ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏や、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らが大絶賛しているという世界的ベストセラー『ホモ・デウス』が、日本でも発売(2018年9月)され話題になっています。
しかし、そのなかには、著者でイスラエル人歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏が描く、まるでSF映画のような、人類にとって衝撃の未来が記されています。科学・医療技術のめざましい進歩を見ていると、「まだまだ先のこと」とは決していい切れません。
ならば焦らず急がず、ただ冷静に、今後重要となる「創造力」と「自己認識力」を鍛えていきましょう。
人類は今、神へとアップグレード中?
「今人類は、神へとアップグレードしている」とユヴァル・ノア・ハラリ氏はいいます。ホモ・サピエンスはわたしたち人間のこと、タイトルにもなっているホモ・デウスは、神の人という意味です。
現在人間はすでに、人工知能をつくり、牛肉の成分を含むトマトをつくり、2倍のスピードで成長するトラフグをつくり、亡くなった愛犬のクローンまでもつくっています。人類は、地球上の生物でははじめて、神だけに許された領域へと踏み込んだわけです。そして、その行為は、いずれ人間自身にも及ぶであろうとのこと。
具体的には、バイオテクノロジーとAIによって、新たな人類が生まれるということなのだそうです。それが「ホモ・デウス」――神と例えられた一部の超エリートです。これはもはや、1982年と2017年に公開された映画『ブレードランナー』の世界ではありませんか!?
ホモ・デウス以外は価値のない無用者階級に?
『ホモ・デウス』にはこうも書かれています。
私たちは新しい巨大な非労働者階級の誕生を目の当たりにするかもしれない。社会の繁栄と力と華々しさに何の貢献もしない人々だ。この無用者階級は失業しているだけではない。雇用不能なのだ。
(引用元:ユヴァル・ノア・ハラリ著,柴田裕之訳(2018),『ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来』,河出書房新社.)
ハラリ氏が予測する未来には、2種類の人類が存在するそう。絶対的エリートのホモ・デウスと、ただAIにデータを提供するだけの、社会的な価値を持たない“無用者階級”と呼ばれる層です。経済的ではなく、生物学的な不平等が生じるのだとか。しかも、ホモ・デウスはごく一部のエリートのみなので、人類の大多数は“無用者階級”だといいます。
これから大切なのは「創造力」と「自己認知力」
家に帰ったらAIに話しかけ、電話をかけてもらい、消耗品を補充してもらい、天気予報を聞いておすすめのコーディネートをアドバイスされ、いわれたままに装い、おすすめのレストランを予約してもらった挙句、外出先での会話までシミレーションされてしまったら、もはや人間に意思はなく、AIの支配下で「不揃いな“ゆらぎ”を持つデータとしてのみ価値がある」存在になってしまいます。
人間至上主義ではなく、データ至上主義になってしまう未来において、わたしたちが“無用者階級”に陥らないためにはどうしたらいいのでしょう。
するとハラリ氏は、「自分自身を知ること、自分が何者であるのかを理解すること」そして、「自分自身が判断すること」「創造力を持つこと」が必要だと説いています。これから大切なのは「創造力」と「自己認識力」というわけです。
創造力を鍛える方法 “違和感”に気づく
『創造力を鍛える マインドワンダリング-モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング』の共著者、中尾政之氏は、創造性についてこう語ります。
創造性とは、仮説を立てる力のことです。アブダクション(Abduction)や提案力、課題設定能力と言い換えてもいいのかもしれません。
(引用元:SCIENCE SHIFT|就活で、研究で 成果を生むには「創造性」を鍛えよう━東京大学 機械工学専攻・中尾政之教授インタビュー)
仮説を立てる・課題を設定するためには、「ここはこうすべきではないか」「ここがおかしいのではないか」といったように、違和感を持つことが大切なのだとか。何かに違和感を持たなければ、仮説を立てることもできないとのこと。“違和感”に鈍感だと、いわれたことをひたすら行う作業者にしかなれないと同氏はいいます。それではまるで、『ホモ・デウス』でハラリ氏が描いた未来の“無用者階級”……! でも、大丈夫。中尾氏によれば、“違和感”に対する感度を高めていくことは可能だそうです。
同氏が授業で生徒に指示していることを参考にすると、“違和感”に対する感度を高めていくためには、「身の回りで違和感があるもの」を写真に撮っておき、その“違和感”をノートなどに書いておくことが有効です。そうした行為を繰り返していくうち、何かの仮説を立てたり自分の考えを形づくったりする際に、“違和感”がひらめきにつながり、創造力が養われていくのだそう。
自己認識力を鍛える方法 自己と友に問う
『Insight(洞察力)』の著者で組織心理学者のターシャ・ユーリック氏が調査したところ、95%の人は「自分は自己認識ができている」と思っていますが、実際に自己認識できているのはわずか10~15%しかいないのだとか。ユーリック氏によれば、自己認識を獲得するには、「内面と外面」という2種類の自己認識に取り組む必要があるそう。その方法は以下のとおり。
内面的自己認識を高める方法
今日一日の仕事、あるいは今まで携わってきた仕事で、どれがもっとも楽しめたのかを考え、やりがいを感じた仕事のテーマとパターンを探してみましょう。もしも「企画を考えるのは楽しかったけれど、情報収集や分析は面倒だった」「ミーティングでアイデアを出し合い、方向性を決めるのは楽しかったが、それを資料にまとめるのは苦手だった」という具合であれば、「大局的な視点」がテーマで、「プランニング、スピーチ」がパターンだといえるかもしれません。
自分がやりがいを感じた仕事のテーマとパターンを探る行為は、自分に客観性を与え、自己認識力を高めてくれるでしょう。
外面的自己認識を高める方法
職場で、あなたの応援者であり、オブラートに包まず真実を伝えてくれる複数の「思いやりのある批判者」を探しましょう。そして、その人に対し、
・自分がチームに貢献できていること ・自分がチームの足を引っ張っていること
を尋ねてみるのです。とてもシンプルですが、そうすることで「他人が自分をどう見ているか」を認識できます。もちろん、耳が痛いこともあるでしょう。しかし、こうやって自己認識力を高めていくと、判断力やコミュニケーション能力も高まり、必ず未来に役立つはずです。
*** 衝撃的な人類の未来を予測した本と、「創造力」と「自己認識力」の高め方について紹介しました。そもそも人間は、何もないところから多くのものを創造してきたのです。自分を信じ、本来の力を発揮しましょう!
(参考) NHKニュース|けさのクローズアップ|おはよう日本人間は神になる!?『ホモ・デウス』とは SCIENCE SHIFT|就活で、研究で 成果を生むには「創造性」を鍛えよう━東京大学 機械工学専攻・中尾政之教授インタビュー Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)|自己認識ができる人はわずか15% 意識を変える方法は? ユヴァル・ノア・ハラリ著,柴田裕之訳(2018),『ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来』,河出書房新社. ユヴァル・ノア・ハラリ著,柴田裕之訳(2018),『ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来』,河出書房新社.