自分の周りにいる人は、優れたアイデアを出したり、物事を多面的に考えたりするのが得意に見える。自分はどれも苦手なので、ついつい劣等感を抱いてしまう。ストレスを感じることも多い……。
そんなことばかり考えるのは、思考力をアップさせる「3つの習慣」を知らない証拠です。それらを身につけることで、グンと深く考えられるようになるはずですよ。そうなれば、多くの選択肢や可能性が増えていくはず。さっそく説明しましょう。
「考える」とは、思考の層を伸ばし広げること
テレビでもおなじみの心理学者・臨床心理士の植木理恵氏は、「考える行為は、連想の枝葉を伸ばすこと」だといいます。
たとえば、商談を控えている場合、「今日の商談は難しい」→「Aデータだけでは説得できないかもしれない」→「時間がない」→「Bデータなら他部署にあるかもしれない」→「なければ違うアプローチも考えておこう」とった具合に、連想の枝葉を2層、3層、4層と伸ばし広げていくことです。
深く考えないと、どうなる?
しかし、考えることが苦手な人の場合、多くの物事について「もう、これでいいや」「面倒だから、これに決めちゃおう」と、まったく枝葉を伸ばさず1層目ですぐに結論を出してしまいがちです。それにより、次のような弊害が起こると植木氏は伝えています。
【拡大解釈】
脳には、瞬時に類似した情報を集める働きがあるそう。そのため、深く考えられない人の場合、たとえばA先輩に何かを注意されたとき、「そういえばB先輩にも注意された」「上司にも叱られた」と脳が情報を集め、「みんなに嫌われているかも」と短絡的に考えてしまうのだとか。
その点、深く考えられる人は、「なぜ注意されたのか」→「事前確認していなかった」→「先走りした」→「だから、ほかの先輩にも注意された」→「どのタイミングで確認すればいいか」と思考の層を重ね、改善へと向かうはずです。
【自己関連づけ】
人は物事を、自分と関連づけ思考する本能があるそう。そのため、たとえば「今期は業績が悪い」「成果があがっていない」という内容を耳にすると、深く考えない人はすぐ「自分のせいだ」と思ってしまうのだとか。
しかし、深く考えられる人は、「なぜ業績が悪いのか」→「自分に非があるか」→「チームは成果をあげている」→「ではどこに問題があるのか」と、思考の枝葉を伸ばし広げて、自分の意見やアイデアへとつなげます。
【べき思考】
決断や回答を迫られると、深く考えられない人は、世間の規範になっている「べき」で判断してしまうのだとか。そのほうが考えずに済み、簡単だからです。したがって、自分がAだと思っていても、「世間的にはBだから」と、Bを選んでしまうのです。これがストレスをためる要因になるそう。
深く考えられる人ならば、「世間的にはB」→「だが、自分はAだと思う」→「Aを選ぶ根拠が必要だ」と、思考を広げて自分らしさを保ち、ストレスをためません。
【根拠のない勘ぐり】
深く考えられない人は、すぐに「本当はこう思っているんじゃないか?」と、根拠のない勘ぐりをするそうです。したがって、「〇〇についてアイデアを出してほしい」といわれると、アイデアを出すことに頭を使わず、「A部長はこんなアイデアが欲しいと思っているんじゃないか」と、誤ったマインドリーディング(読心術)に時間を割いてしまいます。
一方、深く考える人は、アイデアのために思考の枝葉をどんどん伸ばし広げて、ひらめく瞬間へと近づいていくわけです。
つまり、深く考えられない人は、思考の枝葉1層目で空回りし、自ら選択肢を狭め、認知バイアス(思い込み・勘違い・偏見)に陥り、誤った判断を早々に下してしまった結果、後悔してはストレスをためているのです。
植木氏によれば、考えない人ほどストレスがたまりやすく、心の病気にかかりやすいのだそう。思い当たるなら、次の「思考力をアップする3つの習慣」が役立ちますよ。
思考力アップ習慣1:とりあえず手で書く
東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏によれば、自分の手指を使った文章を書くなどの知的作業は、脳の前頭前野を活性化させるそう。
