創造性は “憧れ” から育つ。イノベーションの芽を伸ばす、上手な「模倣の仕方」

自身の創造性を高めたいと願うなら、まずは「憧れの対象」をつくり、まねることから始めてみてはいかがでしょう。創造と模倣は相反するようでいて、実はつながっているのだとか。「模倣こそが創造の母」とさえいわれています。それに、理解系の脳機能も強化してくれるそうですよ。さっそく説明しましょう。

模倣から始まったイノベーション

模倣という視点から見たイノベーションを語る際に、たびたび例として挙げられる話をひとつご紹介します。

1976年に宅急便サービスを開始する以前、ヤマト運輸は近距離輸送に特化し、百貨店などの商品配送を請け負っていました。しかし、高速道路開通による長距離トラック輸送の活発化、新規参入の増加、オイルショックなどが重なり、同社の業績はどんどん下降線を描き始めたそうです。

そうしたなか、のちに「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親となった小倉昌男氏は、吉野家が牛丼一筋に絞り込み成長する姿、チケット・ホテル予約・添乗サービスなどをまとめて海外旅行を身近にした日本航空の「ジャルパック」、そしてニューヨークの交差点にとまっていた運送会社UPSの集配車を目にして模範とし、大きな決断につなげたのだとか。

当時は、一般家庭から荷物を送る小口輸送の方法は郵便小包ぐらいしかなかったといいます。その理由は、効率が悪く扱おうとする企業がなかったため。しかし、小倉氏は、模範となる対象が行う「取り扱うものを絞り込むこと、サービスを分かりやすくシステム化すること、集配密度を高めること」などを模倣し、家庭から出る小口荷物を扱おうと考えたわけです。

その後の展開は、みなさんもご存知ですよね。こうして小倉氏は、「宅急便の父」と呼ばれるようになりました。

「優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む」の意

天才音楽家といわれたモーツアルトは、他人の音楽を模倣することから始め、ついには独創的な音楽を生み出したといいます。

ジェームズ・ワットは、トーマス・ニューコメンが発明したものを改良して、蒸気機関の発明者という立場を得ました。トーマス・エジソンも以前に示されていた原理をもとに、蓄音機を発明したそう。つまり、数々の偉大な発明はゼロからスタートしたわけではなく、技術情報の連続性が存在したというわけです。

株式会社知財ソリューション代表取締役の遠山勉氏は、こう述べてます。

人が成長するためには,学びが必要である.何かを学ぶ時に情報や知識のコピーは必要で,それは脳裏に刻まれる.脳みそはまさにイミテーションである.学べば学ぶほどコピーが積み重なるけれど,その後,コピーされた情報や知識は,化学融合されて新たな物や知識を創り出す.それこそが創造である.

(引用元:遠山勉(2013),「模倣視点からみた創造・イノベーションと知財経営戦略」,日本知財学会誌,Vol.9 No.3,pp. 8-17.)

遠山勉氏は、「とりわけ初期の段階において、模倣は産業発達に貢献する」とも述べています。これは、アップルのスティーブ・ジョブズ氏が、西洋絵画の巨匠ピカソの言葉を引用して述べた、「優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む」という言葉の説明にもなるはず。

創造に模倣が貢献するとはいえ、入力と出力がまったく同じであればただの「まね」になってしまいます。しかし、他者のアイデアを吸収し、化学融合を起こして変化させたうえで出力したならば、それはあなたのアイデアとなるわけです。つまり、それが盗むということ。模倣から始めても、自分のものにしてしまえばいいのです。

それに、模倣は脳の強化にもなるんですよ。

尊敬する人をまねて「理解系脳番地」を鍛える

株式会社「脳の学校」代表の加藤俊徳氏は、著書『脳の強化書』の中で、尊敬する人の発言・行動をまねるようすすめています。それにより、「理解系脳番地」が鍛えられるのだとか。加藤氏によると、脳には全部で120の脳番地が存在するとのこと。それらを機能別にくくると、思考系脳番地、感情系脳番地など8系統に分けられ、その中に「理解系脳番地」があるそう。

「理解系脳番地」は、“与えられた情報を理解し、将来に役立てる”という神経細胞の区分なのだとか。それはまさに、模倣からイノベーションを生み出すプロセスといえるのではないでしょうか。

「まね」は相手を理解しなければできないと加藤氏はいいます。模倣は対象への深い理解をともなうということ。うまく“まね”できなければ、「なぜ自分はその対象と同じにはならないのか」と熟考するでしょう。すると、必然的にさまざまな知識や情報を自身の頭の中から引っぱり出して思考を深めるはず。それが化学融合を起こすきっかけにもなります。

そうした行為が「理解系脳番地」を鍛え、イノベーションを生むというわけです。それに、たとえば誰かに「嫉妬」すると、高度な情報処理をする脳の超前頭野(スーパーフロンタル)の血圧が上がりますが、逆に「憧れ」を抱くとクールダウンし、脳の酸素効率が良くなるそう。

憧れの対象をもつということは、何かと脳にいいのです。

模倣の対象を見つけよう

模倣の対象は、憧れの人物でも、会社でも、システムでも、もちろん複数でも構いません。その対象を深く理解し、言動や方法をまねてみましょう。

ただし、先述したように、公の場で出力したものが入力(模倣)と同じであれば、単なる“まね”と評価されてしまいます。遠山勉氏は、模倣と蓄積・融合の繰り返しが創造を生むと話しています。融合しなければ、イノベーションにはならないのです。モーツアルトのように模倣を重ねつつ、最終的には今までにない独創的なものを生み出してください。

*** 文豪・夏目漱石は、「人間は一方でイミテーション、一方で独立自尊というような傾向をもつ」と述べました。早稲田大学教授・経営学者の井上達彦氏は、「大半の経営やビジネスモデルが模倣から生まれている」と主張しています。模倣は人間から切り離せないものというわけです。そもそも「学ぶ」という言葉自体、「まねる」と同じ語源なのだそうですよ。何かを生み出さなければと頭を悩ませているならば、まずは模倣から始めてみませんか?

(参考) NHK「プロジェクトX」制作班編集(2012),『「腕と度胸のトラック便」~翌日宅配・物流革命が始まった ―熱き心、炎のごとく プロジェクトX~挑戦者たち~』,NHK出版. 遠山勉(2013),「模倣視点からみた創造・イノベーションと知財経営戦略」,日本知財学会誌,Vol.9 No.3,pp. 8-17. 加藤俊徳著(2014),『脳の教科書』,株式会社あさ出版.

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