ちょっとしたコメントを添えます。「ジョギングシューズを履いて外に出る」という10秒アクションなら、「△月□日 ○ ゴミ捨てのついでに10分走れた」といった具合です。
○を記入する代わりにシールを貼ってもいいでしょう。子どもだましのように思うかもしれませんが、その効果は侮れません。大人であっても、続けているうちにシールを貼ることが喜びになるからです。そして、シールを貼りたいがためにアクションを起こすようになります。
ここでのポイントは、「三日坊主は失敗ではない」と認識すること。完璧主義の人ほど、やろうと決めたことを1日でもできなければ、「やっぱり駄目だった」と自分を責めて習慣化をやめてしまいます。でも、あなたが本当に続けたいことは、三日坊主で終わってもいいから、何度でもチャレンジすればいい。
考えてもみてください。10日のうち5日でも6日でも○を書き込めたら、それまでまったくできていなかった人がそれだけできたということ。ゼロが5や6になるのですから、それだけでも大きな成長ではないですか。三日坊主シートは、毎日ちゃんと続けられなくてもいいけれど、本当に続けたいことを続けるために、自分の成長をしっかり感じてモチベーションを維持する仕組みになっているのです。
仮に×を記入する日があったとしても、○を記入した日もある以上、何もやっていなかったときよりは成長できているのです。そのように余裕をもって徐々に○を増やしていけば、結果的に習慣化できます。
【大平信孝さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
大平信孝(おおひら・のぶたか)
1975年生まれ、長野県出身。株式会社アンカリング・イノベーション代表取締役。第一線で活躍するリーダーのためのメンタルコーチ。中央大学卒業。会社員時代、自身がキャリア構築や部下育成に悩んだ経験から、脳科学とアドラー心理学を組み合わせた独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。これまで1万人以上のリーダーの人材育成・セルフマネジメント・キャリア構築に関する悩みを解決してきた他、アスリート、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績により、メディアからの注目も増加中。メルマガを毎日執筆し、オンラインサロン「行動イノベーションLabo」も運営中。主な著書に「先延ばしは1冊のノートでなくなる」(大和書房)、『「やめられる人」と「やめられない人」の習慣』(明日香出版社)、『本気で変わりたい人の行動イノベーション』(だいわ文庫)、『たった1枚の紙で「続かない」「やりたくない」「自信がない」がなくなる』(大和書房)、『今すぐ変わりたい人の行動イノベーション』(秀和システム)、『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』(かんき出版)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。