自分の考えを述べたものの思うように伝わらなかった……。自分の意図とは違ったかたちで受け取られた……。そんなふうに悩んでいる人はいませんか?
もしかするとその原因は、知らず知らずのうちに使いすぎている「形容詞」にあるかもしれません。形容詞を多用することのデメリットと、その改善方法を紹介しましょう。
形容詞を使いすぎるとなぜマズいのか?
テレビに映った芸能人を見て「かっこいい」「かわいい」、大好きなものを食べて「うまい」「おいしい」。自分が感じたことを直感的に表現できる形容詞は、非常に便利な言葉ですよね。
しかし、「人に何かを伝える」という観点で見ると、その便利さが仇となるケースも。国立国語研究所教授の石黒圭氏は、その理由として「形容詞の3つの発想」を挙げています。
【1】大ざっぱな発想
形容詞は物事を大ざっぱにしか伝えません。たとえば、新商品を説明するときに「この商品はすごい」とだけ述べたところで、期待するような反応は返ってこないでしょう。商品のすごさをきちんと伝えるためには、「すごい」の中に詰まっている「どこかすごいのか」「どのようにすごいのか」まで説明する必要があります。
【2】自己中心的な発想
形容詞はさまざまに解釈されます。たとえば、仕事の期限が迫っていて「終わらせるのが難しい」と伝えたとしましょう。しかし、この「難しい」の中には、「締め切りに間に合わない」ということはもちろん、「体力的に無理をしなければ間に合わない」「(期限内に終わらせるには)スキルが足りていない」など、さまざまな趣意が含まれるはず。たった一言「難しい」とだけ述べても、正確に伝えているとは言いがたいですよね。
【3】ストレートすぎる発想
感情を直感的に表現できるゆえ、相手に鋭く伝わりがちなのも形容詞の特徴です。たとえば、「つまらない」「くだらない」など、その些細な一言が相手を傷つけてしまう可能性も。使い方を誤ると、突き放したような印象を与えてしまいます。
形容詞はこう言い換える!
口頭でも文章でも、形容詞はより具体的な言葉に言い換えるのがベターです。
『10倍速く書ける 超スピード文章術』などの著書で知られる、ブックライターの上阪徹さんは、「『形容詞を使わない』と決める」ことで、形容詞の「中身」に注目できるようになると言います。「中身」とは、形容詞で表現しようとしている事実や体験のこと。本当に伝えたいことは何かに向き合い、形容詞に甘んじるのではなく形容詞の「中身」に言い換えることで、具体性が増して解釈のズレも少なくなるとのこと。
具体的な改善方法を見ていきましょう。
【1】「分析的な視点」で言い換える
この新商品はすごい
↓
この新商品は、性能は変えないまま生産コストを30%削減しているため、消費者に安価な価格で提供することができる
これは、前出の石黒氏がすすめる方法です。なぜ自分がそのように感じたのかを、一般論にならないように、分析的な視点を持って具体的に表現します。上の例でいえば、新商品の「何が」すごいのかが述べられているため、かなり説得力のある説明に変わりましたね。
【2】「客観的な視点」で言い換える
終わらせるのが難しい
↓
〇〇さんから依頼された仕事もあり、締め切りに間に合わなさそうです。週明けに締め切りを伸ばしてもらえないでしょうか?
こちらも石黒氏がすすめる方法で、「主観」を「事実」へと言い換えます。上の例では、「難しそう」を「○○さんから依頼された仕事がある」という客観的な事実に言い換えました。
また、事実の中でも、「数字」は特に解釈がずれにくい言葉。「損失が大きい」であれば「200万円の損失が出た」、「若者に強い」であれば「利用者の8割が若者だ」といった具合に数字を用いれば、誰もが共通の認識を持てますね。
【3】形容詞の「基準」を示すのも手
どうしても形容詞を使いたい場合、誰もがイメージしやすいものを「基準」に説明を補足するのも手です。
たとえば、『150冊執筆売れっ子ライターのもう恥をかかない文章術』などの著書を持つ神山典士氏は、「五感を刺激する表現を盛り込む」ことをすすめています。この典型例は、Apple元CEOの故スティーブ・ジョブズ氏がiPodの小ささを伝えるために述べた「トランプひと組のサイズ」という表現でしょう。視覚的・触覚的な表現が加わったことで、容易にイメージしやすくなっていますね。
あまり過剰になっては逆に伝わりづらいかもしれませんが……適度に五感を刺激する表現を盛り込むことで、共感性が増すだけでなく、こなれた印象も与えられそうです。
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今回ご紹介した「形容詞の言い換え」は、感覚によらない、具体的な改善方法です。伝えるのが苦手な人は、ぜひ試してみてください。
文 / 谷口亮祐
(参考)
プレジデントオンライン|形容詞を多用すると文章はバカっぽくなる
リクナビNEXTジャーナル|わかりやすい文章に「形容詞」が少ない理由――上阪徹の『超スピード文章術』
ダ・ヴィンチニュース| もう文章で困らない! 超絶売れっ子ライターが説く、「人に読ませる文章テクニック」
ログミーBiz|【保存版】スティーブ・ジョブズによる、革新の原点「初代iPod」のプレゼン - 「実はポケットにあります」