「毎日一生懸命勉強しているのに、成績がなかなか安定しない」
「とりあえず勉強はしているが、どうすれば効率的に成績が上がるのかわからない」
このように、学習習慣自体は身についているものの「勉強量に対して成績が比例しない」という悩みを抱えている方はいませんか?
安定して成績を向上させ続けるためには、ただひたすら勉強するだけでは非効率。適切な ”学習戦略” が必要です。そこでこの記事では、慶應義塾大学理工学部非常勤講師の心理学者・植木理恵氏が提唱する学習戦略「モニタリング」×「推論」についてご紹介します。
「モニタリング」でわからない部分を明確にする
「モニタリング」とは、問題を解くにあたり「自分がどこまで理解できていて、どこがわかっていないのか」を意識しながら問題を読み進め、解いていくことを指します。
モニタリングは、自分の頭のなかをもうひとりの自分が俯瞰しているイメージで行なうとよいそう。たとえば英語の長文読解なら、「第1パラグラフから第2パラグラフにかけては話の流れをつかめているけど、第3パラグラフで具体例の話になってから、内容のつながりがわからなくなってきているな」といったように、常に内省しながら問題に対する理解度を把握していきます。
コツは、わからないところに「バツ印」、意味の理解が曖昧なところに「三角印」、理解できているところに「丸印」をつけること。
このように「わかる部分」と「わからない部分」を明確に意識しつつ読み進めていけば、わからない部分に対する具体的な対処法を明らかにできると植木氏は言います。たとえば先ほどのケースなら、「具体例の話が、それまでの文脈のどこにかかっているかを印をつけて確認する」という対策を講じることができるのです。
「推論」で意味を推測する
「推論」とは、自分にとって理解しづらいことや抽象的な概念を前にしたときに、過去の経験や自分がすでにもっている知識と結びつけて意味を推測すること。植木氏は、この能力を高めると、わからない部分でいちいち立ち止まることなく「きっとこんな感じだろう」と自分なりの推測で解き続けられるため、学習効率が上がると言います。
また、愛知県立大学教授の池田周氏が行なった研究によれば、推論は、個々の文章の意味を理解するのに加えて、内容全体の意味を把握するのにも役立つそう。明白には述べられていない内容に対して、推論を用いて情報を補足し統合すると、一貫した記憶として脳に定着すると伝えています。
たとえば、英語の長文読解で知らない単語が出てきたとき、推論をすればスムーズに読み進めることができるでしょう。もし「without」という前置詞の意味がわからなくても、”with” + ”out” という単語の構成から、「おそらくwithとは反対のニュアンスだろう」と、自分の知識を応用して推測できるようになるのです。
「モニタリング」×「推論」で成績は向上し続ける
植木氏によれば、「モニタリング」と「推論」というふたつの要素を組み合わせた学習戦略を実践することで、自分の理解度を客観的に把握・分析しながら、一方で内容を自分と関連づけて感覚的に理解できるようになるとのこと。学習戦略を実践しない場合と比べて理解度が大きく変わり、結果として成績が向上し続けると言います。
植木氏が高校生125名を対象に行なった実験でも、「モニタリング」と「推論」の両方を教授された生徒のグループだけが、教授された1週間後から7ヶ月間のすべての時期にわたって成績の伸びが維持されたという結果が出たそうです。
では、私たちはどのように「モニタリング」と「推論」を組み合わせて実践すればよいのでしょうか。具体的な3つの場面を想定してご紹介します。
1. 単語など知識部分における「モニタリング」×「推論」
たとえば、意味を知らない、あるいは意味を忘れてしまった英単語をモニタリングによって見つけた場合。その単語にまず印をつけておきましょう。
わからない単語の存在を認識したうえで、「この単語を分解すると、別の単語が含まれているからそれに関連した意味だろう」「例文の文脈を考えると、この単語と同じ意味で使われていそうだな」「この単語は文章中に何回も出てきているから、内容の中心的な意味をもっているのかもしれない」といったように、知らない単語の意味を推論しながら、できるだけ立ち止まることなく文章を読み進めていってください。最後までわからなかった場合に、初めて意味を調べるようにしましょう。
2. 読解における「モニタリング」×「推論」
たとえば、モニタリングを行ない「途中まで読み進めたけど、このパラグラフの内容が少し理解しづらい」とわかったら、前項でもお伝えしたのと同様に、そのパラグラフ部分にマークをつけて強調しておきます。
そして「このパラグラフは ”しかし” という言葉から文章が始まっているから、きっとこれまでと反対の内容か、あるいはデメリットについて書かれているのだろう」といった感じで、パラグラフごとの意味を、文中の情報をもとに推論しながら読み進めてみてください。それでも理解できなかった場合には、パラグラフを分解して1文ごとにモニタリングと推論を繰り返してみましょう。
3. 記述・論文問題における「モニタリング」×「推論」
記述形式の問題を解く際や、自分の意見を論文で書くような場合にも、「モニタリング」×「推論」の学習戦略を応用できます。
たとえば、現在の状況をモニタリングしてみたら「自分は文章の構成について悩んでいる」とわかったとしましょう。次は、解答文の構成の仕方について具体的に推論していくステップに移ります。「前に勉強した模範解答例をまねるとよさそうだ」「最近書いた大学のレポートと同じような構成で書けるだろう」というように、自分の経験に照らし合わせれば、記述形式の解答を効率よく作成することができるはずです。
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成績アップのためのひとつの学習戦略として、「モニタリング」×「推論」をぜひ実践してみてください。
(参考)
大学受験パスナビ|心理学的学習戦略! モニタリング×推論で読み解く力を伸ばす
池田周(1994),「読解における推論のタイプとその役割について」, 中国地区英語教育学会研究紀要, 24巻, pp.97-106.
植木理恵(2004),「自己モニタリング方略の定着にはどのような指導が必要か」, 教育心理学教育, 52巻3号, pp.277-286.
【ライタープロフィール】
YOTA
大学では法律学を専攻。塾講師として、中学~大学受験の6科目以上の指導経験をもつ。成功者の勉強法、効率的な学び方、モチベーション維持への関心が強い。広い執筆・リサーチ経験で得た豊富な知識を生かし、効率を追求しながら法律家を目指して日々勉強中。