小説を読むのは時間の無駄じゃない? そう思っている人は多いかと思います。
確かに、小説のように時間をかけなくてもゲームやアニメ、映画など、作品を楽しむ方法はいくつもあるでしょう。しかし、実は小説はただ読んで楽しむだけでなく、人生の役に立つものでもあります。
そのためには、単に読むだけでなく、読んだ後にある3つのことを考えてみることだけです。読み終わった時にあなたが小説をどう読めたのか、つまり「読み方」次第で、小説はまさに“人生の例文集”になることがあります。
そこで今回は、私が実践している「小説を読み終えてから行う3つのこと」を紹介します。
はじめに:小説を最後まで楽しんで読むこと
せっかくの小説ですので、まずは楽しんで自分のペースで本を読み進めましょう。
わからない単語やいまいち理解できない会話があれば、調べたり読み直しても結構です。前提として、小説は娯楽であり、時間に追われながら無理矢理読む必要はありません。
まずは時間を気にせずに小説を最後まで楽しんで読んでください。全て読み終えたら、これから紹介する3つのことを実践することで小説が人生に役立つものになっていきます。
1:登場人物の人間関係を構造化する
改めて登場人物の人間関係を想像してみましょう。頭の中で人物相関図を描くイメージです。
小説の場合は映像と異なり、文章だけで人物たちの感情や状況を整理することになります。そのため少ない情報から登場人物を客観視する能力が磨かれるので、メタ認知力が高まります。
メタ認知(メタにんち)とは認知を認知すること。人間が自分自身を認識する場合において、自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握し認識すること。それをおこなう能力をメタ認知能力という。
(引用元:wikipedia|メタ認知)
このメタ認知力とは、要は自分や周囲の状況を一歩上から客観視する能力です。これは、ビジネスはもちろん恋愛や人間関係といったさまざまな課題の解決に役立ちます。
物事に対してはもちろん、自分自身を客観視することは自身の欠点なども見つけやすくなるでしょう。そうすれば、何か失敗したときでもすぐに原因を突き止めることができ、次に活かすことができます。
2:登場人物の価値観を吸収する
登場人物それぞれの価値観を整理してみましょう。
小説の魅力は、さまざまな人物の人生を仮体験できる点にあります。アニメや映画とは異なり、文章で登場人物の感情が文章でしっかりと綴られていることが多いので、小説を通してより多くの他者の価値観と触れることができます。
そして、多くの価値観を知ることにはいくつかのメリットがあるのです。
例えば、他者の価値観を許容し、頭ごなしに否定をしない姿勢を身につけることができます。また、多くの価値観はあなたにとって思考の引き出しとなり、それまでの自分ではできなかった発想が生まれるようにもなります。
3:作品の核を抽象化する
自分が重要だと思ったポイントを1つ選んでみましょう。
作品の魅力でも教訓でも何でも構いません。そのポイントを一段階抽象化して、小説からの「学び」に消化させることで人生に役立てることができます。
例えば、私が芥川龍之介の有名な小説『藪の中』を読んだ時の話です。 この作品は、山科の藪の中で、1人の男の刺殺体が発見されるところから話が始まります。その事件を巡り、検非違使が集めた3人の関係者の証言が語られていくのです。しかし、捕らえられた盗人、男の妻、巫女の口を借りて語る男の死霊、三者の証言はそれぞれ食い違い、結局真相は明らかにされない、という形式の短編でした。
私は「人間の主観の曖昧さ」「主観的で断片的な情報から、真実を追求する無意味さ」を本作のポイントだと考えました。そしてこれは、「コミュニティでトラブルや衝突が起こった際は、当事者たちの話からトラブルの原因を究明しつつも、今後の対処や方策の検討に持っていくべきである」という現在の学びに繋がっています。
このように小説には、さまざまな人生が詰まっており、さまざまな「学び」を得ることができるのです。
ぜひ、先人の経験や知恵が集まって生まれた小説を楽しみながら、その内容を人生に役立てていきましょう。
(参考) 三谷宏治著(2015),『戦略読書』,ダイヤモンド社 茂木健一郎(2015),『頭は「本の読み方」で磨かれる』,三笠書房 wikipedia|メタ認知 青空文庫|藪の中