量子力学について、どれくらいご存じですか? 量子力学は、われわれよりもはるかに小さな世界で起きることを記述するための理論です。
小さな世界での出来事なんて自分には関係ない、と思うかもしれません。数学が苦手な人にとっては特に、避けて通りたい分野でしょう。
しかし量子力学は、私たちの生活に大きく関係する理論なのです。
量子力学は「事実は小説より奇なり」を体現するような、とても不思議で興味深い学問。そんな量子力学のおもしろい話題を、やさしく楽しくお伝えしたいと思います。
量子力学はどんなところで役に立っているの?
まずは、量子力学が使われている現場についてお話しします。
量子力学は、われわれよりもはるかに小さい世界での出来事を記述するための理論。具体的には、電子などの状態を書き表すためのものです。
電子といえば、電気の担い手。つまり量子力学は、電気が物質をどのように流れるかを考えるために必要なのです。
たとえば、電気を流したり流さなかったりできる半導体は、まさに量子力学の知識が大活躍する領域なんですね。
量子力学の分野では「量子情報通信」も話題です。量子力学の特性をうまく利用すると、誰にも傍受されない「完璧な通信」が可能になると期待されているんですよ。
電子は見ていないと怠ける?
次に、電子の性質を量子力学的に考えてみましょう。突然ですが、大学で授業を受けるときの「怠け」を想像してみてください。
小さい教室の少人数ゼミでは、常に先生が近くから学生に向き合っているため、怠けるなんてなかなかできませんよね。
しかし、大教室での講義は別です。先生は何百人もの学生を常に見ていることなどできませんので、端のほうに座っていれば怠けていてもばれにくいでしょう。
じつは電子も怠け者です。われわれが見ているときは背筋をピンと張っているものの、見ていないときは怠けています。
ここで言う「見る」とは「観測する」ということです。そして、電子が怠けるとは「波になる」ということ。
われわれが見ているとき、電子は一点に集まって「粒」になります。一方の「波」とは、われわれが怠けるときみたいにだらんとして、空間に広がった状態です。
おもしろいのは、電子が「見られた」とき、どの一点に集まるかです。われわれがだらんと怠けていて、急に先生に見られ背筋をピンと張るとき、自分の席から動きませんよね。
しかし、電子がどの一点に集まって粒になるのかはわかりません。「ここに集まる確率は30%、あそこには40%」と確率を言うことならできます。
この確率は、怠けていたときの波の高さに関係します。波が高いところに集まる確率が高く、波が低いところは低い、ということです。
私たちが電子を観測していないとき、電子がどこに存在するのかは確率的にしか言えない、ということなのです。
量子力学的には、人間が壁をすり抜ける確率もゼロではない!?
電子が波の状態だと、確率は低いものの、壁などをすり抜けてしまうことがあります。これは「トンネル効果」です。
人体も電子の集まりですから、人を構成している電子がすべて壁を通り抜ければ、われわれは壁をすり抜けることができるのです!
しかし、その確率は限りなくゼロに近いもの。物理学において、確率が極端に低い現象は起こらないものとして扱われますから、「壁のすり抜け」は起こらないと言えるのです。
もしも将来、電子の「波」の状態を操れるようになったら、ドラえもんのひみつ道具「通りぬけフープ」も夢ではないかもしれません。
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お話しした内容は、量子力学に対するひとつの解釈です。ほかにもいろいろな解釈があるのですが、どの解釈を支持する立場になろうとも、得られる結果は同じ。
けっきょく、量子力学をどう解釈していいのか、明確に答えられる人はいません。
量子力学に多大な貢献をした物理学者、リチャード・P・ファインマンは次のように言ったとされています。
「量子力学を理解したと言うやつは、量子力学を理解していない」
自然界はまだまだ不思議に満ちています。時には、われわれの想像の及ばない、しかしすぐそばにある摩訶不思議な世界に思いを馳せてみるのもおもしろいのではないでしょうか。
【ライタープロフィール】
菊池隆仁
早稲田大学先進理工学部物理学科。理論物理学を中心に勉強に励んでいる。横浜サイエンスフロンティア高校卒業。