自信が持てないとき、心に不快な感情があふれているとき、あなたは自分の脳が勘違いしていないか確かめるべきかもしれません。ヒトの脳はとても優秀ですが、思い込みも激しいのです。思考を切り替えれば可能性が広がり、「自信」と「心地よさ」が手に入るはずですよ。
脳は思い込みが激しい
チューリッヒ大学のアイゼネガー博士率いる研究チームは、男性ホルモンのテストステロンを用いて、脳研究では有名な「最後通牒ゲーム」を被験者に行ってもらったそう(池谷裕二氏著『脳には妙なクセがある』より)。
「最後通牒ゲーム」とは、例えば1万円が被験者AとBに与えられた場合、Aは分配の割合を決めることができ、Bはそれを受けるか拒否するか決めることができるゲーム。しかし、分配が不公平だと感じBが拒否すれば、1万円は没収されてしまいます。拒否しなければ多少でも金銭を得られるにもかかわらず、分割比が20%(1万円ならAが8,000円に対し、Bが2,000円)だと、Bが拒否する率は5割にも上るといいます。
そもそもアイゼネガー博士は、男性ホルモン「テストステロン」の民間仮説に疑問を呈すため、この実験を行いました。そのため、まずは被験者Aに分からないようテストステロンを投与したそう。すると、「テストステロンは挑戦的かつ自己中心的になる原因」という民間仮説とは全く逆で、AによるBへの平均提示金額は良心的な40%に上昇したのだとか。
ところが、今度は「テストステロンを注射します」と被験者Aにわざと伝え、実際には偽薬(テストステロンではないもの)を投与し、その後ゲームを行ってもらったところ、今度はBへの平均提示額が30%にまで下がったとのこと。被験者Aが、支配的な強さをもたらすというテストステロンの効果を、信じ込んでいたためだと考えざるを得ません。
脳は根本的にネガティブである
前項の研究結果は、テストステロンの民間仮説を覆しただけではなく、プラシーボ効果(偽薬を薬だと信じ込むと何らかの改善がみられること)の実証にもなりましたが、「脳は思い込みが激しい」という考えの根拠にもなります。
それだけではなく、脳はマイナス面に注目するよう方向づけられています。なぜならば、脳は生命を維持するために、危険を回避することを最優先にしているから。昔ならば「猛獣に襲われるかもしれない」と、現代ならば「車や自転車にぶつかるかも」「盗まれるかも」「病気になるかも」と最悪の事態をシュミレーションして安全対策をとるわけです。
いずれにせよ、私たちが無意識に悪いほうへ、悪いほうへと考えやすいならば、実際には現時点で「それほど悪くない」状況である可能性が高いといえます。
思考方法を変えれば脳が変わる
思い込みが激しいネガティブ思考な脳を抱えているからこそ、思考方法を変えることにより、生き方を改善したり、精神状態を改善したりすることが可能です。そのため、多くのセラピストはCBT(認知行動療法)を採用しているのだとか。CBT(認知行動療法)とは、ものの受け取り方や考え方に働きかけて、気持ちを楽にする精神療法です。
2017年、医学誌トランスレーショナル・サイカイエトリーに発表された研究では、精神病患者にCBTを半年間続けた結果、患者の脳における扁桃体(悲しみ、嫌悪、不安、恐怖など“負の情動”に関与する領域)と、前頭前野(情動にブレーキをかけ理性を働かせる領域)の神経接続が強化されたそう。
また、同医学誌で2016年に発表された研究では、社会不安障害のある人が9週間のオンラインCBTを受けたところ、情動反応をつかさどる扁桃体の灰白質(神経細胞の細胞体がたくさん集まっている場所)容積と、活動が減少したのだとか。そのほかの研究でも、CBTが感情のコントロールを失った状態を改善する効果があると結論づけているそう。
ものの受け取り方や考え方に働きかける認知行動療法で脳の状態が変わるということは、「自信喪失」や「不快な感情」なども、思考方法を変えることにより改善できるということです。
思考を切り替えるコツ
これまでのことを踏まえ、自信のなさや、不快な感情を減らしていくために「思考を切り替えるコツ」をご紹介します。もしも、負の感情が襲ってきたら、ぜひ試してみてくださいね。
1.「自分はいま、本当に最低最悪か?」と問いなおす 2.直後に命の危険があるか、直後に破産しすべてを失うか確認する 3.いずれも当てはまらなければ、「脳の勘違いだ」と考える 4.「負の感情が起こった理由」を紙に箇条書きし、ビリビリに破いて捨てる 5.「さて次は」と心の中で唱え、立ち上がり場所を変え、ほかの作業をする
こうすることで、まずはいったん「負の感情」を手放すことができます。そのあとは自分次第です! 今日のランチはどこで何を食べるか決めるのと同じように、どう考え、どう行動するかで未来は変わります。“過去と他人は変えられない。しかし、いまここから始まる未来と自分は変えられる(※1)”のです。過去へのこだわりを捨て、生産的ではない思考を手放し、自分の未来を自由に操縦しましょう。
*** 思考をうまく切り替えて、「自信」と「心地よさ」を手に入れてくださいね。
(※1)精神科医のエリック・バーン氏又はウィリアム・グラッサー氏の言葉といわれている有名な言葉だが、誰の言葉であるか正確には分かっていない。
(参考) 池谷裕二著(2012),『脳には妙なクセがある』,扶桑社. 西田文郎(2015),『かもの法則 —脳を変える究極の理論』,パンローリン株式会社. Forbes JAPAN|きょうから始めるメンタル強化 脳を書き換える3つの思考法 認知行動療法センター|認知行動療法とは ITmedia エンタープライズ|嫌なことを書き出して、自分の手から離す (1-2) Wikipedia|偽薬 国立国会図書館|レファレンス協同データベース