しっかり勉強した “つもり” でも、実際には効果の薄い努力になってしまう場合があるそうです。しかし、同じ “つもり” でも、あとで人に教える “つもり” で勉強すると、グンと効果が高まるのだとか。
本記事では、「あとで人に教えるつもりで勉強」することが、「勉強したつもりになっているだけ」の、予防・改善策になりうることを紹介します。
「勉強したつもり」の危険性
まずは、知らないでいると大切な時間をどんどん消費してしまう、「勉強したつもり」の例を3つ紹介しましょう。
1. ひたすら「見る・読む・書く」だけで覚えたつもり
一般社団法人 教育デザインラボの代表理事を務める教育評論家の石田勝紀氏は、非効率な勉強手段として、以下3つの “つもり” を挙げています。
1. 見て覚えたつもり
2. 読んで覚えたつもり
3. 書いて覚えたつもり
*上記いずれも一部の天才を除く
たしかに、見るだけ、読むだけ、書くだけでは、目の前の情報をただ “なぞる” だけになってしまいますよね。石田氏はこれらを「補助的な作業」と表現し、
覚えるとは「自分で繰り返しテストすること」
だと説いています。つまりそれは、自分で問題集やミニテストを行い、“できる・できない” を確認しながら覚えていく(それを繰り返す)ことを指すのだとか。
(参考およびカギカッコ内含む引用元:東洋経済オンライン|「1日10時間勉強してもダメな子」の本質的理由)
石田氏の言葉を参考にしつつ、段階的に考えれば、
- 問題集やミニテストで、頭にインプットした情報に繰り返し接続
- ⇒そこで覚えられているか否か、理解できているか否かを確かめる
- ⇒そのうえで、より的確に学習を進めていく
といったところでしょうか。先述の “なぞる” だけ勉強とは、かなり違いますよね。
2.「問題を解いて終わり」で覚えたつもり
また、株式会社セガにゲームプランナーとして入社したあと、2020年春に36歳で東京大学文科三類に合格し、サラリーマン東大生となった松下佳樹氏によれば、過去問や問題集を
「解いて丸付けをしただけで終わり」では、勉強をしたつもりになっているだけで、効果的に時間を過ごしたとは言い難い
とのこと。知識欲が最高潮の問題を解いた直後に、解説文を読んで、その問題の本質(それが問うていることや、解くためのキーポイントなど)をつかむべきなのだとか。大切なのは問題を解く作業よりも、その根本的な性質・要素・仕組みを知ることなのですね。
また、その際に、
「ああ、そういうことか!」「へえ、そうなんだ!」と思えるレベルの過去問・問題集が、自分にとって最も適切なもの
(参考および引用元:松下佳樹著(2021),『30代サラリーマンが1日1時間で東大に合格した 「超」効率勉強法』,彩図社.)
なのだそうです。解きっぱなしは「勉強したつもり」を引き起こすうえに、適切な教材であるかどうかを、確かめるチャンスまで失ってしまうわけです。
3.「ネット動画による勉強」でたくさん勉強したつもり
資格スクエア創業者で弁護士の鬼頭政人氏は、著書のなかで「参考書」による勉強と、「ネット動画」による勉強のメリット・デメリットを次のように挙げています。
- 「参考書」による勉強のメリット:進行スピードが速い
デメリット:(ひとつひとつの単元の)情報量が少なく、印象度が低い - 「ネット動画」による勉強のメリット:情報量が多く、印象度が高い
デメリット:進行スピードが遅い
したがって――たとえば2時間かけてネット動画で勉強した場合、たくさん勉強した気にはなるけれど、実際には3ぺ―ジぐらいしか進んでいないこともありうるそうです。そうしたデメリットを克服するため、鬼頭氏はネット動画で勉強する際には、2~3倍速で見るのだとか。そして、
ネット動画による勉強にはこうした危険があることを認識したうえで、「倍速で見る」「重要分野だけ見る」「参考書でわからないところだけを見る」など、活用を工夫するようにしましょう。
(参考および引用元:鬼頭政人著(2022),『資格試験に一発合格する人は、「これ」しかやらない 忙しい社会人のための「割り切る勉強法」』,PHP研究所.)
