シントピカル読書を知っていますか? 本を "使いこなす" ための『読書力』の高め方

「本に書いてあった内容を実践したのに、うまくいかなかった」 「本には正しいことが書かれていないから、信用ならない」

そんなふうに思っている方はいないでしょうか。

ビジネス書や自己啓発書などには、ビジネスパーソンに役立つテクニックが数多く紹介されていて、成功のための実践法が詳しく書かれています。分かりやすく書かれてはいるのですが、実際に本の内容をその通りに実践しようとすると、意外と難しいもの。普段と違うことをするわけですから、どうしても違和感がありますし、やっぱり自分なりのやり方が一番だと思ってしまいますよね。

ではどうすれば、本に書いてある内容を実践し、役立てることができるのでしょうか? その方法をご紹介します。

本の内容は「鵜呑み」にしてはいけない

本に書かれている内容を、言葉通りに丸ごと受け取ってしまうと、失敗してしまうことがあります。

例えば、自己啓発書のベストセラー『嫌われる勇気』に、「他者を信頼せよ」というアドバイスが書かれています。この言葉を鵜呑みにしたある上司が、部下に実力以上の大きな仕事を任せた結果、ビジネスで大損をしてしまったという例があるのだそう。

では、『嫌われる勇気』に書かれていた内容は間違いだったのでしょうか? いえ、そういうわけではないはずですよね。

本の内容を鵜呑みにして失敗してしまう人は確かに多いと思いますが、ほとんどの場合、その原因は「場合分け不足」であると言えます。

本に書かれていることをあらゆる場合に当てはめるのではなく、「Aという場合はこうだけど、Bな場合にはこうするのがいい」とTPOに応じて実践することが必要なのです。そうすれば、本に書かれているアドバイスは立派な武器となり、ビジネスでもプライベートでもしっかり活かすことができます。

本の内容を試して失敗する人は、本の主人でなく奴隷になってしまっているのです。そうならないために、「どんな人が、どんなときに、どうやって本に書かれていることを実践すれば役立つのか」をしっかり理解する必要があります。

では、具体的にどうしたらそこまで深く本を読み込むことができるのでしょうか? その方法として今回紹介するのは、読書の技術に関する名著『本を読む本』で紹介されている「シントピカル読書」です。

本に書かれている内容は、著者の「意見」

シントピカル読書について知る前に、本とはどういうものなのか、その前提を確認しておきましょう。

多くの本が、権威ある人や著名な人によって書かれています。しかし、絶対的な真理が書かれている本はありません。著者ごとに、経歴や立場が違うからです。例えば、ずる賢いテクニックで実際に成功してきた人が本を書いたら、「ずる賢いテクニックこそ最強だ!」と書くことでしょう。一方で、人道的であり続けて成功した人なら、「人道的であれ!」と書くはずです。

著者のプロフィール、それまでの成功体験が、少なからず本の内容に影響しています。そうである以上、本を読むときには「著者の意見」として内容を読みすすめる必要があるのです。このことを忘れないでください。

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シントピカル読書って何?

上記のことをおさえたうえで、シントピカル読書の実践にうつります。『本を読む本』では、シントピカル読書という読書法について、以下のように説明されています。

同一主題について二冊以上の本を読む方法

(引用元:J・モーティマー・アドラー著,V・チャールズ・ドーレン著,外山滋比古訳,槇未知子訳(1997),『本を読む本』,講談社.)

シントピカル読書の手順は、次のとおりです。

1.問いを定める 2.異なる視点から書かれた本を二冊以上集める 3.それらを分類、統合して主題に対して多角的に理解する

以下、それぞれの手順について詳しくみていきましょう。

1.問いを定める

まず、自分の今の悩み、興味の対象などをもとに、問いを定めましょう。読書によって解決したい問題とは何なのか、を明らかにするのです。

ここでは例として、上司と反りが合わなくて悩んでいるときに、「どうしたら上司と円滑なコミュニケーションが取れるのか」という問題を解決するべく、コミュニケーションの本を読むことについて考えてみます。

2.異なる視点から書かれた本を二冊以上集める

コミュニケーションの本にも色々あります。先ほど説明したように、著者のスタンスは様々だからです。「心理テクニックで人を騙しまくれ!」「悪意は必ず見破られ、最終的に損をする」など、それら1冊1冊がどんな主張をしているのかメモしながら読みましょう。もし本を読んでいる途中に、自分のこれからの指針となりそうなものが見つかったら、それも忘れずにメモしておきます。

3.それらを分類、統合して主題に対して多角的に理解する

何冊か本を読んだら、軸を2つ取って分類します。今回の例であれば、コミュニケーションに対するスタンスと著者の情報について、「1.相手をどれだけ尊重するか(欺くコミュニケーション↔誠実なコミュニケーション)」「2.著者の年齢」という2つの軸を取ってみることにしましょう。

次に、「アウフヘーベン」という方法を用いて内容理解に進みます。アウフヘーベンとは次のような意味。

ドイツ語の aufheben には、廃棄する・否定するという意味と保存する・高めるという二様の意味があり、ヘーゲルはこの言葉を用いて弁証法的発展を説明した。つまり、古いものが否定されて新しいものが現れる際、古いものが全面的に捨て去られるのでなく、古いものが持っている内容のうち積極的な要素が新しく高い段階として保持される。

(引用元:Wikipedia|止揚

例えば、同じ図形をある人から見ると円で、別の人から見ると長方形だったというとき。一体どちらが言っていることが正しいんだと思ってしまいますが、実は円柱だったとしたらしっくりきますよね。この場合、横から見ている人と上から見ている人がいて、どちらも正しいことになります。

このように、アウフヘーベンの考え方を用いて、ひとつ上の視点から本に書かれている内容を眺めてみるのです。

さきほど取った「相手の尊重と著者の年齢」という2軸で、数冊の本を分類した場合に、「尊重していなくてかつ若い」「尊重していてかつ年を取っている」というゾーンに多くの本が存在したとしましょう。ここから導ける仮説は、「若いうちは対立的でも成功をするが、年をとる内いつか返り討ちにあうタイミングがくる」ということです。

この仮説に基づけば、上司とのコミュニケーションがうまくいかない人が、どのようにすればその問題を解決できるかということに関して、「短期的には心理テクニックがラクなように思えるけれど、今後ずっと付き合うことや自分も長期的に成功したいことを考えると、しっかりと誠意をもった本を参考にして実践するべきだ」と自らの実践方針が定まります。いかがでしょう、分析することなく本を読んでいただけでは、まずこの結論に至ることはなかったのではないでしょうか?

*** このように、同一テーマの本を数冊読んだうえで全体を見て、分析しながら内容を理解することで、本に書かれていることの意義をより深く理解できるようになるのです。その理解に基づいて実践すれば、より結果に結びつきやすくなるでしょう。手間のかかる作業ですが、その分の価値は得られるはずです。ぜひ試してみてください!

(参考) J・モーティマー・アドラー著,V・チャールズ・ドーレン著,外山滋比古訳,槇未知子訳(1997),『本を読む本』,講談社. 田中正人著,斎藤哲也編(2015),『哲学用語図鑑』,プレジデント社. 新刊JP|アドラー心理学にハマって離婚危機に!? 実践して大失敗しちゃった人たちの悲痛な叫び BOOKOFF Onlineコラム|【要約】『本を読む本』に学ぶ理解するための読書法 Wikipedia|止揚

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