頭のなかが、やるべきことや心配事などでごちゃごちゃしている。周囲とうまく協調して仕事を進めるのが難しい。これらの悩みは一見まったく別のものですが、ある共通の方法で解決できます。それは「書く瞑想」。
「瞑想」と聞くと、どのような印象をもつでしょうか? かつてなら、「スピリチュアルの世界のもの」「なんだか怪しそう……」と思う人も多かったかもしれませんが、Googleをはじめとした世界的大企業が社員研修に取り入れたのが知られたこともあり、好意的にとらえる人も増えています。
多種多様な瞑想のなかでも「書く瞑想」を提唱しているのが、一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事の吉田昌生さん。書く瞑想の基本とビジネスパーソンにとってのメリットについて解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
吉田昌生(よしだ・まさお)
1981年12月29日生まれ、福岡県出身。一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事。株式会社Melonチーフマインドフルネスオフィサー。大学卒業後、理想的な心と身体の在り方を瞑想、ヨガ、心理学などを通して研究。インドをはじめ35カ国以上を巡り、さまざまな文化に触れながら各地の瞑想やヨガを実践。2009年からマインドフルネス指導をはじめ、日本におけるマインドフルネスの啓蒙・普及に早くから貢献。スポーツクラブのプログラム監修、企業研修、「Upmind」をはじめとする瞑想アプリの監修も多数。YouTubeでもマインドフルネスに関する動画を配信中。『1日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門』(WAVE出版)、『1分間瞑想法』(フォレスト出版)、『3分間マインドフルネス 自分をアップデートする28の習慣』(学研プラス)など著書多数。
一般的な瞑想にはない「書く瞑想」の利点
私が提唱している「書く瞑想」とは、その名のとおり、ペンとノートを用意して、自分のなんとなく感じていることや考えていることを書き出す瞑想法です。そうして書き出すことで、気づきを得て自己認識や自己理解を深めていくことを目指します。
一般的に言われる瞑想では、自分の呼吸や身体の状態などを観察して、自らについて気づくのを目指すのですが、それが難しいと感じる人もいます。じっと座っていられないとか、あるいは呼吸や身体の状態を観察しているだけでは自分の考えに気づきにくいというのが主な要因です。
でも、書く瞑想の場合、何分間も静かに座っている必要はありませんし、ぼんやりしていた考えやイメージ、欲求、気になっていることなどを書き出して言語化しますから、多くの人にとって気づきを得られやすいのです。
瞑想というと、なかには「なんだか怪しそう……」と感じる人もいるかもしれませんが、いまではGoogleやAppleが社員の研修プログラムに取り入れていることで、その印象も和らいでいるはずです。Googleでは、いわゆるマインドフルネス瞑想の一環として「ジャーナリング」というメソッドも採用していますが、このジャーナリングもまさしく書く瞑想のひとつです。
ビジネスパーソンにとって、EQ向上が武器になる
この書く瞑想は、ビジネスパーソンに多くのメリットをもたらしてくれます。それらの一部を紹介すると、「思考を整理できる」ことがまず挙げられます。
忙しい社会人の頭のなかはやるべきことや考えるべきこと、心配事や気になっていることなどでぐちゃぐちゃに散らかっています。しかも、そういう状態にあるときは心が混乱状態にあり、どのような考えが頭のなかにあるのかを整理して認識できていないものです。
でも、それらをすべて書き出せば、「ああ、自分はこういうことが気になっているんだな」と明確に認識できます。それだけでも気分はすっきりしますし、そこからさらに前進して、抱えている課題などについての具体的な対処法を考えることもできます。
また、「EQを高められる」のも書く瞑想で得られる大きなメリットです。「EQ」とは、「Emotional Intelligence Quotient」の略で、知能指数を意味するIQに対して、「心の知能指数」と呼ばれます。端的に言うと、「感情を察知してうまくコントロールする能力」です。
書く瞑想で目指すのは、自分についての気づきを得て自己認識や自己理解を深めることでした。つまり、書く瞑想によって「セルフアウェアネス」と呼ばれる自分について気づく力が高まり、自らの感情について気づけるようになるため、結果的にそれらを適切にコントロールするEQも高まるのです。
特に、多くの人と関わりながら仕事をしなければならないビジネスパーソンの場合には、EQの重要性は高いものです。怒りなどに支配されて感情的な言動を繰り返してしまえば、周囲とうまく協調して仕事を進めるのが難しくなります。そうなれば、自分の評価も下がってしまうでしょう。
ブレストの感覚で、思いつくままに自由に書き出す
書く瞑想のやり方はひとつではありません。目的などによりさまざまな手法がありますが、ここでは基本中の基本を紹介しましょう。
社会人のみなさんなら、「ブレインストーミング」という会議手法を知っている人も多いのではないでしょうか。参加者たちが、自由に意見を出し合って新たな発想を生み出したりアイデアをブラッシュアップしたりすることを目指すものです。
このブレインストーミングと書く瞑想の違いは、ほかの参加者の有無だけ。ブレインストーミングと同じような感じで、思いついくままに自由に書き出すのです。なにも思いつかないなら、「なにも思いつかない」と書いてもかまいません。とにかくなにかを書いているうちにそれがきっかけとなり、自分でも意識していなかった言葉が出てきて気づきを得られることもよくあるケースです。
「自由に」と言われると、それこそ「なにを書けばいいのかわからない」という人もいるかもしれません。そういう場合には、なんらかのテーマを自分に与えてみてください。たとえば、「いま感じていることは?」「最近気になっていることは?」「今日やりたいことは?」といったテーマが基本的なものです。
多くの他人と社会生活を営む私たちは、他人がどう考えているか、どう感じているかといったことには日常的に意識を向けますが、自分自身に対してはその意識は意外なほど向けられていません。でも、自分がどのような人生を歩むのかを決めるのはほかならぬ自分自身です。
ですから、書く瞑想によって、まずは「自分の本当の思い」に気づくところから始めていきましょう。それを続ければ、きっと人生がいい方向に変わっていくはずです。
【吉田昌生さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「心が疲れない人」になれる2つの「書く」習慣。不安も悩みもすべて言語化すればメンタルが整う
書けば書くほど「目標達成」しやすくなる。不安が減って行動力が高まる「書く」メソッド
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。