「サイコパス」と聞くと、映画などに出てくる犯罪者をイメージする人が多いのではないでしょうか。でも実は、一般社会にも多くのサイコパスが紛れ込んでいるそうですよ。
もしも、あなたの頭を悩ます存在がサイコパスであるのなら、「きっと分かってくれる」という期待は通用しません。今回は、社会で堂々と魅力的に立ち回るサイコパスの特徴と、サイコパスの「脳」の働き、サイコパスに接するときの心得や対処法を紹介します。
決して少なくない一般社会のサイコパス
矢幡心理カウンセリング研究所所長の矢幡洋氏によると、サイコパスとは人格障害の一種。近年は「反社会性人格障害」と呼ばれているそうです。「他人の権利を無視し、侵害する」ことが特徴なのだとか。
そして、「サイコパスが主に棲息しているのは、塀の中ではなく一般社会」なのだそう。科学ニュースサイト「Live Science」は、「一般人口の約1%、刑務所人口の約25%をサイコパスが占めている」と伝えています。私たちの周りの100人に1人がサイコパスなのだと言われると、多いように感じませんか?
サイコパスの特徴
サイコパスにはどのような特徴があるのか確認しましょう。これからサイコパスの特徴を紹介していきますが、誰しも心に何らかの“闇”を抱えているもの。状況によっては普通の人でもサイコパスの特徴に当てはまってしまう場合がありますので、あくまでも目安として考えてください。
1.サイコパシーチェックリスト(Dr. Robert Hare)
FBIの犯罪捜査リソースセンターなどで活躍する犯罪心理学者、Robert D. Hare氏によるサイコパスのチェックリストから、犯罪に関する要素を除き、類似の内容をまとめてみました。これらの特徴にいくつも当てはまる人は、サイコパスかもしれません。
- 表向きは魅力的で口達者
- 自信満々で自慢が多い
- 刺激を求めている
- 平然とウソをつく
- うまく人を操ろうとする
- 良心が欠如している
- 他者に冷淡
- 感情的な行動を制御できない
- 後先考えず突飛な行動をする
- 無責任で約束や義務を果たせない
- 自分の過ちを認めない
- 他人の金銭・財産を利用しようとする
- 現実的かつ長期的な目標がない
2.サイコパスの目安となる特徴(矢幡洋氏)
サイコパスは一見すると善良な市民なので、なかなか見分けるのが難しいそう。矢幡洋氏によると、社会的地位が高いサイコパスもいるのだそうです。矢幡洋氏による「サイコパスの目安となる特徴」をまとめてみました。
- 利益で人を誘導する――人は損得でしか動かないと信じている
- ウソがばれても動じない――ウソをつくことにまったく罪悪感がない
- ウソを見抜きにくい――ウソの中身は自分を魅力的に見せるための自己演出が多い
- スキをついてくる――常に他人の弱みを狙っているので言葉尻をとらえて瞬時に踏みこむ
- 相手の痛みに鈍感――他人が傷ついても気にせず利用価値がなくなれば冷酷に切り捨てる
- 人間・社会不信の発言をする――自分以外の人間を信じていない
3.ビジネスシーンにおける特徴(中野信子氏)
認知神経科学者の中野信子氏は、他人の考えを見抜き、操ることに長けているサイコパスは、プレゼンテーションのレベルが相当に高いはずと話します。そのため、プレゼンテーションの「手法」自体は完璧でも、プレゼンテーションで披露された「内容」が見合っていない場合があるのだとか。
一方でサイコパスは、事務的な仕事や、協調性を必要とするチームワークは苦手とのこと。あまりにも完璧なプレゼンテーションを受けた場合は、その人物を少し観察し、冷静になってから契約を考えたほうがいいかもしれません。
サイコパスの「脳」はどんな状態なのか?
では、そんなサイコパスの「脳」には、どんな特徴があるのでしょう。
1.「腹側線条体」が活発化している
ハーバード大学の神経科学者・心理学者のJoshua Buckholtz氏は、49人の受刑者に対しテストを実施し、MRIで脳を測定しました。テストは「すぐに少額の金銭を受け取るか」「後でたくさんの金額を受け取るか」のいずれかを選ぶというもの。
すると、サイコパスレベルが高いほど、すぐに報酬をもらいたがる傾向にあり、腹側線条体と呼ばれる脳領域が活発化していたそうです。また、その腹側線条体と、vm-PFCと呼ばれる脳領域との結合が非常に弱いことを見出したそう。
vm-PFCがある脳の前頭前野は、複雑な認知行動・人格・適切な社会的行動にかかわると考えられています。一方、腹側線条体のニューロンは、短期的な報酬の期待・スケジュール進行の情報を持つとされています。
これが意味するのは、サイコパスの脳が、即時に得られる報酬を過大評価しており、不道徳な行動がもたらす将来のコストを無視しているということ。「そんなことをしたら、あとが大変だよ」と説いても通じないわけです。
2.前部帯状回の活動が低下している
京都大学は、サイコパスがためらわずウソをつく背景として、前部帯状回の活動低下を指摘しました(2018年7月19日発表)。京都大学の研究グループは囚人を対象にある課題を与え、MRIで脳活動を測定したそう。すると、サイコパス傾向が高いほど、ウソを発する意思決定までの時間が速かったそうです。
活動が低下していたという前部帯状回は、葛藤などの心理プロセスにかかわる脳領域。サイコパスはウソに対する葛藤が低下しているため、ためらわず素早くウソをつくと解釈できます(ただし、この結果はまだ結論を導くものではないそう)。
もしもサイコパスに出会ったら?
もしも、サイコパスかもしれない人物に出会ってしまったら、とにかく近づかないようにすることが身のためです。それが難しければ、「対象となるサイコパスの特徴をよく理解して、割り切った同盟を組む」という、矢幡氏のアドバイスを取り入れてみてください。サイコパスには攻撃力があるので、共通の敵や、ビジネスの競合相手がいる場合には強い味方となるはずです。
サイコパスに接する場合の心得・対処法は次のとおり。
- かかわらない・近づかない
- ウソがあると想定し、必ず発言の裏を取る
- 良心に訴えても難しいと理解する
- どんな場合でもお金を貸さない
- 共通のメリットが生じる場合のみ同盟を組む
***
矢幡氏によると、サイコパスの“たくましさ”は見習うべきなのだそう。一般社会における「困ったさん」程度のサイコパスなら、遠くから観察してみるのもいいかもしれませんね。
Live Science|Psychopaths' Brains Reveal Secrets of Their Immoral Behavior
MONOist|サイコパスがためらいなくうそをつく脳のメカニズム
プレジデントオンライン|職場に増殖中"サイコパス"タイプ別対処法 (長山 清子)
カラパイア|サイコパス(精神病質者)に見られる共通した20の特徴
Study Hacker|最初の印象だけで決めてはいけない! 「サイコパス」な仕事相手を見分ける手段【中野信子『カリスマの言葉』第14回】
Wikipedia|ロバート・D・ヘア
Wikipedia|前頭前皮質
設楽宗孝(2005),「動機づけと報酬期待の脳内情報処理 : 腹側線条体と前部帯状皮質のニューロン活動」, 日本生理学雜誌, Vol. 67, No. 9, pp.290-300.
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。