「天職」に就くことを阻む“3つの悪い口癖”。言いがちな人は思考をこう変えるべし

中越裕史さんインタビュー「天職に就くことを阻む心理的ブレーキ」01

せっかく働くのなら、自分の「天職」に就きたい――。これは多くの社会人の願いでしょう。しかし、その願いを叶えるために動けている人はそれほど多くはないかもしれません。

カウンセラーとして、働く人たちの天職探しをお手伝いしている中越裕史(なかごし・ひろし)さんによれば、その要因はある心理的ブレーキにあるのだそう。そのブレーキを乗り越え、天職に就くために必要な思考とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

天職に就くことを諦め気味の人の3つの口癖

「天職に就きたい」と思いながらも諦め気味の人が言いがちな言葉があります。それは、だってお金が……」「だって年齢が……」「だって才能が……の3つです。

これらは「自動思考」と呼ばれるものによる言葉です。いまの仕事が嫌だと感じている人のなかには、「それなら、好きなことを仕事にしたら?」と誰かに言われた瞬間に、「だって家族もいるからある程度のお金は必要だし……」「だって年齢的に転職は厳しいし……」「だってやりたいことの才能は自分にはないし……」と、考えるより先に言葉に出てしまう人が多いのです。

ただ、これらの言葉を発した人に対して、「それはあなたの思い込みです」「間違いです」と軽々しく言うことはできません。そうすると、心理学的には、その人はその思いから抜け出すことがよりいっそう難しくなってしまうのです。

それに、「だってお金が……」と考えることはいたって自然な反応です。それなりの年齢で家族を抱えている人が、突然自分が好きなことを仕事にして給料が半分になったとしたら、それまでと同じように家族を養えるわけがありません。そのことに対して不安を抱くのは当然のことなのです。

中越裕史さんインタビュー「天職に就くことを阻む心理的ブレーキ」02

「本音の本音」のなかからの「大丈夫」にたどり着く

そこで、もしみなさんがさまざまな「だって」という不安を抱えつつも天職に就きたいのなら、まずはその「だって」という不安を抱くことを否定するのではなく、自然な反応だと受け止めることを考えてください。そのうえで、「もしかしたら、自分にも別の可能性があるかもしれない」と考えてほしいのです。

そうすれば、いったんは自分の不安を受け止めていますから、冷静に自分自身や周囲を見ることができます。すると、「たしかに年齢のことは気になるけど、自分がやりたいことを同じような年齢から始めた人もいる」「自分にもできるのではないか」などと思えることにもなるでしょう。不安を受け止め、自分が置かれている現実を見つめながらも、可能性を感じている自分にも注目してあげる。それが、自動思考を乗り越えるために重要な考え方です。

そうして自動思考を乗り越えられれば、自分の心の本音の本音のなかから、たとえば「お金のことについてはまだ不安があるけど、年齢のことについては大丈夫だ!」と、自分に対して「大丈夫」と思えるようなことも出てくる。この「自分の心の本音の本音のなかから」ということが非常に重要です。そうではない、誰かの意見によって「大丈夫」と思い込もうとしたことは、本人が受け入れることができないからです。

このことは、体の免疫機能ととてもよく似ています。体のなかに他人の細胞が入ってきたら、基本的に私たちの体は他人の細胞を異物として排除しようとしますよね。私たちの心も、他人の意見によって思い込もうとしたことには、体と同じく拒絶反応を示すのです。

中越裕史さんインタビュー「天職に就くことを阻む心理的ブレーキ」03

スモールステップで少しずつ自分を天職に近づける

そのようにして、「この分野だったら、自分に向いているかもしれない」と可能性を感じる分野が見つかったら、小さな「スモールステップ」でその分野との距離を近づけていきましょう。いまの仕事とは別の仕事に可能性を感じている人は、つい大きなステップを踏みがちです。なぜなら、そういう人の多くに「焦り」があるから。

私自身の例を挙げてみましょう。私は、心理カウンセラーを志したときに、とても難解な心理学の古書を買ってきて読もうとしました。それもやはり焦りがあったからです。ところが、最初の1、2ページで挫折してしまった……(苦笑)。当時の私には心理学の基本的な知識も、もっと言えば読書習慣もありませんでしたから、それも当然のことです。

そこで私は、その古書の著者の本を一番わかりやすく解説している本を買い直しました。そして、その本をまずは通勤バッグのなかに入れておくことにしたのです。すると、電車のなかでスマホを取り出そうとバッグを開くとその本が目につく。目についたら、「じゃ、1ページだけ読んでみようか」なんて気持ちになったりもします。

人間は不思議なもので、「1ページだけ読んでみよう」と思って本を読み始めたら、20分も30分も読み続けてしまうことも珍しくありません。そうして、私は徐々に心理学の知識を蓄え、最終的には難解な専門書も読むことができるようになり、いまの立場にあるのです。

そのように、なるべく小さなステップを踏むことを心がけてください。私のように読書でもいいですし、1日1回、自分のやりたい分野についてネット検索するということでもかまいません。その小さなステップの蓄積こそが、あなたが可能性を感じる分野にあなた自身を着実に近づけてくれるはずです。

中越裕史さんインタビュー「天職に就くことを阻む心理的ブレーキ」04

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【プロフィール】
中越裕史(なかごし・ひろし)
1979年9月13日、大阪府生まれ。やりたいこと探し専門心理カウンセラー。社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。自身が会社員時代に働くなかでさまざまな問題に直面したことで、働きながら猛勉強の末にカウンセラーの資格を取得し独立。2005年より「天職探し心理学 ハッピーキャリア」(https://happy-career.com/)を運営し、働く人のためにカウンセリングを行っている。『「うつ」な気分を手放す方法 カウンセラーが自分のうつを克服した考え方』(NextPublishing Authors Press)、『好きなことが天職になる心理学』(PHP研究所)、『「やりがい」のない仕事はやめていい。』(総合法令出版)、『「やる気」が出る心理学』(PHP研究所)、『絵本を読むと「天職」が見つかる』(廣済堂出版)、『「天職」がわかる心理学 いまの仕事で心が満たされていますか?』(PHP研究所)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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