忙しく働きながら空き時間を勉強につぎ込んでいるのに、覚えがよくなかったり、試験に合格できなかったり……。そんなあなたには、勉強時間が限られているがゆえの悪習慣が、身についてしまっているかもしれません。今回は、社会人だからこそ絶対に避けたい「悪い勉強習慣」を4つと、その改善法をご紹介します。
【1】8割くらいで「だいたい終わったぞ」と安心してしまう
予定していた学習内容や勉強時間が終わりに近づいてくると、「だいたい終わったぞ」と妙な達成感を得ることはありませんか? 「明日も仕事だし、だいたいできたからいいかな」などの考えがよぎることもありますよね。じつはこの「だいたい終わった」という感覚は、勉強効率を爆下げする大敵です。
脳医学者の林成之氏によると、脳には自分への報酬をモチベーションとして働く「自己報酬神経群」という部位があるそう。記憶力や思考力を高める働きもします。
林氏いわく、この自己報酬神経群は「報酬が得られた」という結果ではなく「報酬を得られそうだ」という期待で働くそう。「頑張れば報酬を得られそう」という気持ちでいなければ、この部位を活発に働かせることはできないのです。
にもかかわらず、勉強の途中で「終わった!」と報酬を手にしたように感じてしまえば、その瞬間に自己報酬神経群は働きを止め、学習能力を低下させてしまうことになるのだとか。
大切なのは、ゴールが近づいたときほど「ここからが勝負だ」と考えることだと林氏。それには、まだできていない部分を具体的に認識することが有効だそう。問題集の8割を解き終えたら、「残りは5問」と把握する。1時間勉強するつもりで45分経過したら、「残り15分で10ページ進めよう」と決める。このように、できていないことややれることに意識を向けるだけで、勉強効率は向上します。
「だいたいできた」「ほぼ終わった」という感覚は、残りの勉強を無駄なものにしかねません。限られた時間で勉強するからこそ、最後の1分まで意味のある勉強をしましょう!
【2】休憩を惜しんで勉強してしまう
まとまった時間がとれたとき、休憩を惜しんで勉強したり、集中しすぎて休憩を忘れたりすることはありませんか? せっかく確保できたまとまった時間を無駄にしたくない気持ちはわかりますが、休憩を惜しむその熱心さこそ、勉強効率を下げる最悪習慣なのです。
独立行政法人理化学研究所の研究報告によると、休憩中に「小脳皮質」という部位でつくられるタンパク質が、長期記憶の形成には欠かせないのだそう。もともと、適度な休憩をともなう「分散学習」が記憶の定着に有効だと言われており、それをこの研究が脳の働きから実証したとのこと。つまり、時間が惜しいからと休憩なしで勉強することは、かえって勉強内容の記憶定着を妨げることになるのです。
とはいえ、せっかくのまとまった勉強時間中、むやみに休んで集中力を切らしたくないもの。そこで、勉強の効率が最大限高まる休憩のとり方を実現できる方法「ポモドーロ・テクニック」をご紹介しましょう。
これは、イタリア出身のコンサルタント、フランチェスコ・シリロ氏が考案した時間管理術。タイマーを使い、「25分の勉強+5分の休憩」を1セットとして勉強をすすめます。5分休憩では、深呼吸や瞑想をする、コーヒーを飲むなど、勉強とまったく関係ないことをして脳を休ませるのがポイントだそう。4セット繰り返したら20〜30分の長い休憩をとったのち、1セットめから再開です。
シリロ氏によると、この「25分+5分」という間隔が、集中して効率よく勉強するうえで最適なのだとか。長時間の勉強にはぜひ、ポモドーロ・テクニックで効果的に休憩を取り入れてみてください。
【3】復習せずどんどん先の範囲へ進んでしまう
限られた時間でどんどん新しいことを学びたいがために「復習しない」のが習慣になっている場合は、すぐに改善が必要。時間が経つと勉強内容を忘れてしまう人の典型的な最悪習慣です。
脳研究者の池谷裕二氏によると、私たちが得た情報はまず短期記憶として脳に保管され、そのなかでも「海馬」という部位によって「生きていくのに不可欠」と判断された情報だけが、長期記憶として定着するそう。
ところが、勉強で得る情報は生存に必須とまでは言えないものがほとんど。そこで、勉強内容を海馬に「生存に不可欠だ」と認識させる(=だます)必要があります。その方法こそが、「同じ情報を繰り返し脳に送る」こと、つまり「復習」です。
