ダイヤモンド社などを経て独立し、SHOWROOM株式会社代表・前田裕二氏の著書『メモの魔力』(幻冬舎)など数々のベストセラーに携わってきた編集者が竹村俊助さん。
そんな敏腕編集者になるまでに、どのようなキャリアを歩みどのような勉強をしてきたのでしょうか。編集という仕事に関わる「学び」について教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
竹村俊助(たけむら・しゅんすけ)
1980年生まれ、岐阜県出身。編集者、株式会社WORDS代表取締役。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本実業出版社に入社。書店営業とPRを経験した後、中経出版で編集者としてのキャリアをスタート。その後、星海社、ダイヤモンド社を経て2018年に独立し、2019年に株式会社WORDS代表取締役に就任。SNS時代の「伝わる文章」を探求している。主な編集・ライティング担当作は『段取りの教科書』(水野学)、『福岡市を経営する』(高島宗一郎)、『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平/以上ダイヤモンド社)、『メモの魔力』(前田裕二)、『実験思考』(光本勇介/以上幻冬舎)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(佐藤可士和/日本経済新聞出版)など。手掛けた書籍は累計100万部以上。オンラインメディア「note」に投稿したコンテンツは累計470万PVを超える。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「遊ぶように仕事をする編集者」に憧れた
――竹村さんはなぜ編集者という職業を選んだのでしょうか?
本当のところを言うと、もともと「あまり仕事をしたくない」という気持ちがありまして……(笑)。学生の頃、「会社員になって仕事をするのって大変そうだな」と思っていたのです。
そんなときに読んだのが、『「ポパイ」の時代』(太田出版)という一冊の本でした。雑誌界の源流をつくったと言われる、雑誌『ポパイ』の制作現場にいた当事者たちへのインタビュー集です。「こんなふうに遊ぶように仕事をしている人がいるのか!」と衝撃を受け、「編集者って楽しそうだな」と思ったのが、編集者を志したきっかけです。
でも、私が就活をしたのは就職氷河期の最後くらいの時期です。『ポパイ』の出版元のマガジンハウスは新卒採用をしていませんでした。そこで、片っ端から出版社を受けて、わりとかための実務書やビジネス書を出版している日本実業出版社に入社しました。
――遊ぶように仕事をする編集者にはなれましたか?
いえ、実情はまったく違いました……。『「ポパイ」の時代』には、編集者たちは夕方くらいにスケートボードに乗って出社してくるだとか、深夜にはその辺にあるソファで寝ているといったことが書かれていたのですが、当時の日本実業出版社はいわゆる9時5時の勤務体系だったのです。特に年配の人たちは、定時になるとさっさと帰っていましたね。
しかも、配属されたのは営業部。もちろん、いまとなってはその経験も役立っているのですが、やはり「編集の仕事をしたい」という気持ちは変わらず、3年ほどで中経出版に転職します。そこで編集者としてのキャリアが始まりました。そこから星海社、ダイヤモンド社を経て2018年に独立し、いまに至ります。
【私の経歴】
2005年:早稲田大学政治経済学部卒業
2005年:日本実業出版社入社。書店営業に従事
2007年:中経出版(現KADOKAWA)入社。書籍編集者に
2011年:星海社に新書の編集者として参画
2013年:ダイヤモンド社入社
2018年:独立。ブックライターとして活動開始
2019年:株式会社WORDSを設立
2020年:顧問編集者事業を開始
編集者にとっては、仕事そのものが学びの場
――編集者になるため、あるいは編集者としてどのような勉強をしてきましたか?
