人生において、一度も諦めたことのない人間はいません。大きなものでは自分の進路、小さなものでは今日何食べるか。どんなに偉大な人間でも、毎日食べたいものを食べてきたわけではないでしょう。
「諦める」という言葉は、一見ネガティブに感じます。しかし、「諦める」の語源は古語の「あきらむ」であり、「明らかにする」という意味の言葉だったのです。
ここで一度、「諦める」という行為を見直してみましょう。
人はなぜ諦めるのか?
そもそも、人はなぜあきらめるのでしょうか。
諦めることは、心理学において「コーピング」という行為の一つとされています。コーピングとはストレスをもたらす状況や問題に対して、ストレスを適切にコントロールするための行為を指す心理学的用語です。
諦めるということは、「問題の回避・放置」という否定的なコーピングと捉えられることもある一方で、精神的健康に対して正の機能をもつ肯定的なコーピングとして捉えられることもあり、さまざまな側面を持つ行為であるといえます。
つまり、諦めるという行為は、きちんと理解すれば、自分に良い影響をもたらす行為とすることができるのです。
諦め方について知っておこう
臨床心理士の菅沼慎一郎氏は、諦めるきっかけを以下の3つに分類しています。
・失敗可能性の認識(内的要因によって失敗する可能性があるのであきらめること) ・達成困難の認識(外的要因によって現状では困難なために諦めること) ・達成不可能の認識(努力の有無関わらず、絶対に不可能であるためあきらめること)
この中で正しい諦め方はまず「達成不可能の認識」です。実際には不可能であるにも関わらず諦めないことは、精神的に多大な負担となるからです。
一方で「失敗可能性の認識」と「達成困難の認識」については、諦め方を考える必要があります。その諦め方の例として、菅沼氏は5つのアプローチを提示しています。
・戦略再設定 ・目標の再選択 ・目標の妥協 ・現状の許容 ・目標の放棄
<諦め方>における概念間関係図
(引用元:菅沼慎一郎(2013),「青年期における『諦める』ことの定義と構造に関する研究」,教育心理学研究, 2013, 61, pp. 265-276.)
まず上の2つは、現在の目標を諦めるという側面が非常に弱いものとなっています。「戦略再設定」では目標自体は諦めず、「目標の再選択」では新しい目標を選ぶという側面が強いのです。実際に菅沼氏の調査によると、この2つについては精神的苦痛が小さいという声が多かったそうです。
一方で残りの3つは、現在の目標を諦めるという側面が強いものとなっています。特に「目標の放棄」は、精神的苦痛が大きいという声が多かったそうです。
結論:正しい諦め方とは
まず、自分が諦めるきっかけを認識しましょう。 そして、その上で自分の諦め方を決定します。やはり、諦め方としては「戦略再設定」と「目標の再選択」をおすすめします。
決して、諦めるということは悪いことではありません。悪いのはむしろ、諦めるという行為をただ否定的なものとして捉えること。
諦めるということを良い結果につなぐために、自分の「諦める」ともう一度向き合ってみましょう。
参考文献 菅沼慎一郎(2013),「青年期における『諦める』ことの定義と構造に関する研究」,教育心理学研究, 2013, 61, pp. 265-276. 鈴木伸一(2004),「3次元 (接近-回避, 問題-情動, 行動-認知) モデルによるコーピング分類の妥当性の検討」,心理学研究, 第74巻, 第6号, pp.504-511.