三人寄れば文殊の知恵
【意味】凡人であっても三人集まって考えれば、すばらしい知恵が出るものだというたとえ。
誰もが聞いたことのある言葉のはず。 一人では解決できないような難題も、何人かで集まればすぐに解決できる…という意味の言葉ですね。でも私は小さい頃、こんなことを思っていました。
「じゃあもっといっぱい集まれば、もっと賢くなれるじゃん!」
なんともご立派な屁理屈ですね(笑) 10人集まれば、30人集まればアインシュタインの知恵くらいにはなるんじゃないか、というわけです。
もちろん、3人というのは言葉の綾にすぎません。でも、調べていくうちに「3人」というのは決してデタラメなんかじゃない、ということがわかってきました。
今日は昔ながらのことわざを、科学的に検証してみたいと思います。
イノベーションは、大会議からは生まれない。少人数の良さとは
最近ではすっかり一般的なものとなった「ブレインストーミング」。アイデア創出法としてはかなり多くのひとに知られています。複数人で集まり、嵐のようにアイデアを出していくことから名付けられたこの方法ですが、実は大人数でやると意味がない…ということがわかってきています。
ブレインストーミングをはじめとしたアイデア創出のノウハウは、「創造的思考法」として多くの研究者に扱われているんだとか。
ミネソタ大のBouchard氏の研究によれば、「ブレインストーミングにおいては人数が多いほどアイデア数が減る」んだとか。これは大人数で意見を出し合うことがそもそも難しいこと、個人間に発言力の差があること、などが原因だとされています。
またアメリカ心理学会でのCasey氏の研究の中では、大人数で考えることで「アイデアの質が落ちる」ということも紹介されています。これは大人数の中では、個人の意見が尊重されにくくモチベーションが下がる上、意欲も継続されにくいから、なんだとか。
人数が多ければいろいろな意見が出てきて、良いアイデアが生まれる! 私たちは無意識のうちにそう考えてしまっているのかもしれませんが、いいことばかりではないみたい。
大人数だからこそ生まれる、独特の雰囲気やプレッシャー。そうしたものが創造性にブレーキをかけてしまっているんですね。
だからといって、独りは厳しい!自信過剰にご注意を。
では、複数人で考えるのは無意味!独りの方がずっといい!アイデアは孤高の天才が自宅で淡々と生み出していけばいいのか……。
かというと、そうでもありません。
人間というのは、思い込みに支配されている生き物です。 例えば、テストでどうしてケアレスミスをするのか、考えたことはあるでしょうか。
たしかに、時間制限やプレッシャーも大きな要因ではあるかもしれません。でも何回見直しをしても、どれだけ時間をかけても、ケアレスミスが見つからなかった……。そんな経験は誰にでもあるはず。
それは、ひとりで考えているから、ですね。ひとりで考えているから、一方向からしか見れなかった。ひとりで考えているから、自分の中の間違いに気づけなかった。 他人に見てもらったとき、「いやいや、これ違うでしょ!」とすぐに指摘してもらったことも、きっとあるはずです。
ひとりで考える。集中力を維持するという観点からはいいかもしれませんが、それは間違った方向に議論を運んでしまうことにもなりかねないのです。
昔の人は正しかった!「三人寄れば」の本当の良さとは。
3人というのは、集団の最小単位。話し手と聞き手、そして客観的にそれを眺める人、この人数がちょうど同じになる…という非常にバランスのとれた構成なのです。
話してが多すぎては議論は迷走するでしょうし、聞き手や傍観者が多すぎても、話し合いは停滞してしまいます。
しかも三人で話し合う時には、三角形の頂点に座ることが多いでしょうから、誰かと誰かが対立して向かい合うこともありません。変な緊張感を生まず、リラックスして議論を進めることにつながります。
多すぎず、少なすぎず、リラックスしてアイデアを出し合える……。 「三人」というのは非常にバランスのとれた人数だったんですね。
三人寄れば文殊の知恵。ぜひお試しあれ。
参考 Bouchard, T. J., & Hare, M.(1970). Size, performance, and potential in brainstorming groups. Journal of Applied Psychology, 54, 51-55.
Casey, J. T., Gettys, C. F., Pliske, R. M., & Mehle, T. (1984). Mood, self-efficacy, and performance standards: Lower moods induce higher standards for performance. Journal of Personality and Social Psychology, 67, 499-512.