常にイライラして不平不満ばかりいう人のそばにいると、なんだか嫌な気分になりませんか? それには、科学的な根拠がありそうです。他人からの「ストレスの感染」と、簡単に手に入る「ストレス抗体」についてご紹介します。
他人のストレスは自分の脳に感染する?
ストレスは人の脳を変化させるといいます。そして最近、カナダ・カルガリー大学ホチキス脳研究所が行った研究により、他人から伝わってきたストレスは、あたかも自分が同じストレスを受けたかのように脳を変化させる可能性があると分かりました。
ジャディブ・ベインズ博士ら研究チームは、マウスのつがい(オスとメス)のうち、どちらか1匹だけに軽いストレスを与えたのち、再度パートナーのもとに戻し、脳内の反応を調べたそう。すると、ストレスにさらされ変化したマウスの脳と、残されていたパートナーの脳ネットワークが、同じように変化したのだとか。
ベインズ博士は、このマウスによる研究結果は人間にも当てはまる可能性があるとし、私たちも無意識のうちストレスに感染していたり、逆に感染させたりしているかもしれないと述べています。
ストレスが感染するメカニズム
ベインズ博士ら研究チームによれば、「ストレスが感染するメカニズム」は、ニューロンの変化がもたらす化学的シグナルなのだそう。ストレスを受けて活性化した脳の神経細胞が、「警報フェロモン」を放つため、そばにいる相手に伝わるということです。
このメカニズムが備わっている理由は、危険(ストレス)をキャッチした仲間が、ほかの仲間にも危険を知らせるためだと考えられます。ベインズ博士いわく、このメカニズムは、社会の中で絆を築いていくうえで重要な役割を果たす可能性があるとのこと。
とはいえ、ストレス脳に感染しつづけていたら、いいことはありませんよね。
慢性的なストレスがもたらすこと
ストレスとは、心や体にかかる外部からの刺激(ストレッサー)に適応しようとして、ストレス反応が引き起こされている状態を示します。
ストレス反応には、意欲の低下や、イライラに不安、抑うつなど心理的なものから、頭痛、肩こり、胃痛、腰痛、不眠といった身体的な症状のほか、飲酒量や喫煙量ほか仕事のミスが増えるなど、行動的なものまであります。
これが慢性化すれば、心や体の病気にもなりかねません。こんな状況は避けたいものですが、社会にはストレスを抱えている人が大勢いて、同じように、自分も何かしらストレスを抱える可能性はほぼ100%です。
では、いったいどうしたらよいでしょう。
笑顔だって感染する
そこでひとつ知っておいてほしいのが、「笑顔」も感染するということ。そのメカニズムはこうです。
「人は相手の表情を模倣しながら、相手が何を感じているのか知ろうとする」
脳研究者の池谷裕二氏著の『脳には妙なクセがある』によれば、南カリフォルニア大学のニール博士が126人の参加者に、表情から感情を読み取ってもらうテストを行ったところ、ボトックスを顔に注射(シワを解消するための美容施術)をした人は、表情を読み取る能力が低下していたのだとか。ボトックス注射は筋肉を弛緩させることから、表情が乏しくなってしまうことがあります。したがって、相手の表情を真似にくくなるため、それにより相手の感情まで読みにくくなってしまうのだとか。
人は笑う=口角をあげると、ドーパミン系の神経活動が変化するといいます。ドイツのオット・フォン・ゲーリケ・マグデブルグ大学のミュンテ博士らの研究によれば、たとえ強制的に笑顔に似た表情をしたとしても、同じことが起こるそう。
ドーパミンは快楽に関係する神経伝達物質。つまり、ニール博士の研究からいえることは、私たち人間は笑顔の人を見ると、その人の感情(脳の状態)を知るために、同じように自分も笑ってみます。そこでドーパミンが分泌され、自分も楽しくなってしまうのです。これが「笑顔感染」の正体だと考えられます。
そして、「笑顔」のチカラはそれだけではありません。
笑顔がもたらすこと
慢性的にストレスにさらされていると、体内にある「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」という免疫細胞の働きが低下して、体調を崩しやすくなるそう。 NK細胞は体内をパトロールしては、さまざまな病原体を見つけ撃退してくれる、頼もしい存在です。
そして、このNK細胞を活性化させるのが「笑顔」なのです。
先述したとおり、笑顔の模倣だけで私たちの脳は楽しいと感じてしまいます。おまけに、その笑顔を見た人は、その表情を読み取ろうとして笑顔を模倣するので、一緒に楽しくなるというわけ。池谷裕二氏も著書に記していますが、中国禅宗の歴史書『五灯会元』には「怒れる拳笑面に当たらず」という言葉があります。怒りには、笑顔で対処するのが一番効果的だということ。ストレスも同じです。
それに、笑顔は「楽しいこと」「面白いこと」を見出す能力までも高めてくれるそう。また、笑顔によって楽しい気持ちになれば、記憶力や集中力を高め、問題解決を容易にする効果だって生まれます。
ストレス感染に有効な抗体とは
つまり……、ストレス感染にもっとも有効な抗体は「笑顔」なのです。単純で恐縮ですが、これ以上に簡単で効果的な方法はほかにありません。笑顔の人のそばにいき、自分も笑顔をつくりましょう。1人のときだって笑顔です!
もしも「いまは笑える気分じゃない……」というのであれば、割りばしを横にくわえてみてください。自然と口角が上がります。筆者も気分が下降気味だったり、集中できなかったりするときはこうしてみます。ドーパミンがじわじわ分泌されているせいか、不思議と快活になり、集中力も回復しますよ。ぜひ一度お試しを。
*** ベインズ博士らによるマウスの研究では、メスの場合、ストレスを受けていないパートナーと過ごすことでストレスによる脳の影響が半分にまで減少されたそうですが、オスの場合は、なかなか減少しなかったそうです。男性のほうが回復力が遅いのかもしれません。笑顔作戦で対処してくださいね!
(参考) カラパイア|他人のストレスは伝染する。細胞レベルで自らの脳を変化させていることが判明(カナダ研究) こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|1 ストレスとは:ストレス軽減ノウハウ 日経ビジネスオンライン|NK細胞は「笑顔」と「乳酸菌」で活性化する 漢字ペディア|いかれるこぶしショウメンにあたらず 池谷裕二著(2012),『脳には妙なクセがある』,扶桑社.