グローバル社会、情報化社会の中で、私たちには、日々多くの決断が求められます。あなたは、マスコミやインターネットの意見に流されることなく、自分の頭で考え、行動できていますか?
今回ご紹介する書籍は、著者の次のような思いから生まれました。
いったい、どうやって自分の頭で考えるのか。 いったい、どうやって健全な形で意見を鵜呑みにせずに、疑うのか。 いったい、どうやって自分なりの価値観を築き上げていくのか。 いったい、自立した人とはどのような人で、どうすれば、そうなれるのか。 抽象的な言葉ではなく、もっと状況が目に浮かぶような、イメージの湧きやすい形で、このような問いに答えられないものだろうか。
著者の渡辺健介氏は、イェール大学卒業後米系コンサルティング会社のマッキンゼーを経て独立し、現在は問題解決力の研修や著書執筆などを手掛ける、問題解決と意思決定のプロ。その著者が、自分の頭で考えて、自分の意見を持ち、自分自身で行動していくための方法を、分かりやすく指南してくれる一冊です。
『自分の答えのつくりかた―INDEPENDENT MIND』 渡辺 健介著 ダイヤモンド社 2009年
(記事中の引用は本書より)
問題解決や意思決定のメソッドを、とにかく易しく教えてくれる
この本のユニークなところは、ビジネス書でありながら、全編が易しい小説の形で書かれている点です。
主人公は、あるサンゴ礁に暮らす赤い魚のピンキー。サッカーコーチであるクラゲの先生、村の知恵袋である海亀さん、図書館司書の蟹おばちゃんといった海の仲間たちが一緒に生活する様子を、楽しく描いています。まっすぐで純真だけど、ちょっとおっちょこちょいなピンキー。彼が日常でぶつかる問題を一緒に解決していく中で、上に述べたような力を身につけていくというストーリーです。
問題解決や意思決定のメソッドを学ぶ本ですが、難しいカタカナ語が並んでいるわけではありません。日常の出来事を例に挙げながら、中高生にも分かる言葉で書かれています。学生の方に読んでほしいのはもちろんですが、社会人の方でも自分の思考を見直すきっかけになりますし、親御さんであればぜひお子さんにも勧めてあげてほしい一冊です。
大切なのは、一歩踏み出し「たたみ込む力」
これは、あるページでの海亀さんの言葉です。彼の言葉は主人公のピンキーに大きな影響を与えますが、私たちにも響くものばかりです。
まず、「思う(!)」。問題意識があるので、日々生活する中で、これが問題だ、これをやった方がよい、と感じることが頻繁にある。 そして、「必ずやる(DO/!)」。思ったら、必ず行動に移す。 しかも、「すぐやる(DO-speed)」。そのスピードがすごい。 さらに、「ちゃんとやる(DO-impact)」。やるとなれば必ず、納得がいく形になるまでやる。
海亀さんはこの過程をやり通す力のことを、「たたみ込む力」と呼んでいます。まず、やってみること。とりあえず踏み出してみること。そしてやるからには最高の形で成し遂げること。大切だと分かっていても、私たちに欠けているものの一つかもしれません。
毎回100点などいらない。打率3割だっていらない、1~2割当たればもうけもの、ぐらいの気持ちで、どんどんやってみることが重要じゃ。「悩む」と「考える」は違う。悩むな、考えろ、どんどん行動しろということじゃ。
大海に飛び込め
こちらも海亀さんの言葉。この本の場合「大海に飛び込め」とか「荒波に揉まれて」という表現が、比喩ではなくそのまま用いられているのが面白いところですね。(主人公は魚ですから! )
己を磨き上げ、真の自信を高めていくには、生ぬるい「金魚鉢」から抜け出し、自らを崖から「大海」に突き落とさないといけない。自らどんどん仕掛けて、たくさんの修羅場をくぐることじゃ。その中で、失敗からも、成功からも、何かを掴み取っていくのじゃ。
さらに海亀さんは、自ら飛び込んでいった先では、自分と競い合ってくれる「ライバル」や、自分の道筋を示してくれる「メンター」を見つけることが大切だとも語っています。
環境はもちろん大事。その環境を見つけ、飛び込んでいくのは自分自身。そのことを改めて実感させてくれる言葉ですね。
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私がこの本を初めて手にしたのは中学生の頃。当時は小説としての面白さ、そして紹介される問題解決の鮮やかさに、「すごい! 」と驚くばかりでした。今読み返せば、この本がいかに「今を生きる」ために必要なものかよくわかります。
柔軟で感受性豊かな子供にも、迷える青年にも、そしてもちろん、働き盛りの社会人にも、大いにおすすめしたい一冊です。