数十年にわたる認知研究に裏打ちされた「6つの効果的な学習戦略」を、認知心理学者らが明確に提示してくれました。日々勉強に勤んでいるのに結果が出ない……そう悩むみなさまに紹介しましょう。
効果的な学習のための6つの戦略
認知心理学者のミーガン・スメラッキ氏らは2018年に、以下6つの効果的な学習戦略を認知研究のジャーナル『Cognitive Research:Principles and Implications』で発表しました。
- Spacing(Spaced practice)
- Retrieval Practice
- Elaboration
- Interleaving
- Concrete Examples
- Dual Coding
6つの学習戦略の詳細
それぞれを詳しく説明します。
1.「Spacing」:間隔
たとえば2週間にまたがる分散させた学習の合計5時間は、一度に5時間続けて学習するよりも効果的です。毎日少しの時間を確保して、時間をかけて勉強しましょう。
(※枠内と枠内下の黒字:6つの戦略のポスターとスメラッキ氏らによる2018年の論文参考)
同じ内容を1回で集中的に学習するより、日を分けて繰り返し学習するほうが記憶の保持率が高くなります。次はその根拠となるデータの一部です(※以下、青字は主に学術論文などのデータを示す)。
- UCLAの心理学者ロバート・ビョーク氏らは2011年に、詰め込み型の学習で得た情報は急速に忘れられると述べ、間隔を空けて学習することを提案(APA:アメリカ心理学会データベースより)。
- ダートマス大学助教のショーンH・K・カン氏は2016年に、何百もの認知心理学と教育心理学の研究が、詰め込み型の学習より分散学習のほうが優れていることを示していると『Behavioral and Brain Sciences』で報告。
2.「Retrieval Practice」:想起練習
学習したことを思い出す練習をしましょう。そして、できるだけ多くの模擬テストを受けましょう。
テストの意外な利点は記憶を改善すること。思い出す(想起)練習になるからです。
- 前出のカン氏は同論文で、分散学習にテストを組み込むと利点が増幅すると主張。
- ワシントン大学教授のヘンリー・ローディガー氏やスメラッキ氏らは2011年に、テストによる想起が記憶を強化し、関連情報へのリンクをスムーズにすると『Psychology of Learning and Motivation』で説明。
- 同ジャーナルでは2014年にパデュー大学などが、繰り返し思い出すと前後関係を絡めて情報が更新されるので思い出しやすくなると報告。
思い出す努力が必要なほど効果的ですが、結果的に思い出せないと記憶の改善がうまくいかないので、想起練習は忘れそうなギリギリのところで行なうのがおすすめ。
3.「Elaboration」:精緻化
学んだ物事が機能する理由と方法を、人に質問あるいは説明しましょう。
学習の精緻化(詳しく細かくしていくこと)は「新しい情報」を脳内にある「既存の情報」に結びつけます。
- 認知心理学者のジョン・R・アンダーソン氏は1983年に、覚えた内容の精緻化は、記憶を増やすうえで最も強力な方法だと主張。
- 心理学研究者のマーク・A・マクダニエル氏は1996年に、『Journal of Educational Psychology』で精巧な質問が強力な学習効果を生み出すと示した。
4.「Interleaving」:交互配置
長時間1つのことばかりを勉強せず、トピックを切り替えて勉強しましょう。
たとえばAについてだけを勉強するのではなく、途中で少し関連したBに切り替え、そのあとやはり少し関連したCに切り替えて勉強すると学習が強化されます。さまざまな問題の解決方法を、適切に選択できるようになるからです。
- 大学生を対象とした研究(Rohrer and Taylor, 2007)では、さまざまな数学問題をシャッフルしたほうが、同じような問題ばかりより、1週間後のテストでパフォーマンスが向上した。
- 前出のロバート・ビョーク氏らによる実験では、さまざまな画家の絵画を研究した学生は、特定の画家の絵画を研究した参加者よりも、のちの識別テストで成功した。
5.「Concrete Examples」:具体例
抽象的な概念を学ぶときは、その概念を説明できるような具体例を探しましょう。
「この作品を言葉で表現するのは難しいですが、たとえば〇〇タイプです」――具体的な例を使用して抽象的な概念を補足すると、理解しやすく覚えやすくなります。
- ケント州立大学教授のキャサリン・A・ローソン氏らによる2015年の研究では、定義のみを勉強した学生よりも、例示的な学習を行なった学生のほうが、テストのパフォーマンスが高かった。
- 2016年のアルバータ大学による研究では、単語イメージを喚起する表現が、優れた連想記憶をサポートすると示唆。
6.「Dual Coding」:二元的な符号化
言葉とビジュアルを組み合わせて学びましょう。 インフォグラフィックやイラスト、漫画など、さまざまな方法を試してみてください。
テキストだけよりも、簡単なイラストを加えたほうが学習を強化します。
- デュアルコーディング理論(視覚情報と言語情報はそれぞれ別々に処理される)を提案(1971, 1986)した心理学者のアラン・パイヴィオ氏は、イメージの形成が学習を助けると考え同理論を発展させた。
- 教育心理学者のリチャード・E・メイヤー氏らは1992年に、280人の大学生を対象に行なった実験の結果がデュアルコーディングモデルと一致したことを報告。
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6つの戦略は、少しずつ重なり、つながっています。1つからでもお試しくださいね。
(参考)
Learning & Technology Library (LearnTechLib)|The Instructive Animation: Helping Students Build Connections between Words and Pictures in Multimedia Learning
SAGE Journals|Spaced Repetition Promotes Efficient and Effective Learning: Policy Implications for Instruction - Sean H. K. Kang, 2016
SAGE Journals|Learning Concepts and Categories: Is Spacing the “Enemy of Induction”? - Nate Kornell, Robert A. Bjork, 2008
ResearchGate|Ten Benefits of Testing and Their Applications to Educational Practice
PubMed|Word Imageability Enhances Association-memory by Increasing Hippocampal Engagement
PsycNET|The power of examples: Illustrative examples enhance conceptual learning of declarative concepts.
PsycNET|Making things hard on yourself, but in a good way: Creating desirable difficulties to enhance learning.
PsycNETLearning| with analogy and elaborative interrogation.
ScienceDirect|Retrieval-Based Learning: An Episodic Context Account
The Learning Scientists|Six Strategies for Effective Learning
The Learning Scientists|Posters
NCBI|PMC|Teaching the science of learning
Wikipedia|Dual-coding theory
Wikipedia|Allan Paivio
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