あなたは勉強するとき、どんな方法で勉強しているだろうか。
本や資料を「見て」?
裏紙やノートにひたすら「書いて」?
実際に自分で「音読して」?
いろいろな方法が考えられるが、今回ご紹介したいのは「絵を描く」こと。覚えたいことを視覚イメージ化するのだ。最近では、マインドマップを使った思考法が流行している。自分の考えを可視化することが一般的になっているのだ。
複雑なマインドマップを面倒に感じる人が多いだろうが、今回ご紹介する方法は、手軽で、しかも科学的に効果があるもの。「描いて」覚える新体験を味わってほしい。
イラストは「俯瞰」する能力を高める
教育心理学を専門とし、安田女子大学の現代心理学科長を務める池田智子氏は、高校1年生を対象にしてこんな実験を行なった。被験者をふたつのグループに分け、一方には物語をただ読ませ、もう一方には脳内でイメージさせながら物語を読ませた。その後、文章に関するテストが課された。
この実験中でイラスト化が強力な効果を発揮するのは「物語理解の問題」についてだった、と池田氏は語る。ストーリーの中の単語を穴埋めさせるような「逐語問題」では、あまり効果がなかったのだとか。
たしかに、この結果は納得できる。絵によって全体の流れをつかめても、細かい単語の丸暗記にはあまり効果がなさそうだ。
つまり、イラストやイメージがもつのは「全体の流れをとらえる力」ということ。全体を俯瞰し、ざっくりと理解するのには、イラストが最適なのだ。
筆者がおすすめするのは、勉強の始めに各要素をイラスト化すること。知識が身につき、細かい部分を覚える時になったら、あまり効果がない。そうではなく、その分野の勉強を開始するときにイラスト化してみるのだ。イラストの力で全体を把握してから勉強に取りかかれば、大幅に効率がアップするはず。
絵を「見る」だけじゃダメ! 自分で「描く」効果とは
でも、絵心なんてないしな……。全体を把握するだけなら、参考書の挿絵じゃダメなの? そう思った方もいるだろう。
たしかに、ただ絵を見るだけでも効果はあることは知られている。早稲田大学の石橋氏が行なった研究によれば、ただの文章を読む課題と、挿絵の入っている文章を読む課題では、後者のほうが記憶に残る確率が高いとわかっている。しかし、「挿絵を自分で描いた場合」では、遅延テスト、つまり文章を読んでしばらくたったあとでの記憶保持率が、圧倒的に高くなっているのだ。
自分でイラストを描けば、時間がたったあとでも思い出しやすくなる…ということ。やはり何事も自分でやれば身になる、ということだろうか。
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小さいころは絵が好きな人でも、大きくなってからは絵をめっきり描かなくなってしまった……なんてことはよくあるはずだ。まわりに見せるのが恥ずかしいから。絵が下手だから。いろいろと言い訳をつけて、自分で絵を描くことから逃げていないだろうか?
より質の高い勉強のために。久しぶりに絵を描いてみてはどうだろう。きっとまた、絵が好きになるはずだ。
(参考)
石橋薫(2012),「挿絵イラストの自己生成が文章内容の記憶再生に及ぼす効果に関する研究」, 人間科学研究, 25巻1号, p.129.
池田智子(1991),「高校生の文章記憶に及ぼすイメージ教示効果」, 広島大学教育学部紀要 第一部 心理学, 40号, pp.75-79.