前頭前野は、記憶や学習に深く関連し、思考や創造性を担う脳の最高中枢ともいわれる領域。なおかつ感情を抑制する理性的な脳です。つまり、その部分が活性化するということは、客観的になれるということ。だからこそ、
- 疑問
- 引っかかること
- 目の前の問題
- 課題
などを、とりあえず手で紙に書く習慣をつけましょう。A4のレポート用紙などに、簡単な殴り書きをしておくだけでもOK。そのテーマを客観的に眺めることができ、自分の思考1層目だけで空回りすることを避けられます。
思考力アップ習慣2:とりあえず連想する
「疑問」「引っかかること」「目の前の問題」「課題」などを、紙に書いたら、
- 疑問を解こう
- 引っかかりを解明しよう
- 問題解決しよう
- 課題をやっつけよう
とは思わず、ただとにかく「連想」する習慣をつけましょう。もしも、便利グッズなどの新商品アイデアを出さなければならない場合は、「新商品のアイデア」と書き、アイデアを出そうとせず、たまたま目にしたものや、聞こえてくるニュースなどからヒントを得て連想し、書き出していきます。
たとえば「安全」「自転車」「ながらスマホ」「事故」「子供」など。続けて書いても、ひとつふたつ書いて置いておき、また気がついたら書くかたちでもOK。それを腑に落ちるまで続け、たとえば「子供がスマートフォンを見ながら自転車を発進しようとすると、ブザーが鳴る装置」など、保護者向けのアイデアにたどり着くといった具合です。
その際、いつのまにか、あなたの思考の枝葉が見える化され、「マインドマップ」が形づくられているはずです。その存在は、後にいくつものフレキシブルな発想をもたらしてくれることでしょう。
思考力アップ習慣3:とりあえず片づける
脳神経外科専門医で、北品川クリニック・予防医学センター所長の築山節氏は、著書『脳が冴える15の習慣』のなかで、忙しいときほど机の上を片づけるようアドバイスしています。
なぜならば、思考の状態はモノの整理に現れるから。身のまわりの整理は、効率的に順序よく、要るモノ要らないモノに分別し、片づけていくことがポイントです。ただ出したり移動したりでは、余計に散らかってしまいます。
それは思考も同じ。優先順位をつけて、整理していくことで、頭の混乱を防ぐことができるのです。手と頭を使って片づける行動は、思考の整理がシンプルであることを教えてくれるでしょう。
なお、仕事や勉強を始める前に、机の片づけをするといいそうです。いま必要でないものは片づけ、必要なものだけを残すという行為は、上司に「これだけ集中してやってくれ」といわれ、安心して迷いなく仕事をする状況を、自分で作るようなものだと同氏は述べています(『脳が冴える勉強法 覚醒を高め、思考を整える』より)。
頭のなかが整理され、シンプルになっていけばいくほど、研ぎ澄まされ、深く考えることが可能となるはずです。
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「思考力アップ」3つの習慣として、
- とりあえず手で書く
- とりあえず連想する
- とりあえず片づける
を紹介しました。無理なく脳を鍛え、思考の枝葉を無限に伸ばし、広げてください!
なお、『深く考えられないのは、思考が偏っているから。たった2つの “魔法の言葉” で「思考のバランス」を手に入れる。』には、自分の思考のクセを知り、思考バランスを手に入れる“魔法の言葉”を紹介しています。ぜひ、あわせてご覧くださいね。
(参考)
プレジデントオンライン|緊急チェック!「あなたの思考は、深いか浅いか」
東洋経済オンライン|子育て|スマホが脳の発達に与える無視できない影響
e.x.press|Bio Optics World|NICT、ヒトの協力行動における前頭前野の機能を解明
築山節著(2006),『脳が冴える15の習慣 ―記憶・集中・思考力を高める』,NHK出版.
築山節著(2012),『脳が冴える勉強法 覚醒を高め、思考を整える』,NHK出版.