自分が正しいと思ったことにとらわれてしまう。そうした傾向を誰しも持っています。一度思い込みにとらわれると、思い込みはどんどん強固なものになっていき、そこから抜け出すのには大変な労力を要するもの。

分かりやすい例として、次のような状況が挙げられます。若手のあなたが、ある新しいサービスのアイデアを思い付いたとしましょう。馴染みの客からの要望もあったうえ、そのサービス案がニーズに合致していることを示すようなニュース記事を次々目にしたあなた。「この新サービスは絶対にうまくいく!」と確信を深めていきますが、それを上司に提案したところ、「それ、何年か前に失敗したサービスと全く一緒だよ」と言われ一蹴される……。

このように、ある考えが正しいと一度思った人は、それを裏付けるエビデンスばかりを無意識に集めてしまうということが知られています。そうして思い込みがますます固定されていくと、だれかに批判されるまで時間を無駄にしてしまうことに。しかし、自分の誤りに気付くというのはなかなか難しいのが現実です。

多くの人が経験しているであろう「間違った思い込み」に気づくにはどうしたらよいかについて、考えていきます。

ベーコンの「4つのイドラ」

「知は力なり」という言葉を聞いたことがありますか。これは、イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンが残した言葉です。彼は、古代ギリシャから続く哲学のあり方に疑問を感じていました。というのも、当時までの哲学は、理屈をこねくり回し、誰かを論破したり地位や名声を得たりすることが目標とされている節があったからです。そこで彼は、思い込みを排して観察と実験を行い、真理にたどり着くことを目指した新たな知の体系を切り開きます。

そのとき彼は、人間を惑わす思い込みとして「4つのイドラ」というものを掲げました。日頃私たちは、常識や当たり前に頼って生きています。しかし、それが原因で誰かに騙されるなど、思わぬ損をすることがありますね。そうでなくとも、思い込みは往々にして創造の障害になりえます。

ベーコンのように、真理の探求を目指す人はそう多くはないでしょう。しかし、自分の思い込みが何なのかを発見し、それを解消することは、現代のビジネスパーソンにとっても非常に有益です。現実の問題は何なのか、本当に自分の考えは正しいのか。そうしたことについて頭を働かせるには、「4つのイドラ」がとても役に立ちます。その「4つのイドラ」について、簡単に紹介しましょう。

1. 種族のイドラ

私たちは人間です。人間という種族に基づく思い込みのことを「種族のイドラ」といいます。人間であるということは、人間としての感覚しか私たちは持ってないということです。

例えば、世界は3つの原色によって構成されているという常識がありますね。人間の目には、3種類の色を認識する細胞しかありません。しかし、世界に3つの色しかないというのは、人間であるが故の思い込みにほかならないのです。例えば、カラスの目には3つの色のみならず、紫外線を感知する細胞があります。

2. 洞窟のイドラ

「洞窟のイドラ」とは、言い換えると「個人の思い込み」のこと。人にはそれぞれ異なるバックボーンがあります。そして、異なる経験によって、さまざまな考え方が形成されます。

赤色のレンズがはめられた眼鏡をかけていることを想像してみましょう。当然ですが見える世界はすべて赤色。信号や薬などの色も正しく判別できなくなりますから、とてもではありませんが安全な生活を送ることはできません。そして、その眼鏡をすぐに外そうとするでしょう。しかし、生まれた時からずっとその赤い眼鏡をつけて生きてきたとしたらどうでしょうか。おそらく、すべてが赤みがかった世界に何も疑問を抱くことはないでしょう。

もしかしたら、あなたが当たり前と思い込んでいる物事も、このような「赤い眼鏡」を通してみた世界から見たものであるかもしれないのです。

3. 市場のイドラ

噂話や、人づてに聞いた情報をうのみにして、いやな思いをしたという経験が誰しもあることでしょう。ベーコンはこれを、市場で聞いた話によって作られる思い込みとして「市場のイドラ」と呼びました。

