まず、この書籍は誰が読んでも「自分のことだ」と思える汎用性に長けている。雑談力があろうがなかろうが、思わず読み入ってしまう敏腕さを秘めた一冊であると言っておこう。
「自分には雑談力があるか?」
と真剣に考えたことがあるだろうか。「苦手だ」「気が重い」と答える人はいても、「自分にどれほど雑談の実力が備わっているのか……」と自らを徹底的に分析した経験がある人は、ほとんどいないはず。しかし、この一冊を読むことで、雑談に対する敬意が生まれ、真剣に考えこんでしまうかもしれない。たった一冊の本で、雑談という言葉の意味さえも変わることは、間違いない。
例えば、本書では雑談力について「三流」「二流」「一流」「超一流」の区分が為されている。セクションごとに、具体的なフレーズで現されているのだ。誰もがどれかに当てはまり、「現在」の自分や同僚の雑談力レベルや、今後こうなりたい、という「理想」の自分や雑談上手な上司などが脳裏を横切る。
本書の魅力は、常に「現在」の自分の雑談力を認識することができ、「理想」の自分への道を指し示してくれることである。雑談は気心が知れている家族はもちろん、その瞬間まで全く見ず知らずだったタクシーの運転手と行なうものでもある。「相手を選ばない」。これが雑談の正体だ。雑談力はいつどこで必要になるかわからないからこそ、この力を蓄えたら人生がとても豊かになる。
本書では、著者が雑談を定義し、能力を分化し、方法を提示し、効果を述べている。そしてそれらは、「じゃあちょっと試してみようかな」と行動を起こさせる不可思議な力を持つ。この繰り返しで、自然と雑談力が上がっていくことは間違いない。
では、「超一流の雑談力」を持つ人間は読む必要がないか? と問われれば、答えはノー。この内容に衝撃を受けないという人は、著者か、あるいは雑談だけで契約を取れる社長やスーパー営業マンくらいだろう。彼ら彼女らは生まれながらに雑談の才能を持っているのだろう。しかし自分が「超一流」であることに満足して終わり、では単なる武勇伝とにすぎない。部下や後輩育成のためには、「0から雑談力を鍛える方法」を伝授する必要があり、そのための必携書と言えるのだ。
強いて難点を言うならば、何度も読み返さなければならないことだ。これは、分かりづらいということではなく、一度さらっと読んだだけでは雑談力は上がらないということだ。よって、残念ながら「三流」だと自分が感じた人は、何度も読み返して欲しい。一度目は「気づき」、二度目は「選択」、三度目は「成長」だと述べておこう。読めば読むほど雑談力に加えて自分自身に味が出る、秀逸な一冊である。