勉強したをこと思い出そうとする時、あなたならどうするだろうか。語呂合わせを思い浮かべる、とにかく書いてみる、ウンウン唸ってみる…
一度忘れかけたことを思い出すのは難しいものだ。考えれば考えるほど記憶はすり抜けていき、もどかしい思いばかりがつのる……。
こんな経験、誰にでもあるはず。記憶を思い出すことを「記憶想起」というが、それを専門的に研究している分野がある。犯罪捜査だ。
犯罪捜査において、いつも物的な証拠が手に入るとは限らない。 犯人のDNAや凶器など、決定的な証拠が見つからない場合には、目撃者の証言が必要になることが多い。しかし、人間の記憶はあまりに曖昧だ。どうやって役に立つ証言を引き出すか…犯罪捜査ではそれが重要になってくるそう。
人間の記憶というのはそもそも「正確さ」と「詳細さ」は両立しないそうだ。細かく、正しく覚える…かなり至難の技なんだとか。
今日は、犯罪捜査を正確に進めるための技法を利用して、「正確に思い出す」スキルを身につけてほしいと思う。
周りのことも関連づけて。「文脈再現」で記憶を100%引き出せ!
どのように思い出せば、正確でしかも詳細な供述を引き出せるのか… これは昔から多くの人が研究してきたことであり、認知心理学や臨床心理学の観点からも様々な方法が提案されている。
特にイギリス、アメリカ、ドイツやオーストラリアでは「認知面接」というものが取り入れられているんだとか。
認知面接は以下に示す4つの教示方略で構成されている。①全ての事柄の報告要請(「事件について、思い浮かんだことは全て話してください」)②目撃時の文脈再現(「事件当時の状況を想像しながら、事件について話してください」)③さまざまな時間順序での報告(「犯人あるいは他の場所から事件をみていた人になったつもりで、事件を思い出してください」)からなる (引用元:大上渉, 松本亜紀, & 大沼夏子. (2010). 事情聴取時に描画により記憶想起させることの効果と問題点. 日本認知心理学会発表論文集, 2010(0), 64-64.)
さらに、福岡大学講師の大上氏は、この中でも特に有効なものは②の「文脈再現」であるという。たしかに、記憶した時の状況も一緒にした方が、思い出しやすそうだ。
これは決して犯罪捜査に限った話ではないだろう。例えば、勉強した英単語を思い出したい時。勉強したての時に覚えたのか、最近覚えたのか。図書館で覚えたのか、電車の中で覚えたのか。さらには一緒に覚えた単語はなんだったのか……。
その時の状況を思い出したりするのは有効なのかも。また、例文や関連語句、よく使われる表現などの関連事項。これらも「文脈」のひとつとして考えてよさそう。
いろいろなことを関連付けることで、思い出しやすくなる……当然といえば当然のことだが、犯罪捜査の場でも使われているテクニックだったのだ。
「絵を描く」ことで記憶が鮮明に蘇る!?
しかし、この「文脈再現法」には欠点もある。思い出したいことが少しの場合ならいいのだが、たくさんある時には、周りの状況も膨大になってしまい、ミスが増えるというのだ。確かに、たかが一個の英単語でも関連事項はたくさんある。
それが5個、6個と増えてしまえば、思い出すだけで一苦労。
そこで提案されているのが、イメージを描画する方法だ。法政大の越智氏らは、大学生140人に写真を見せて、その状況を後で思い出させる実験を行った。その時、絵に描かせた場合とそうでない場合では、思い出せた情報量に大きな差があったんだとか。これも犯罪捜査に応用されており、事件のあった状況を絵にしてもらい、思い出させるとのこと。
なんだか、これも普通の勉強に応用できそう。勉強には、ぜひ絵を使ってみてほしい。絵の上手い下手は関係ない。生物の体の構造、物理の難しい実験、地理で学んだ複雑な地形……
そのまま覚えようとするのはちょっと危険。一度絵を描いてみてほしい。そして試験会場で思い出せない時、全体を一度絵で表現してみると、記憶が蘇ってくるかもしれない。
越智啓太, & 小坂香織. (2008). 描画による日常記憶の想起促進.