常に楽しい、嬉しいといったポジティブな気持ちで過ごせたら幸せですよね。そのため、私たちはネガティブな感情をなるべく抑え込もうとしてしまいます。しかし、もしネガティブな感情が全くなければどうなるのでしょうか。
失敗しても、嫌な気持ちにならない。悪いことをしても、罪悪感を抱かない。
これでは私たちは決して良い方向へは向かえません。私たちがさらなる幸せを手に入れるためには、ネガティブな感情は必要不可欠。むしろ、ネガティブな感情をうまく活用することを考えるべきなのです。
そのことについて書かれているのが、トッド・カシュダンとロバート・ビスワス=ディーナーによる『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』という本です。STUDYHACKERではこの本の書評も書かれているので、ぜひそちらでもチェックしてみてください。 【書評】『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』
今回注目したいのが、この本の中で、罪悪感を生かすことについて書かれた部分です。
罪悪感は役に立つ!
罪悪感は、罪を犯してしまった、悪いことをしてしまった、という気持ち。どうしてあんなことをしてしまったんだろう、という罪悪感はとても強力で、私たちの心を苛みます。そのため、罪悪感は悪者のように見られがちですが、実はとても役に立つ感情なのです。
臨床心理学者のジューン・タングニーの研究によれば、罪悪感の強い服役囚は、再犯率が劇的に低いことが分かっています。また、罪悪感を覚えやすい人々は、飲酒運転、盗み、薬物使用、他者への攻撃などをすることが少ないことも知られています。
つまり、罪悪感は間違った言動を正す働きをするのです。私たちの行動を良い方向に導く、大切な感情なのですね。
罪悪感と恥の意識は違う
ここで気を付けなければならないのが、「罪悪感」と「恥の意識」の違いです。罪悪感が「自分の行為を過ちだったと感じる気持ち」であるのに対し、恥の意識は「悪いことをしてしまった自分を批判する気持ち」です。自分はダメな人間だ、消えてしまいたい、というような気持ちは恥の意識と言えるでしょう。
恥の意識では、行動ではなく自分自身に批判が向かってしまい、悪い行動が改善されないことが分かっています。
ブリティッシュコロンビア大学で、断酒の成功率と恥の意識の関連を調べる調査が行われました。この調査とは、断酒後再び飲酒してしまった人々を集めアンケートを行い、そのことに対する恥の意識の度合いを測ったもの。その結果、恥の意識を強く感じていた人の方が、そうでなかった人よりもその後の飲酒量が著しく多かったというのです。
先程、罪悪感は自身の行動を批判し、正すと述べました。一方、恥の意識では自分の人格に批判が向かいます。
当然、人はその状態を改善しようとしますが、人格を変えるというのは容易なことではなく、具体性もありません。その結果、不安と自己嫌悪だけが残り、状況から逃げようとしたり、周囲に対して攻撃的になったりしてしまうのです。このため、悪い行動が改善されないどころか、むしろ悪化してしまうのだと考えられます。
罪悪感と恥の意識を混同しやすい日本人
日本人は、特に恥の意識を強く感じやすいと言われています。
文化人類学者ルース・ベネディクトの著作『菊と刀』は、日本と欧米の文化を比較したものとして有名ですね。この本の中では、欧米が内的な良心を意識する「罪の文化」であるのに対し、日本は外的な批判を意識する「恥の文化」であると書かれています。
「恥の文化」は批判の対象を曖昧にします。悪い行動を批判するとき、何が悪かったかを明らかにせずとも、「世間に申し訳が立たない」という一言で包み込めてしまうからです。そのため、行動と人格の区別を付けられないまま批判が行われる傾向があります。
つまり、日本は特に罪悪感と恥の意識を混同してしまいがちだと言えます。
もう一度述べますが、罪悪感は「自分の行為を過ちだったと感じる気持ち」、恥の意識は「悪いことをしてしまった自分を批判する気持ち」。
自分自身を曖昧に批判するのではなく、自分の行動に目を向け、改善しようと考えることが大切です。
相手を叱るときにも重要な罪悪感
また、このことは自分だけでなく、他の人に対しても同じことが言えます。
相手を怒らなければならない場面で、つい感情に任せてその人自身を否定してしまうことはありませんか。これでは相手の行動が改善されることはなく、あなたへの不信感だけが残ってしまいます。
相手に恥の意識を感じさせるのではなく、罪悪感を持たせることが重要。行動に焦点を当てて、何が悪かったかを分からせることを心がけましょう。
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ネガティブな感情は扱うのが難しいのですが、正しく扱えば強力なパワーを生み出してくれます。 無理に否定するのではなく、力強い自分の味方に変えていきましょう。
参考 トッド・カシュダン,ロバート・ビスワス=ディーナー著,高橋由紀子訳(2015),『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』,草思社. Wikipedia|菊と刀