例えば、「ノストラダムスの大予言」がよい例です。1997年に「恐怖の大王」が空から降ってきて、人類がそれによって滅亡するという噂が、かつて日本中に広まりました。今となってはばかばかしく感じられる話でしょう。しかし当時は、マスコミなどで何度も取り上げられ、多くの人が本気で信じました。

4. 劇場のイドラ

両親の言っていることや、権威のある学者の言っていることをすぐ信じ込んでしまう。これをベーコンは「劇場のイドラ」と名付けました。

先ほどのノストラダムスの予言にも共通していますが、後になって考えてみるとどうも疑わしいことを、それらしい人に言われるだけで信じたくなってしまうというものです。実際には、権威があることと、主張する話が正しいこととは全く関係がありません。

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「イドラ」から抜け出そう!

自分が思い込みにとらわれているときほど、なかなかそのことに気づけないものです。そのため、極力思い込みを排して考えられるようになるためには、自分の考えを客観的に見ることができるようになる必要があります。そのための有効な方法は、自分の考えを構造化することです。

その具体的なやり方は、自分が考えたことや自分が出した結論と、その考え・結論に至った根拠を書き出すというもの。何か考えが浮かんだり、自分なりに結論に至ったりしたとき、まずは、紙にその考え・結論を書きましょう。そうしたら、その考え・結論に至った根拠を書き出します。そしてその根拠ひとつひとつをイドラに照らし合わせ、偏った考えになっていないかを検証するのです。

自分の考えの構造化:実践例

では、ひとつ例を考えてみましょう。消費財メーカーのマーケティング部門で働くあなたは、新しい商品の開発に先立って市場調査を行っています。あなたは調査の結果、これから伸びそうでかつ、まだどの企業も目をつけていない魅力的な市場を見つけました。そして、その市場を狙った商品開発を行えば、確実に大きな利益を出すことが可能であると確信。そんな中、その市場の伸びを強力に示唆するシンクタンクのレポートを見つけるなど、ますます思いを強めていきます。

ここであなたがするべきことは、自分の確信が間違っていないか疑ってみることです。そのためには、自分の考えを以下のように構造化していくことが有効です。

■ 自分の考え:
「××向けの○○の市場は今後急成長していく」

■ 考えの根拠:
・自社の商品の事例
・ビジネス誌で扱われていた、海外のあるメーカーの商品開発の経緯についてのレポート
・シンクタンクのレポート
・その業界に詳しい友人の言葉
など

■ 4つのイドラに基づく検証:
種族のイドラ……(ここでは、国ごとの文化という視点と考えます)その商品がうまくいったのは、現地に特有の趣向があって初めて成り立つ商品であるからだ、という可能性が浮かび上がる。

洞窟のイドラ……自分が根拠として見出したいくつかの資料が、恣意的なデータ解釈に基づくものである可能性がある。

市場のイドラ……業界に詳しい友人の言葉は、本当に正しいか? もしかしたら、彼が言っていることが勘違いに基づいている可能性もある。もしかしたらライバル視した友人が嘘を言っているのかもしれない。

劇場のイドラ……シンクタンクのレポートを鵜呑みにしていることがまさしく劇場のイドラ。名の知れたシンクタンクともなれば信じたくなるが、そのレポート自体がもしかしたら「4つのイドラ」に基づく間違いである可能性もある。自力で一次情報を探り、それをもとに論を構築していくべきではないか?

現実には、このようにきれいに誤りの可能性が見いだせるということは少ないでしょう。しかし、「4つのイドラ」に基づいて考えれば、自分の思い込みに気づく可能性は大幅に上がるはずです。

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同じ仕事を長く続けていたり、社会人生活が長かったりすると、知らず知らずのうちに思い込みや当たり前で済ませてしまっていることが増えているかもしれません。時折、立ち止まって自分の考えを考えてみる。そうしてみると、思わぬところにイドラを発見できると思います。

(参考)
瀧本哲史(2016),『ミライの授業』,講談社.
A.T.カーニー|A.T.カーニー流仕事術 ビジネセスの推進力を身につける「戦略的構造化」のスキル
グロービス経営大学院(2012),『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング (グロービスMBAシリーズ)』,ダイヤモンド社.
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