「日々勉強に励んでいるけれど、最近モチベーションが低下気味。効率も悪くなっている気がする……」とお悩みなら、一風変わった勉強法を取り入れて、事態の改善を図りましょう。
それは「カンニングペーパーをつくる」という勉強法! 筆者も勉強がマンネリ状態になっていたので半信半疑のまま試してみたところ、驚きの効果を実感しました。実践法とともに詳しくお伝えします。
「カンニングペーパーをつくる」勉強法とは
「カンニングペーパーをつくる」という勉強法を提唱するのは、京都大学首席合格経験をもつ教育者・粂原圭太郎氏です。
高校時代、ほとんど勉強していなかった科目のテスト前に「カンニングペーパーをつくってしまおう」と思い立った粂原氏。テストに出そうなことを消しゴムや小さな紙に書き込んだそうです。すると、カンニングペーパーをつくる作業自体が十分な勉強になっていることに気づき、試験ではカンニングせずに点数がとれたのだとか。
粂原氏はこの経験を振り返り、「目的を変えたら、勉強ができた」と述べています。勉強の本来の目的は「合格する」「点数を上げる」などですが、それを「カンニングペーパーをつくる」に変えたことで、結果につながったというのです。
粂原氏いわく、勉強で結果を出すには「没頭する=楽しむ」ことが最も大切。しかし、そう簡単に勉強に没頭できるわけではありません。そこで粂原氏は、「目的のすり替え」によって勉強自体を楽しむことを提案しています。
「点数アップ」を目的に勉強してもなかなか没頭できないのなら、ちょっとふざけてはいますが「カンペづくり」を目的に勉強すれば、その作業自体を楽しめて、自然と勉強にも没頭できる――というロジックです。
カンニングペーパーをつくると勉強効果が高まる理由
カンニングペーパーをつくる勉強法は、脳科学的にも理にかなっています。理由は以下の2点。
「勉強を楽しむ」と脳のパフォーマンスが上がるから
脳医学者の瀧靖之氏によれば、「好き・楽しい」と感じながら学ぶと、感情をつかさどる脳の部位「扁桃体」と記憶をつかさどる「海馬」の神経細胞のつながりが増し、より記憶が定着しやすくなるそうです。
反対に、「嫌い・つらい」という気持ちがあると、ストレスホルモンが海馬を萎縮させてしまうのだとか。
「自らまとめる」ことで記憶が強くなるから
粂原氏は、カンニングペーパーづくりについてこう述べています。
小さなスペースに書くには、公式を選別しなくてはならず、大事な要点もまとめなくてはなりません。どこを書いておけば点数が取れるのかを自分で考え、まとめる必要があります。
(引用元:粂原圭太郎(2020),『偏差値95の勉強法 頭のいい人が知っている「学びを自動化する技術」』, ダイヤモンド社. ※太字による強調は編集部が施した)
このように、情報を自分で整理したりまとめたりしながらインプットすることを、「精緻化リハーサル」と呼びます。精神科医の樺沢紫苑氏によると、精緻化リハーサルは、情報を覚えやすく、忘れにくく、さらに思い出しやすくなる “最強の記憶術”。
カンニングペーパーをつくるなかで、テキストの言葉を自分なりに言い換える、短く要約する、図式化する……といったプロセスが、記憶定着に効くというわけです。
カンニングペーパーをつくってみた
上記の効果を検証するため、筆者もカンニングペーパーをつくって勉強してみました。
ここで、大事なことをひとつお伝えします。この勉強法は決して、実際にテストでカンニングすることを推奨するものではありません。
とはいえ、カンニングを実行する “つもり” でカンニングペーパーをつくることが、じつはけっこう重要(詳しい理由は後述します)。それをふまえて実際に筆者が行なった「カンペ作成の手順」をご紹介します。
粂原氏は詳細な手順までは提唱していないので、筆者なりに工夫し、以下の概要で実施しました。使用した教材は『倍音 音・ことば・身体の文化誌』(中村明一著、春秋社)の第2章・全8節です。
- カンニングのシチュエーションを決める
- カンニングペーパーの素材を用意する
- カンニングペーパーを作成する
1. カンニングのシチュエーションを決める
筆者は特にテスト前というわけではありませんでしたが、数日後に人と会う予定がありました。そこで、「いま勉強している本の内容を人に話してみる」というのを “テスト” と想定。「内容を思い出せなくなったときに使うカンニングペーパー」を作成することにしました。社会人によくある状況で言うなら「研修課題図書の内容を端的に述べる」といったところです。
2. カンニングペーパーの素材を用意する
筆者は「喫茶店で」「対面で」「フォーマルっぽい服」で人と話す予定だったので、カンニングペーパーの素材として、以下を採用しました。
- その1:名刺サイズの情報カード(黒、9cm×5.5cm)4枚
→黒い服を着ていけば、袖やポケットに隠しやすい! - その2:付箋
→今後の予定の話をするので、手帳のなかに仕込む! - その3:手のひら
→王道。気をつけてさえいればバレないはず!