正直に言うと特別に勉強をしてきたわけではありません。というのも、編集者やブックライターという仕事については「仕事そのものが学びの場」と言えるからです。
もちろん、取材をする著者のこれまでの著書を読む、決まっているテーマについての最低限の知識をインプットするといったことが勉強と言えるのなら、そういった勉強はもちろんします。でも基本的に、著者に対しては素朴な疑問をぶつけるようにしています。すると、じつは読者も同じようなところでつまずいていることが多く、結果として読者に寄り添った内容にできるのです。
これがビジネスの場だとしたら、たとえばいまさら「インボイス制度ってなんですか?」なんて質問はしづらいものですが、編集者はそんな質問も平気でできてしまいます。もっと言うと、「ばかなほうが、いい仕事ができる」とすら言えます。
「不勉強ですいません」「知らないので教えてください」と、「読者の代表」いうスタンスで話を聞く。それがいい仕事につながるのですから、楽しいし役得だとも感じています。
――そういったコンテンツのテーマに関わることとは別に、編集者としてのスキルに関わる勉強もあると思います。
たしかにそうですね。たとえば、インタビューのスキルもそのひとつです。でも、やはりそれも現場で学ぶということに尽きるのだと思います。そういったスキルは座学で身につけるのが難しいからです。
たとえば、私の会社の若い編集者たちには、意図的に「冷や汗体験」をさせています。取材に同席させて、ある程度時間がたったときに、「なにか質問ある?」といきなり振ってみるのです。社員たちからすると迷惑しているかもしれませんが、「予定していた質問のほかに、取材での回答を受けて自分なりに質問を考える」「その質問によって話を掘り下げる」「どんな質問をすれば取材の場が盛り上がるのか」といったことを学べます。
これが、実体験をともなわずに「自分なりに質問を考えるべき」と座学でいくら学んだところで、本当の意味で身につかないと思うのです。
キモは、いかに自分を「乾いたスポンジ状態」にするか
――竹村さん自身もそういった冷や汗体験で学んできたということですか?
やはり失敗したときが一番学びになりますね。具体的には、つくった本が全然売れなかったときです。そんなときは、「なにがいけなかったのだろう?」「テーマかな、時流かな」と勝手に頭が働きます。
――そうして課題が見つかれば、その課題解決のために学ぶということですね?
ただ、意識的に「学ぼう」と考えるということではないかもしれません。学ぶときに大切なのは、「いかに自分を乾いたスポンジの状態にするか」です。
「勝手に頭が働く」と言いましたが、スポンジになれば、「学ぼう」などと思うまでもなく新たな情報や知識をどんどん吸収することができます。そして、失敗すると自動的にスポンジになれる。「このままじゃヤバい……」という危機感により、「売れている本を読んで分析しよう」「売れている本の共通点はなにか考えてみよう」と、アンテナが立って学びに貪欲になれるのです。
――とはいえ、できれば失敗したくない人もいるかと思います。冷や汗体験や失敗をせずに自分をスポンジ状態にする方法はありますか?
「それしかできない状態」をつくることでしょうね。私の場合、たとえば取材の前に読むべき本があるなら、それだけを持って喫茶店に行きます。そうすると、手元にあるのは読むべき本だけという状態にできます。やれることがそれを読むことしかないのですから、自動的にその本を読むことになります。
そんなとき、スマホは絶対に持って行ってはいけません。自制できる人もいるかもしれませんが、スマホがあると私はずっと見てしまいます(笑)。TikTokもYouTubeも、すごく頭のいい人たちが集まって、「いかに視聴者に時間を使わせて広告主にお金を出させるか」と考えてできたものですから、こちらが生身で立ち向かってかなう相手ではありません。永遠にTikTokを見続けるマシーンになってしまわないよう、学びたいことがあるときはスマホを物理的に遠ざけるのが得策です。
【とある1日のスケジュール】
10:00 作業開始(15時まではなるべく打ち合わせを入れず、原稿の執筆に集中することがポイント)
15:00 出社(15時以降は集中力が切れてくるので、他人との打ち合わせや取材を入れる)
18:00 取材相手の本を持って喫茶店へ
20:00 自宅にて夕食後、SNSで最近の流行りを分析
00:00 就寝
【会社紹介】
株式会社WORDSは、経営者の思考を言語化してコンテンツにまとめる「顧問編集者」の事業を展開しています。「思っていることをまとめてほしい」「知名度を上げたい」「採用に困っている」といったことにお困りの経営者がいらっしゃいましたらご相談ください。
https://words-inc.co.jp/
【竹村俊助さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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