水、お湯、氷がマレー語では同じ表現!? 世界の文化的背景から学ぶ表現の違い

英語を中心に、様々な外国語を学んでいる方がたくさんいらっしゃると思います。外国語の学びは終わりが無く、英検1級を取得した私も未だ学び続けている一人です。長い間外国語を学んでいると、単なる文法や語彙だけでは説明しきれない「言語そのものの違い」に気がつくようになりました。そのきっかけは、「水」という言葉の違いからです。

日本語では水、お湯、氷と、同じ物体の温度や形状によって呼び名が異なります。しかし、外国語ではこのような違いがあります。

英語: water、hot water マレー語 : ayer = 水、お湯、氷

マレー語の表現を知った時は衝撃でした。一見相反する「お湯」と「氷」が同じ単語で示されるのですから。この驚きから筆者は、「単なる単語や文法の違いだけではなく、言語により異なる根本的な何かが存在するのではないか」と考え始めました。 その結果、「色々な国の文化的な違いや背景が言葉に反映されているのだ」ということに気付いたのです。今回は英語、日本語を「それをとりまく世界観」という視点から見ていきましょう。

 

その国の世界観がそのまま言語に反映されるという事実

 

その国の持つ世界観が言語に反映される、ということは、単に「水=○○」という一対一の関係になるとは限らない、ということです。

それぞれの言語間の相違とは言語が目の前の世界を切り取る、その切り取り方の相違であり、外国語修得の困難さとは、その言語の世界認識のパターンになじむことの困難さです。

引用:「日本人のための英語学習法」

水を例にとると、水・お湯・氷も、その社会の常識に基づき、表現が変わってきます。

・英語は「無色透明な液体」という切り口 ・マレー語は「H2O(元素記号)」という更に幅広な切り口 ・日本語は、上の二つに比べてさらに狭義な「液体の冷熱」まで踏み込んでいる

その国の認識の差が言語の差となって現れているのですね。ここを認識していないと、とても簡単なはずの「水」の理解さえ難しなってしまいます。

 

静の英語と動の日本語

 

それではここからは、英語と日本語の対比を考えてみましょう。 英語には日本語と異なり、厳格なルールがあります。それがまず最初に中学文法でも習う5文型。つまりS(主語)+V(動詞)や S+V+C(補語)といった語順に関するルールです。省略したり倒置をすることがあっても、基本的にこのルールから逸脱するような動きはありません。

一方日本語は、最後まで聞かないと否定なのか肯定なのか分からないという曖昧さが特徴です。また主語の省略や倒置が度々見られるように、英語のような厳格な語順やルールはありません。これは、英語には無い助詞、いわゆる「てにをは」の存在が大きいそう。助詞の使い方一つで簡単に文章全体の意味まで変わってしまうほど、日本語は流動性が高いと言えるのですね。

 

”モノ”の英語と”コト”の日本語

 

英語には”モノ”、日本語には”コト”の世界観があると言われており、この認識の違いも、表現の違いとなって表れます。

1.I understand you. あなたのおっしゃることは理解できます 2.I don’t believe you. あなたのおっしゃることは信じられません 3.You can’t say that. そんなことを言っちゃだめよ 4.You love John, don’t you? ジョンのことが好きなのね? これらの例文から分かるように、英語では、理解されたり、信じられたり、言ったり、好きになったりするのは you や that や John という「モノ」だが、日本語では、「おっしゃること」だったり、「そんなこと」だったり、「ジョンのこと」だったりする。このように、英語は「モノ的」な事柄に、日本語は「コト的」な事柄に関心が向けられる言語だと言える。

引用:関西大学外国語学部 外国語教育学研究科 「英語的な表現と日本語的な表現」 李春喜

英語の”モノ”の世界観はあの厄介な冠詞(”a”や”the”)として反映されます。冠詞の役割とはそのまだ曖昧な”モノ”の輪郭を鮮明にすること。例えばchickenという単語。これは本来「鶏」ではなく「鶏肉というモノ」を意味します。そこに冠詞をつけて”a chicken”にすることで、形があるようでない「鶏肉」から、しっかりと存在する「一羽の鶏」へと輪郭が鮮明になるのです。

このような感覚は”コト”の日本語に慣れた日本人には理解が難しく、そのため日本人は冠詞という概念に中々馴染むことができないのです。

 

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絶対的存在=神がいる英語と関係性で変わる日本語

 

そして最後に、日本語と英語の最も大きな世界観の違い。それは、英語を扱う国の文化には絶対的な存在である”神様”がいること。 英語は「モノの世界観である」とお伝えしましたが、この”モノ”は人間と物を区別しないため、物を主語に置く、いわゆる無生物主語の構文が存在します。なぜ人間と物を区別しないのかというと、人間含め動物も物も全て”神様の創造物”という点で共通の”モノ”である、という考えから。

一方日本語ではそのような絶対的存在は意識されず、相手との関係性により言葉に変化が生じます。 相手との関係性が一番表れた表現が日本語特有の敬語であり、主語もまた、「I」は「俺」「僕」「私」と、親子間、友達間等、その場の関係性により変化をします。ここにも関係性に左右される日本語の特徴が表れています。

*** いかがでしょう? 外国語学習において頭を抱える用例に出会うのは、2つの外国語の持つ世界観が異なっているからなのです。外国語学習とは単語や文法の違いだけでなく、背景にある世界観、いわば未知の世界を体験することでもあるのですね。この記事が、皆様の英語学習をより効率的に、そして知的刺激の溢れた時間にする一助となれば筆者も嬉しい限りです。

☆和訳や翻訳をする際に、「英語」と「日本語」の中間となる「中間日本語」を重視しようという記事もぜひ参考にしてください。 和文英訳や翻訳の基本の考え方。『中間日本語』を学ぼう

参考 「日本人のための英語学習法」 松井力也著 講談社学術文庫 「日本再鎖国論」 岩谷宏 ロッキング・オン社 「日本人の英語」マーク・ピーターセン 岩波新書 「半哲学入門」 木田元 新潮文庫


​​明治大学卒業後Googleにて勤務、語学好きも高じて現在も外資系企業に所属。語学を通じ世界を広く知りたいと、英語に加え現在は仏、独、西、中国語の習得に精力的に活動中。英検1級取得、TOEIC900点over獲得経験あり。

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