3. カンニングペーパーを作成する
教材の第2章・全8節分の内容を、以下の手順でカンニングペーパーにまとめました。
- 最も自信がない節の内容を、4枚の情報カードに書く(4節分)
- 次に自信がない節の内容を、3枚の付箋に書く(3節分)
- 最も自信がある節の内容は、手のひらに簡単に書いておく(1節分)
「自信がない内容ほどカンニングに頼る可能性が高い。とはいえ、チラチラ見てしまってはカンニングがバレそうだ……」と考えた筆者。そこで、覚える自信がない内容は、最も隠しにくそうな「情報カード」に書くこととし、切実に内容を覚えることを狙ってみました。
以下が、作成したカンニングペーパーです。
まずは「情報カード」で作成(所要時間20分)。
うまく隠すのは難しそうですが、悪くないですね。
次に「付箋」で作成(所要時間15分)。
カモフラージュにほかの情報を書いた付箋をかぶせて、違和感なし。
最後に手のひらに書くと(所要時間15分)、
いい感じに隠せます。
カンニングペーパーをつくって感じた効果
上記の作業を経て “テスト” に臨んだ結果、カンニングなどせずとも本の内容をほぼ万全に相手に伝えきることができました! この好結果はなぜ生まれたのか、カンニングペーパーをつくりながら勉強したことで感じた効果を交えつつお伝えします。
【効果1】復習時間を短縮できた!
「カンニングペーパーをつくる」ことはすなわち、勉強したことの「復習」でもあります。この形式で復習するのにかかった時間は約50分。これまで、同程度の分量を復習するのに2時間ほどかけていましたので、その半分以下となり圧倒的な復習効率のよさを体感しました。
いままでの復習ではなんとなく全体を読み直していたので、どうしても時間がかかっていました。ですが今回カンニングペーパーをつくってみると、必然的に「自信のない情報」「本番で使いそうな情報」に絞って読み直すことに。結果、本の要点と自分の弱点だけを重点的に復習することになり、短い時間ですんだのです。
【効果2】考え抜いたことで理解と記憶が増した!
「精緻化リハーサル」の効果はたしかでした。粂原氏の言葉にあったように、小さな紙に本の情報を書き込むには、本の内容をよく咀嚼する必要がありました。理解が曖昧な部分は何度も読み返し、腑に落ちるまで考えをめぐらせ続けるうち、いつの間にか本の内容をしっかり記憶できていたのです。手のひらにたった2行書くのに15分かかったのも、徹底的に考えたためでした。
これは、字数を絞らざるを得ない “小さなもの” をカンニング道具としたおかげ。みなさんもぜひ、ノートや裏紙よりも、情報カードや付箋などを使ってみてください。また、単に字を羅列するより表形式にすると、複数の情報がスッキリまとまるのでおすすめです。
【提案】「カンニングのシチュエーション」を具体的にイメージしよう!
実際にカンニングするわけではないにしても、「カンニングする状況をしっかりイメージすること」が最大のポイントだと筆者は考えています。というのも、粂原氏が言っていたとおり、「目的のすり替え」によって勉強そのものを楽しむことができるから。
カンニングの状況をできるだけ具体的に想定しながら、うまいまとめ方を楽しく考えているうちに、「いつの間にか勉強していた」という感覚が味わえるのは、非常に唯一性の高い効果です。
また、カンニングの状況を空想していると、意外にも知識の幅が広がりました。筆者は「『音』について本で学んだことを喫茶店で披露する」という想定で勉強していましたので、「喫茶店で耳に入ってくる音と入らない音の違いはなんだろう?」といった疑問が湧き、それを調べることで知識がより増えたのです。
「ランチミーティングで心理学の知識をシェアする」想定であれば「取引先との会食にも心理学が使えるかな?」、「試験を受ける」想定なら「試験ではこんな問われ方も、あんな問われ方もするかな?」――など、疑問が湧けば湧くほど、学びを広げられると思います。
***
少し風変わりな勉強法ですが、効果はたしか。勉強がつらくなったときのアクセントにぜひ利用してみてください。最後に、どんなにいいカンニングペーパーが作成できても、持ち込みNGの試験でカンニングするのは絶対にダメですよ!
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。
(参考)
粂原圭太郎(2020),『偏差値95の勉強法 頭のいい人が知っている「学びを自動化する技術」』, ダイヤモンド社.
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
樺沢紫苑(2019),『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
中村明一(2010),『倍音 音・ことば・身体の文化誌』, 春秋社.