池谷氏は、海馬は1カ月かけて情報を整理するという考えにもとづき、以下のスパンで4回復習することをすすめています。
- 1回め:勉強した翌日
- 2回め:1回めの1週間後
- 3回め:2回めの2週間後
- 4回め:3回めの1カ月後
さらに、より海馬をうまくだますためには、ふたつのポイントをおさえて復習するといいそう。
- アウトプットを重視する:
単に読み直すのではなく、「問題を解く」「声に出して読む」といったアウトプット中心にする。脳は、情報がどれほど使われるかによってその重要度を判断するため。 - 同じ教材を使う:
問題集や参考書は変えず、同じ教材を繰り返し学習する。復習の効果は、「同じ情報を脳に繰り返し送る」ことで表れるため。同じ内容でも教材が変わると、脳はまた1から理解し直さなくてはならなくなる。
やはり、復習しなければ身にはなりません。勉強時間が限られているからこそ、どんどん先へ進むより復習を大事にするほうが、勉強内容を確実にものにできますよ。
【4】伸び悩みに焦って勉強量を増やしてしまう
学習量に比例して効果も右肩上がりに出てほしいのに、模試や過去問の点数が伸び悩むなど、停滞を感じるときもあるでしょう。ただでさえ時間は限られているのに! と焦りを感じて勉強量を増やす――とても自然な流れに思えますが、ちょっと待ってください。じつは、成果が上がらない時期に「焦って勉強量を増やす」のは悪循環を招く最悪の選択肢なのです。
勉強の過程で頑張っても学習効果が得られなくなる停滞期のことを、「プラトー」と呼びます。記憶力日本一に6度輝いた池田義博氏いわく、プラトーの期間とは「脳による知識の成熟期間」。脳はそのあいだ、勉強したもののまだうまく使いこなせない知識を、使える知識につくり変える作業をしているのだそう。本人的には停滞でも、脳では重要な作業が進んでいるため、池田氏はプラトーを「成績が上がる前兆」として喜ぶべき時期だと言います。
とは言っても、実際伸び悩むと安易には喜べませんよね。それでもやはり、落ち込みすぎは禁物。本郷赤門前クリニック院長の吉田たかよし氏によると、停滞への焦りや不安が大きくなると、感情の形成に関わる脳の「扁桃体」が過度に刺激されるそう。その結果、思考を担う脳の司令塔「前頭前野」も悪影響を受け、文章を読めない・問題を解けないといった事態に陥ってしまうとのこと。また、意欲をつかさどる「側坐核」にも悪影響を与え、無気力症候群を引き起こしかねないと言います。
そんなプラトー期は、以下の過ごし方でうまく乗り越えましょう。上2点は吉田氏、下2点は精神科医の和田秀樹氏の解説を参考にしています。
- 教材や勉強法を変えない
- 勉強量を増やさない
- 新しいインプットはしない
- 復習をする
イマイチ勉強の成果を感じられないときこそ、焦りは大敵。特に、先にも挙げた復習には、「これは知っている」と思うことで安心感を得て自信を取り戻し、焦りや不安を抑える効果がありますよ。落ち着いて既習の範囲を振り返りましょう。
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社会人の勉強は「急がば回れ」。頑張り方を間違えるとかえって勉強効率が落ちてしまうので、ぜひ注意してくださいね。
(参考)
林成之(2009),『脳に悪い7つの習慣』, 幻冬舎.
理化学研究所|運動学習の記憶を長持ちさせるには適度な休憩が必要
ニューズウィーク日本版|ポモドーロ・テクニック:世界が実践する時間管理術はこうして生まれた
池谷裕二(2011),『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』, 新潮社.
PRESIDENT Online|「復習4回」で脳をダマすことができる
ダイヤモンド・オンライン|天才にもおとずれるプラトーの正体とは?
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【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。