と伝えています。
ネット動画に限らず、「特定の情報量を増やすこと」と「進行速度の低下」が相関関係にあることは、あらゆる勉強において留意しておくべきことかもしれませんね。
「勉強したつもり」を防ぐために必要なこと
これまでの内容から、“勉強したつもり” を防ぐためには、以下の行動や意識が必要だとわかりました。
- 自分で繰り返しテストを行なう
- 自分の “わかる・わからない” を確認する
- 解き方だけでなく、解いた問題の本質を理解する
- 時間あたりの進行スピードを常に意識しておく
つまり、どんな勉強をするにしても
――インプットした頭のなかの情報に何度もアクセスすること、常に自分の学習状況を把握すること、学ぶ内容の根本的な「要素」と「手がかり」をつかむこと(←解いた問題の本質を理解する)、そして、常に進行状況を気にしていること――
が大切なわけです。そして、じつは、そうした自分の勉強への意識の高まりを、必然的に起こしてくれるのが「あとで人に教えるつもりで勉強すること」なのです。
「人に教えるつもりで勉強」すると効果絶大なワケ
明治大学法学部教授の堀田秀吾氏によれば、ワシントン大学セントルイス校の実験で、56人の大学生が
- 「後で人に教えることを前提にしたグループ」
- 「後でテストを受けることを前提にしたグループ」
- 「何も前提としないグループ」
に分かれ、1,541語からなる文章を読んで勉強したあと、その内容についてのテストを実施したところ、1の「後で人に教えることを前提にしたグループ」の成績がよかったそうです。
じつは、こうした実験結果にかかわらず、30年以上も教える仕事に携わってきた堀田氏は、「教えることは学ぶことだと常に痛感」しているのだとか。そして、このように伝えています。
教えるためには、内容をしっかりと理解する必要がある。学ぶ側からの質問でも新たに学ばされることも少なくない。また、教える行為そのものに、頭の中を整理して、自らの理解を深める効果があると感じます。
また、堀田氏は、誰かに教えることを意識して勉強すれば、
より緊張感や集中力、注意深さを持って学んだり、深堀りしたりします。また、「忘れると教えられない!」という緊張感が、短期記憶にも強く作用し、さらに長期記憶にしっかりと移行させる必要性を脳に実感させるのでしょう。
(参考およびカギカッコ内含む引用元:PRESIDENT Online|10分間散歩した後、誰かに教えるつもりで、手書きでノートにまとめると、絶対に忘れない)
と述べています。
たとえば社会人の勉強仲間をつくり、互いに教え合ったり、あるいは学んだことを仕事関係者との雑談や、ミーティング、会議での発言に取り入れたりしようと、真剣に考えてみるのもいかもしれません。
人に教えようとすることで生じた必死さ=勉強への意識の高まりが「勉強したつもり」を防ぎ、学習効果を高めてくれるはずです。
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「あとで人に教えるつもりで勉強」することが、「勉強したつもりになっているだけ」の、予防・改善策になりうることについて紹介しました。よろしければ、勉強の際のヒントにしてみてくださいね。
(参考)
東洋経済オンライン|「1日10時間勉強してもダメな子」の本質的理由
松下佳樹著(2021),『30代サラリーマンが1日1時間で東大に合格した 「超」効率勉強法』,彩図社.
鬼頭政人著(2022),『資格試験に一発合格する人は、「これ」しかやらない 忙しい社会人のための「割り切る勉強法」』,PHP研究所.
PRESIDENT Online|10分間散歩した後、誰かに教えるつもりで、手書きでノートにまとめると、絶対に忘れない
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